第26話



 研究所では増改築が行われいる。P3 room、その奥に鍵付きの新しい部屋ができるそうだ。オオサワは何をしようとしているのか。P3 room、あらゆる病原菌を操作できることが許されている部屋。実験器具の搬入は許されているが、一度運び込まれた物は外へ出すことは許されない。外へ出すにはそれ相応の処置が必要だ。たとへば高圧蒸気滅菌、もしくは焼却など。人は? 専用の作業着に着替えなければならない。勿論、その部屋で使った衣服は持ち出せる訳が無い。そんな部屋の奥にもうひとつ研究室を作るだと? 一体何をしようというのか? コミネはそう思う。


 P3 room の前で立っていると、コミネの肩を叩く者がいる。免疫学研究チームの一人だ。

コミネは振り返りニコリと笑う。相手もニコリと笑うと、その手に数枚のコピー用紙を持っていた。


「先生、こんなの興味ありませんか」


コミネはコピー用紙を受け取り、どんな記事をコピーして来てくれたのかと目を通してみる。海外から出た最新の情報だ。然し、表題が面白い。


「興味ありませんか」


再び免疫学研究チームの一人タケダが問いかける。


「これ面白そうですね、でも私は英語が苦手なので、研究員室に戻ってゆっくりと訳す事にします。先生、ありがとう」


「でしょ、先生の興味をそそる内容だと思いますよ」


「ええ、既に唆られていますよ。早速、部屋に戻って読んでみます。いつも興味深い論文を紹介してくださって、感謝感謝です」


「いいえ、ゆっくり読んでください」


 コミネは数枚のコピー用紙を持って研究員室へと歩いて行った。

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