テレポーテーション
「上蔀さん、この食器はどこに?」
「あ~、メシは学食で済ませるから、適当に戸棚の奥にでも入れといてくれ。多分、使わない」
「はい、分かりました」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
小鳥居は狭い室内でバカでかい声を上げる。
「うるさい。そんなに騒ぐな。隣の部屋のやつに迷惑だろ」
「見知らぬ隣人に配慮できるなら、私にも配慮しなさいよ! 急に連れてこられたと思ったら、何これ!」
苛立ちを隠さない小鳥居は床をバンバン叩いた。
「何って、見りゃ分かんだろ。荷解きしてんだよ。お前のせいで時間潰れたんだから、黙って手伝えよ」
そう、今俺たちは寮の一室で荷解きをしている。
寮の部屋は一Kで風呂とトイレ別。キッチンではそれなりに料理が出来るスペースがある。二畳くらいだろうか。
冷蔵庫、洗濯機、レンジ諸々生活に必要な家電は一通りそろっていた。
「うっ……」
負けたことを話題に出され、小鳥居は押し黙った。
「そこの段ボールよろしくな。棚にちゃんと並べろよ~」
「はぁ~、分かったわよ……仕方ないわね……」
観念した彼女は段ボールの封を切った。
「きゃあああああ! 何よこれ!!!!」
その瞬間、彼女の悲鳴が響き渡った。
「な、なんてもん私に開けさせてるのよ!!!!!」
小鳥居は段ボールから一冊の雑誌を取り出した。
「あん? ただのエロ本だろ。あ、ちゃんと出版社、発売日順に並べろよ?」
「違うわよ! そんなこと聞いてないわよ! 女の子の私になんてもん見せるのよって言ってるの!」
「たかがエロ本くらいではしゃぐな。中学生かよ」
「どう聞いたら、はしゃいでるように聞こえるのよ!!! 怒ってるの! ってまさかとは思うけど、隣にある二箱の段ボールの中にも、入ってるんじゃないでしょうね」
「ああ、そっちはAVとエロゲが入ってる」
「いやあああああ!!! 不潔! 変態!」
「AVは出演女優順に並べてくれ。そっちの方が探しやすい。複数人出演してるやつは別で並べてくれればいい。エロゲはタイトル順な」
「ねぇ、なんでそんな冷静なの!? そうじゃないでしょ!」
「分かった分かった。じゃあ、好きなやつ一個持ってっていいから、な?」
「ああ!!! もうっ!! 違う!!!」
一体、こいつは何にキレているんだ?
俺には彼女が怒っている理由が分からなかった。だから、小鳥居を無視することにした。
「そう言えば、上蔀さん。梓馬さんはどうしたんですか? 一緒に来るって聞いていたんですけど、まだお見掛けしていないような……」
キッチンからソフィが顔を出す。
「ん? 光咲なら……あっ」
そこで思い出した。光咲を入れたキャリーバックを教室に置いたままにしていた。
「午後の授業を受けて、そのままここに来たから教室に忘れちまった……」
「あ、じゃあ私が連れてきます」
「頼んだ」
ソフィが部屋を出ていき、俺と小鳥居だけになった。
ちなみに藍紗は自分の部屋で一人荷解きをしている。
「うっ……」
小鳥居は顔を歪ませ、なるべくエロ本の表紙を見ない様に棚に並べていた。
俺の方はタンスに衣服を詰めていた。
「そろそろ、あなたが何をしたか教えて欲しいんだけど?」
小鳥居は俺の方を見ずにそう訊ねてきた。
「教えるって、なにを?」
「とぼけないで。さっき私に勝った方法を、よ」
「ああ、それか。瞬間移動しただけだ」
「え?」
小鳥居はポカンとした表情のまま固まってしまった。
「だから、瞬間移動。テレポートの方が分かるか? お前が電撃はなった瞬間に、攻撃範囲外の観客席に転移して、その後すぐにお前の背後をとったの、オーケー?」
「い、いやいや、ちょっと待って。え? 瞬間移動? え?」
彼女は両手をわちゃわちゃして分かりやすく動揺していた。
「なんだ、その大袈裟な反応は」
「あなたねぇ……サラッと言ったけど、自分が何言ったか分かっているの?」
小鳥居はエロ本を置いて、真剣な顔つきで俺を見た。
「瞬間移動は理論上可能とされる魔法。いい? 理論上よ? 未だに実用的な域に達していないの。それは様々な越えられない壁があるから。対象の正確な質量、体積、表面積等の情報や現在地、移動先の座標計算。デヴァイスでの演算はまだ出来ず、自身の演算能力を使用しなければならず、少しでもミスをすれば体がバラバラになる危険性を持っている。つまり、人間には実現不可能の魔法なの」
「ま、確かに普通なら無理だよな。普通なら」
「……どういうこと?」
「リンフォースメント。強化魔法を脳にかけて、一時的に演算能力を上げれば出来ないことはない」
「脳にって……それなら、確かに……可能性はあるのかもしれない……」
小鳥居はまだ納得いかない顔をしていた。
「まぁ、いいわ。百万歩譲ってそれで転移魔法が可能だとしてよ。いつの間に強化魔法なんて使ったのよ? あなたは最初の一回だけ、自身の体に強化魔法を使ったはずよ。同時に複数の場所には使えない」
「一回だけ? 何言ってるんだ? 俺はちゃんと二回に分けて使ったぞ」
「あなたの方こそ何を言っているの? 確かにあなたがボイスコマンドを使用しようしたのは、戦闘開始直後の一回だけのはず……っ! もしかして、その前に既に……!?」
「そういうことだ。お前に『リンフォースメントのことか?』と聞いた時に既にボイスコマンドを使っていた」
「なっ!? そんなのズルいじゃない!?」
「始まる前から魔法を使っちゃいけないなんてルールはなかっただろ?」
「暗黙のルールでしょ! スポーツマンシップにのっとりなさいよ!」
小鳥居は大きくため息をついて、頭を抑えた。
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