月末試験
逸人たちが祇嶋学園に入学してから二週間が経った頃。
「月末試験の勉強を教えて欲しい?」
「そうなんです」
とある日の放課後、逸人の部屋に訪れたソフィは逸人に魔法の教えを乞うのだった。
「待ってくれ、まずその月末試験ってのを教えてくれよ。俺の前いた学校じゃそんなのなかったぞ。中間試験とか期末試験とかはあったけど」
「月末試験はその名の通り、毎月末に行われるテストのことです」
「毎月!? そんな頻繁にテストを行ってんのかよ。意味あるかそれ?」
「この学園で問われるのは学力ではなく魔法力なのです。魔法力とは学力と違い、日々の成長速度が速いのです。人によってはいくつも新しい魔法が使えるようになったりするので、月単位で行わないと、生徒の成長具合が測り切れないのです」
「あ~、もしかして期末試験ってよりは、体力テストみたいなものか?」
「そうですね。一般的な学校だとその認識の方が近いかもしれません。試験も筆記ではなく、魔法実技なので」
「なるほど。で、勉強教えて欲しいってのは魔法の勉強か?」
「そうですね、それもあるのですが……。学力は問われないと言っても、魔法を上手く扱う為には、どうしても知識が必要となってきます。なので、そこに関しても教えて頂きたいのです」
「う~ん……」
逸人はソフィの頼みに違和感を覚え、答えを渋った。
「あの、何か問題があったでしょうか?」
「聞きたいんだが、なんで俺なんだ?」
「と、言いますと?」
「いやだってよ、俺はこの学園に来たばかりだし、月末試験の存在すら知らなかったんだぜ? そんな俺に教えてもらうより、もっと他にいるだろ。成績良いやつとか」
「それは……」
ソフィは言いにくそうに口をつぐんだ。
「お前が魔法を使えないことと関係あるのか?」
「うっ……」
ソフィは何も言わなかったが、その反応で逸人は察した。
「大方、魔法もろくに使えないお前に時間を割く余裕がないってとこだろ? ここにいる連中は周りのやつら全員をライバル視していて、自分を磨くために必死なやつらばかりだ。それはそうだよな。ここは競争率の高い受験戦争を乗り越えた連中ばかりが集まる場所だもんな」
女生徒たちを隠し撮りしている少しばかり変わった連中もいるが、逸人はここではあえてそのことには触れなかった。
「で、教えてくれる人がいなくて仕方なく俺のとこに来たってことか?」
「そ、その通りです……」
ソフィはすべて言い当てられて素直に白状した。
「別にそんな委縮しなくてもいいぞ? 勉強くらい見てやるよ。俺は他の連中と違って月末試験とかってやつに執着してないしな」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、俺は金さえ積めば何でもやるさ」
「あ、お金は要求するんですね」
「当たり前だろ。俺がタダ働きするとでも思ったのか?」
「いえ、そう言えば上蔀さんはそう言う人でしたね。いいですよ。勉強を教えてくれるのでしたら、いくらでもお支払いします」
「よし、それじゃ早速今からやるか」
そうして、逸人たちは魔法を自由に使える訓練場へと向かい、魔法のお勉強をするのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
月末試験が終わり、ゴールデンウィークを挟んで試験の結果が発表された。
「上蔀さん!」
ソフィは試験結果の記された用紙を握りしめながら逸人の元に駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「全然ダメでした!」
ソフィは落ち込むわけでもなく、当たり前のようにその結果を受け入れていた。
「だろうな」
逸人自身もソフィの試験がダメだったことは試験勉強をしている時から予想していた。
「ちょっと見せてもらってもいいか?」
「はい、どうぞ」
逸人はソフィから試験結果の用紙を受け取る。
「ま、全体的に予想通りって感じだな」
ソフィの月末試験結果、オール測定不能。
測定不能とはソフィのポテンシャルが高すぎるために出た結果ではない。
魔法を発動しようとするたびにデヴァイスが壊れてしまう為、試験にならなかったのだ。
魔素吸収率を測る為の水晶も、ソフィが触れた瞬間、粉々に砕けてしまった。
その結果、測定不能という扱いになったのだ。
「やはり、機械音痴の私では魔法を使うことは出来ないのでしょうか?」
「果たして、これは機械音痴が原因なのか? なんか別の要因な気もしなくはないが……」
「そうなのですか? もしそうなら、私が魔法を使える方法が別にあるのでしょうか?」
「ちょっと思いついたことがあるんだが、それを試してみるか?」
「本当ですか!? 少しでも可能性があるのなら、やってみたいです」
「だが、そのためにはかなりの金が必要になるんだが……」
逸人は言いにくそうに言葉を渋りながら、ソフィの方を見た。
「お金ですか! いいですよ! いくらでも出します!」
「よし来た! じゃあまずは……」
早速、逸人はソフィに魔法を扱えるかもしれない方法を教えようとした。だがその時、余計な邪魔が入った。
