生徒会選抜試験Ⅱ

「えっと、藍紗のやつはっと……」



 仕方なく中央島のドームへと来た俺は藍紗の姿を探す。

 観客席はクラス順などではなく、自由席となっている為、雑多な感じとなっていた。そして、それのせいで藍紗の姿を探しにくくしていた。



「おい、こっちだ」



 誰かに制服の裾を引っ張られ、人混みの中から強引に引きずり出された。



「お、藍紗見っけ」



 逸人の制服を引っ張ったのは藍紗だった。



「それとソフィも一緒か」



 藍紗の隣にソフィも立っていた。



「私に対しては何もないのね」

「何もないって言うか。なんで一緒にいんだ?」



 ふてくされたように頬を膨らませていたのは昨日、逸人と戦った朱音だった。



「別に私がいてもいいでしょ。それとも何? なんか問題でもあるの?」



 若干怒っている様子の朱音だったが、逸人は木にした素振りも見せずに、観客席に座りアリーナの方を見ていた。



「別に文句なんかねぇよ。どうせあれだろ? 一緒に見る友達がいないんだろ? 分かるよ。お前、友達いなさそうな性格してるもんな」



 逸人は厭味ったらしく朱音にそう言った。



「しっつれいなやつね! 友達くらいいるわよ! と言うか友達と見に来て、たまたまそこにアンタが来ただけなんだけど!」

「友達……?」



 不可解に思いながら逸人は朱音の方を向く。そして、そのすぐ横に立つソフィに目をやった。



「まさか、お前ら友達だったのか」

「何よ! その意外そうな反応は!」

「いや、だってよ……」



 逸人は昨日の二人のやり取りを思い出していた。



「なんか他人行儀な話し方だったじゃん、お互いに」

「そうだったかしら?」

「私はそんなつもりなかったですけど……」



 どうやらお互い無自覚だったようだ。



「あ、これはあれだ。どっちも今まで友達がいなかったせいで友達とどう話していいか分からずに、他人行儀になっちゃったやつだ」



 逸人はこれまで二人に友達と言う存在がいなかったことを察し、心の中で同情するのだった。



「取り合えず、二人が友人関係云々は置いておいて、この生徒会選挙って何すんだ? 普通のテストじゃないって聞いたけど」

「ここでは魔法を使った仮想戦闘が行われるのよ。そして、その成績上位五名が生徒会になれるの」

「仮想戦闘? 昨日俺たちがやったみたいのか?」

「ん~形式は毎年異なるけど、大体一緒ね。人同士で戦うこともあれば、仮想ロボとの戦闘もあるわ」



 逸人の問いに懇切丁寧に答える朱音には昨日の様なトゲトゲした雰囲気は感じられなかった。



「今年は何をやるんだ?」

「仮想ロボとの戦闘よ。ロボには複数種の種類が存在し、強さもバラバラ。そして、強い順に高い点数がつけられているの。成績の付け方はロボを倒した時の点数の合計点よ」

「仮想ロボとの戦闘かぁ。てか、多分だけど、昨日の模擬戦闘の時、そのロボ使った点数勝負だったら俺負けてたぞ。明らかに火力出せるお前の方が有利じゃん。なんでそうしなかったんだよ」

「そんなの決まっているじゃない。今あなたが言ったのが、まさに理由よ」

「俺が言った?」

「圧倒的に私が有利だからよ。火力面に関してもだけど、仮想ロボはある程度の戦闘経験をすれば、どのような動きをするか読めるわ。所詮はプログラミングされた通りに動く機械だもの。だから、仮想ロボとの戦闘経験のある私がさらに有利になるって訳。そんな状態で勝ったって意味ないじゃない」



 どうやら朱音には朱音なりのポリシーがある様だった。



「ふ~ん、まぁ今更いいけど。でも、見直したわ」

「な、何よ急に」

「いやさ、言い訳しないんだなって。昨日負けた時、この戦いなら勝ててたとか、もう一度勝負とか言わなかったからさ」

「そんなの言うわけないじゃない。正直、昨日の戦いであなたの実力が本物だって分かったわ。今更ケチ付けるつもりもないわ」

「ふ~ん、そうかい」



 逸人はそれ以上ツッコむような野暮はしなかった。



「この仮想ロボとの戦闘方式については分かったが、点数配分はどうなってるんだ?」

「仮想ロボの種類は大きく分けて四種類よ。第一位階魔法しか使えないCランク、これが一ポイント。第二位階魔法まで使えるのがBランク、これが五ポイント。第三位階まで使えるロボがAランク、これは十ポイント。そして、最後に第四位階魔法まで使える最強のSランクロボ、これは倒すとなんと百ポイント貰えるの」

「なんだそのガバガバな点数配分は。そのSランクのやつ倒せば勝確じゃん」

「馬鹿ね。そんな簡単に倒せないから、こういう点数設定になっているの。今までSランクロボを倒せた生徒は過去に一人だけよ。早々あんな怪物に挑むやつはいないわ。第一、第四位階魔法を使う相手に勝てる訳がないじゃない。第四位階魔法と言えば、人間がギリギリ使いこなせる最高の魔法よ。対抗手段である同じ位階の魔法を使える人なんてこの世界に一体何人いるか」

「第四位階魔法を使いこなせるバケモノみたいなロボねぇ。そんなの量産出来たら世界征服できそうなもんだけどな」

「そうね。出来たらね」

「あ? 出来てるんだろ? 現に今これから、そのロボが出てくんだろ?」

「言ったでしょ。仮想ロボよ。実物じゃないわ。魔法によって生み出される、このアリーナ限定で出現する幻覚みたいなものよ」

「んじゃ、世界征服は無理か」

「当たり前じゃない。そんなのが当たり前にあったら、今頃世界のあちこちで戦争の嵐だわ」

「…………確かにな、でもお前は疑問に思わないのかよ」

「疑問にって? 何をよ?」

「いや、分からないならいい」



 逸人の意味深な言葉に首を傾げながらも、戯言だと受け取った朱音はそれ以上は何も聞かなかった。



「あ、そろそろ始まるみたいね」

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