インヴェス

「まさか、俺がこんな子供五人に負けるとはな」

「まだ、意識あんのかよ。案外意地汚いんだな、傲慢の悪魔は」



 俺は倒れこんだルシファーを見下すように立っていた。



「なぜ最後魔法が使えなくなった……?」

「ここら一体の魔素を全て消失させたからな。例え悪魔といえども、今のお前は人間の体を使っている。なら、空気中の魔素を使用しての魔法しか使えない。」

「そういうことか。その為の大罪魔法ってことか」

「確かにあれじゃあんたみたいな悪魔は抑えきれないよな。けどよ、しょうがないんだこれが今の人類の限界なんだからな」

「大罪魔法さえも囮に使う人間がいるとはな……」



 ルシファー、光樹が持っているデヴァイスでは半径百メートル内の魔素しか感知できない。

 それに対して大罪魔法の魔導書を使ったソフィは半径三百メートル内の魔素を自由に扱うことが出来る。

 つまり、大罪魔法を発動させるために、半径三百メートル内の魔素を全て使い切った為、ルシファーは最後、魔法を発動させることが出来なかったのだ。



「いや、ははは! 流石逸人だね。ルシを倒しちゃうなんて」



 能天気な声を上げて、光咲は俺の肩を叩いた。



「お前がやってくれれば俺が苦労する必要はなかったんだがな」



 俺はやれやれと額に手を当てた。



「まさか、お前が人間側に付くとはな。ベルフェゴール」



 ルシファーは光咲を見てそう言った。



「あの引きこもり姫が外に出るとは」

「それだけ、面白い人間に出会ったってことさ」



 光咲は笑って答えた。



「確かに面白い人間ではあるな」



 段々とルシファーの声が小さくなっていく。



「今回は借りのもの姿だったが、オリジナルはこうはいかないぞ」



 ルシファーは小さく笑いそのまま意識を失った。



「次もあるみたいな言い方は止めて欲しいな……」



 彼にはきっと聞こえていないだろうが、俺はそう呟いた。






「ま、まずい……。このままでは……!」



 理事長室にて慌てふためく影が一つ。



「まさか、大罪魔法を有した人間が負けるとはっ!」



 この部屋の主、理事長はモニターで暴走した光樹を倒す、逸人たちの姿を確認していた。



「このことが公になれば、私は、私は……!」



 理事長はこのままここにいるのは得策ではないと考え、急いで荷物を準備し、ここから去ろうとしていた。



「こんなところで捕まるわけには……!」



 必要最低限のものを持ち、理事長は部屋から飛び出す。



「おっと、どこ行くんですか?」

「!?」



 部屋の外には既に誰かが待ち構えており、理事長は驚いて、後ろにしりもちをついた。



「な、何故、君がもうここにいる! 上蔀逸人!」



 名前を呼ばれた逸人はニヤニヤと笑いながら、足元に置いてあったスマホを拾い上げる。



「これはマーカーって言ってね。転移魔法を補助する役割があるんだ。と言っても、これだけがあっても転移魔法は簡単ではないけどね」

「転移魔法だと……? 馬鹿な! あり得ない!」

「あ、そう言うのはもういいんで。散々やった後なんで。とにかく、黒幕があんたってことでいいのか?」

「黒幕、だと? 何を言っている」

「とぼけても無理ですって。調べはついてるんです。大罪魔法のレプリカを作り、生徒会長に移植したのはあんたでしょ?」

「そんなわけがあるはずなかろう。魔法の人体実験は禁忌とされている。しかも、大罪魔法となればさらに罪は重いだろう。そんなことを私がするわけ……」

「するんだよ。あんたなら。いや、あんたらなら」



 逸人はそう言って、理事長の髪を引っ張った。



「な、何をする!」



 必死に抵抗する理事長だったが、彼のかつらはあっけなくずり落ちてしまった。

 それと同時に理事長の頭部にある紋様が露わになった。



「その紋様、魔女の烙印だな」



 魔女の烙印。それはインヴェスという過激派宗教の信奉者に刻まれるもの。



「やはり、インヴェスが関わっていたか。あんたらは全員もれなく指名手配者だ。もうこの学院にはいられないな」


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