「なぁ! 逸人~! 見てくれよこれ!」
逸人とソフィの間に入ってきたのは、和樹だった。
「なんだよ。後でじゃダメなのか?」
「冷たいな~。もっと親友の言葉に耳を傾けてくれてもいいんじゃないか?」
「いつからお前と俺が親友になったんだよ」
「あ! なんだ! そんな言い方すんのか! まさか、あのことを忘れたんじゃないだろうな」
「あのこと? なんだよ、あのことって」
「もら、例のやつだと」
「例のやつ……?」
意味深に言葉を濁す和樹に逸人はその例のやつが何かを思い出そうとした。
「あ~、あれか」
それは女生徒の隠し撮りの件だった。
「まぁ、別にこっちは急ぎじゃないからいいけどさ。で、何の用だ?」
「これだよこれ。見てくれよ」
そう言って和樹が渡してきたのは月末試験の結果用紙だった。
「俺は別にお前の成績に興味なんかないんだが?」
「そんなこと言うなよ。俺にとっては一大事なんだ。何とかしてほしいんだよ」
「なんだ? お前も俺に魔法を教えてくれとかいうんじゃないだろうな」
「お、察しがいいね。その通りだよ」
「じゃあ、金を出せ。俺はタダでは働かん」
「そこは親友のよしみで、な?」
「親友のよしみ~?」
和樹の言っている意味が分からず首を傾げる逸人だったが、例の隠し撮り写真の借りがあることを思い出した。
「分かった分かった。お前もついでに見てやるよ。流石にソフィほどは手がかからんだろうし」
逸人はソフィ以上に魔法が使えない人間はいないだろうと思い、和樹の頼みを安請け合いした。
「で、お前の成績はっと」
逸人はそこで初めて和樹の成績を見た。
「んな! 何だこの成績は!」
その結果を見て逸人は愕然とした。
和樹の月末試験結果、オールゼロ。全ての成績が最低値だった。
「お前、まさか月末試験サボったのか?」
「ちげぇよ。ちゃんと試験受けたよ。それでその結果。入学してからずっとそれだ」
「そんな、バカな……」
オールゼロ。それは魔素吸収率もゼロと言うことだ。
魔素吸収率がゼロ。それが意味するのは、魔法が使えないと言うことだ。
魔法を使うために必要な魔素。和樹はそれを全く集めることが出来ないのだ。
「そんな人間、過去に例はないだろ。魔素吸収率ゼロって……」
逸人は頭を抱えた。
別の意味で魔法が全く魔法を使えない二人の面倒を見なくてはいけない、その事実に逸人は大きくため息をつくのだった。
「てか、気になったんだが、お前ら今までよくこんな成績で退学にならなかったな。普通ここまで成績が悪ければ退学ないしはそれなりの罰則みたいなのがありそうだけどな」
「それなら問題ない。この学園に退学というものは存在しない」
「退学がない?」
「特別な事情があって本人が退学を申し出ない限り、学校側から退学者を出すことはないんだよ」
「それって何か理由でもあるのか」
「それはですね、学校名誉のためとでも言うのでしょうか。この学園への入学希望者は多く毎年過酷な受験戦争が行われます。そんな中選ばれ入学した生徒の中から成績不審で退学者など出したら、この学園の生徒を見る目がないんじゃないかと疑われてしまいます」
「ああ、なるほど。この学園から不合格を食らったやつらのクレーム対策か。確かに、退学になるほど成績が悪いやつらを入学させたとあっちゃ、ギリギリで受からなかった奴らが黙っちゃいなさそうだな」
「そう言うことです。私たちは数多くの受験者たちの屍の上に立っているのです」
「屍って……。それ、日本語的あってるのか? 死んではいないだろ」
「あれ? そうでしたか?」
「んま何でもいいが。で、なんでその選りすぐられた人材の中にお前たちみたいなのが混ざってんだよ。裏口入学でのしたのか?」
「「…………………」」
逸人の問いに、二人は黙って目を逸らした。
「したのか……」
「いや、あの、裏口入学と言うか、なんというか……」
言い訳しようとしたソフィに逸人は手を前に出して、それを止めた。
「別に裏口入学に対して文句を言うつもりはない。が、それによって俺が迷惑をこうむっている事実にちょっと複雑な感情が湧いただけだ」
「なんだよー! 裏口入学が悪いってのか!」
「一般的には悪いぞ。俺は気にならないからいいけど、他の生徒が聞いたら多分ブチ切れてるぞ」
「確かに。前に裏口入学だって言ったらめっちゃキレられた」
「経験済みかよ……」
「そうなのですね。気を付けます」
和樹と違い、ソフィの方は裏口入学だと言うことを他の生徒に言っていない様だった。
「ソフィの場合、家が家だから、みんな察していると思うけどな」
「うん、それはあるな。俺もソフィは受験しないでそのまま入ったって思ってたし」
和樹は首を縦に振り、逸人の言葉を肯定した。
「そうですね……、私の場合はお姉さまたちとは少し違うのですが……」
歯切れの悪いソフィに逸人は少し違和感を覚えた。
「何かあるのか?」
「いえ、今は関係ない事ですからお気になさらないでください!」
深く聞かれたくなさそうなのを察し、逸人はそれ以上何も聞かなかった。
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