生徒会選抜試験Ⅰ
――――翌日。
「あれ? 誰もいねぇ」
朝、逸人が教室に行くとそこには誰もいなかった。
「教室は……間違ってねぇよな」
廊下にある札には二年五組と書いてあり、確かにそこは逸人のクラスだった。
「今日学校休みだったか……? いや、そんなことないよな。今日は平日だ。う~ん……」
逸人がどうしたものかと考えあぐねていた時、後ろから声をかけられた。
「あ、転校生じゃん」
逸人が振り向くとそこには一人の男子学生が立っていた。
「え、誰?」
「誰って、ひどいな~、同じクラスじゃん」
チャラそうな感じの雰囲気な彼は気安く逸人の肩にぐるっと手を回してきた。
「同じクラスつっても俺は誰一人から名前を教えてもらってねぇぞ」
そうなのだ。逸人はクラスメイト達から避けられていた為、誰一人として名前を知らない。
つい昨日、朱音の名前だけ知ったのだ。
「それもそうだ、俺も名前教えてねぇわ。あはは!」
名も知らぬその学生は大声で笑い出した。逸人は何が面白いのか分からず首を傾げていた。
「俺の名前は
「よろしくするのはいいが、俺は転校生って名前じゃない。上蔀逸人だ。てか、俺の方は自己紹介しただろ」
「まぁ、なんだ。細かいことは気にすんなよ」
「細かくねぇよ。人の名前だぞ」
逸人は小さくため息をついた。
「それで、この際誰でもいいから聞くんだが、なんで誰も教室いねぇんだよ」
「ああ、それなら今日は生徒会選抜試験だからな。今日一日その観戦だよ」
「生徒会選抜試験? なんだそれ?」
「文字通り、生徒会を決める為の試験さ」
「生徒会って普通選挙とかで決めんじゃないのかよ」
「ウチの学園は特殊だからね。この学園では魔法が全て。だから、生徒会メンバーは魔法の成績が上位の者しかなれないんだよね。で、今日はその上位成績者を決める為の試験って訳」
「この学園が魔法で何でも決めたがるのは分かった。けどよ、なんでその試験を俺たちが見んだよ。必要あんのか?」
「試験と言ってもペーパーテストじゃないよ。模擬戦闘で魔法力を測るんだ。しかも、その選抜試験に出る生徒は第三位階以上の魔法の習得が絶対の参加条件。つまり、選りすぐりの学生ばかり集めた模擬戦闘が見れるんだ。普通の座学よりも勉強になることが多いから、毎年生徒会選抜試験は全生徒で観戦って訳さ」
「なんとなく概要は分かった。みんなその観戦に行っていてここにいないのも分かった。でだ、お前は何でここにいんだ?」
「そんなの決まってるじゃないか! サボる為さ!」
悪びれもなく和樹はそう言い切った。
「いいのか?」
「いいも何も。出席確認は自席の机にデヴァイスをかざすことで行われてて、観戦会場じゃ行われない。だから、今ここでデヴァイスをかざせば、それ以降どこで何していようがバレないのさ」
「え? マジ?」
「マジもマジのおおマジさ。ちなみに出席確認のデヴァイスかざしをした後に授業を出ないことをピー逃げと言う。デヴァイスかざした時にピーと言う音が鳴るところからこの名は来ている」
「え、じゃ俺もそのピー逃げしよ」
元々授業の参加意欲などない逸人にとってはありがたい話だった。
和樹と一緒に観戦をサボろうとデヴァイスを机にかざそうとした時、そのデヴァイスから着信音が鳴り響いた。
デヴァイスは魔法発動に必要なものであるが、それと同時に通話機能もついている。
「はい……もしもし……」
デヴァイスで電話に出た逸人の声は弱々しかった。何故なら、その通話相手は……。
「あんた、今どこで何してんの?」
「ゔ、藍紗……」
「なんだ、その反応は。今日が生徒会選抜試験だって知らないかと思って電話したんだが、その様子じゃ知っていて、サボろうとしてたな」
どうやら長い付き合いの藍紗には逸人の考えていることは筒抜けの様だった。
「観戦会場は中央島にあるドームの中だ。早く来い」
「はい……」
藍紗に凄まれ逸人は泣く泣く首を縦に振った。
「くっそ……。おい! 俺だけ行くんじゃ不公平だからお前も……」
通話を切り、和樹も道ずれにしようと声をかけようとしたが、既に彼の姿はなかった。
「あの野郎、逃げやがった!」
逸人は誰もいない教室で鬱憤を晴らすかのように大声で叫ぶのだった。
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