第2章 氷の魔法師
常に人で賑わっている場所に、更に観光客…。
「はぁー…ダルい」
アルスは、深くため息をついた。
深めに被っていたフードを更に深く被り顔を隠す。
人混みは苦手だが、今日はシオン都市で魔法入試試験が行われる。
試験は「火・水・土・風・雷・光・闇・聖・魔・〈氷〉」の属性を持つもの達が対戦式で競いあう。勝敗は関係なく力量を確かめられる事になるのだが、氷属性だけ〈氷〉なのは、シオン都市の歴史上仕方ない事なのかもしれない。
なにより、氷属性を持った者は魔法入試試験を受ける者がいないのだ。
受けようものなら、観客に非難の声を浴びせられるだろう。
ただ、この魔法入試試験。合格すれば、軍事資格・魔物討伐への許可がおりる。
なにより、国家で管理している図書館への出入りが可能になるのだ。
アルスは、それを目指していた。
シオン都市には図書館がない。歴史を学ぶ機会がないのだ。
地層に戦の跡地・旧シオン都市が、そのまま残っているからこそ、有名になったのにも関わらず
「氷結の女王が戰で氷で閉ざした旧シオン都市」
ただ、それだけである。
噴水に目をやると、さっきまで元気に…てか、うるさい…と思ってしまったガイドに目がいった。
楽しそうに噴水を覗き込む観光客達から少し離れ、寂しそうな顔を浮かべていた。
そんな、ガイドの表情もだが、容姿に目がいく。知人の女性に似ていたのだ…知人と言っても、もう この世に存在しない エルフ族だが…。
アルスは指を立てると、小さい結晶を作り上げる。
結晶を包み込むように柔らかい風が指先で吹きつける。
風の妖精(フェアリー)がアルスの指先に頬を寄せていた。
「フェアリーも手伝ってくれるの?ありがとう。あの ガイドさんに届けてくれる?」
知人の女性の言葉を思い出す。
『あのね。私に妹がいてね!とても、可愛い子なのよ。』
少しでも あの元気なガイドの子が笑顔になれたら…。そんな事を思いながら、アルスは、その場を立ち去った。
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