模擬戦闘

「それで? 勝負って何すんだ? 的当てでもすんのか?」

「そんな小学生みたいな遊びする訳ないでしょ! 馬鹿にしてるの!?」

「えぇ……」



 割と真面目に言ったんだが、滅茶苦茶怒られた。

 中学の時は魔法で競うと言えば、的当てがメジャーだったんだがここじゃ違うのか?



「魔法の勝負と言えば、模擬戦闘に決まってるでしょ!」

「模擬戦闘……?」



 なんか物騒な響きなんだが?



「知らないなら教えてあげるわ。簡単に言えば、魔法を使った戦闘を行い、先に戦闘不能もしくは審判が試合続行不可能と判断された者の負け。ね、簡単でしょ?」

「いや、ちょっと待て。それダメだろ」

「どうして?」

「どうしてってお前、魔法は人に向かって使っちゃダメって法律があんだろうが」



 とは言ったものの、ついこの前銀行強盗に向かって魔法を使っちまったけど。まぁ、あれはソフィがもみ消してくれたから罪に問われなかったが。



「それはあくまで無許可で人に向かって魔法を使うのが禁止されてるだけでしょ? 治療などで人に対して魔法を使うことは容認されているわ」

「医療はそうだろうよ。でも、戦うのはマズいだろ」

「この学園では教師立会いの下行われる場合に限り、魔法での戦闘が許可されているわ」

「んなふざけた話があるわけ……」

「いえ、彼女の言っていることは本当よ」

「藍紗?」

「転入に際し、学園側から渡された資料にそう記載があったわ。あんた読んでないの?」

「あ~、そんなものあったような、なかったような……」



 貰ったのは記憶にあるが、めんどくさくて読んでないわ。それにしても、この学園じゃ法律も捻じ曲げられるのかよ。



「この学園では合法的に魔法が使えることは分かった。けどよ、危険じゃないのか? 怪我じゃ済まないだろ」

「はぁ~、これだから外の人間は……」



 小鳥居は呆れたようにため息をつき、俺を見下すように見てきた。



「なんだその目は、おい」

「魔石は知ってる?」



 小鳥居は馬鹿にしたように手首のデヴァイスを指で叩きながら聞いてきた。



「それは流石にバカにし過ぎだ。魔素を貯め込める特性を持つ特殊な石のことだろ? 小学生でも知ってる」



 デヴァイスにはその特性を利用して、空気中から吸い取った魔素を一時的に保存する場所として、魔石が埋め込まれている。

 また魔石は希少価値が高く、高価なものだ。デヴァイスに組み込まれている魔石は砕かれた小さな欠片だが、それでも数万ほどの値がする。



「そう。そして、この学園の制服にはその魔石に吸収された魔素を利用した魔法攻撃のダメージを軽減出来る機能が備わっているの」

「なに!? この制服にそんなすげぇ機能がついてたのか!?」

「ええ、そう。だから、多少無茶しても平気なのよ」

「でもよ、この制服の防御は完全じゃないんだろ?」

「当たり前よ。完全に防げちゃったら、決着がつかないじゃないの」

「じゃあ、やっぱり危険じゃん!?」

「身体強化の魔法使っていれば、そんな大怪我しないから大丈夫よ」

「身体強化って、『リンフォースメント』のことか?」

「そう、誰もが最初に覚える初歩的な魔法。使えないってことはないわよね?」



 『リンフォースメント』とは一時的に対象の能力値を底上げする魔法だ。

 自身にかければ、常人離れした運動能力を手に入れることが出来る。

 その魔法の発動には対象の正確な情報が必要だ。

 ボイスコマンドを使用した魔法の発動には事前に端末内に魔法発動に必要な情報を入力しておかなくてはならない。

 身体強化の魔法を自身にかける場合、自分の身体情報をデヴァイスに詳しく入力しておく必要があるが、人間の体はその時々によって多少の変化が生じる。魔法は繊細なため、その多少の変化で魔法は誤作動し、発動しない。

 では、どうやって身体強化の魔法を発動するか。それはデヴァイスの持つ機能を使うことで可能になる。

 デヴァイスには装着者の細かい身体情報をリアルタイムで計測する機能がついている。それを利用して身体強化の魔法の発動に必要な身体情報を得ている。

 デヴァイス内で複雑な処理がなされているが、俺たちがボイスコマンドで魔法を使う時は何も考えずに使うことが出来る。

 一昔前では不可能なことだったが、これも科学力が進歩した結果なのだろう。

 閑話休題。



「いくら身体強化したとしても、魔法の攻撃を食らって無事でいられる保証はないだろ」

「そうね、それは多少の怪我を負うでしょうね」

「多少の怪我って……」

「この学園じゃ当たり前のことよ。外の常識は捨てることね」

「…………」



 少し思うところはあるが、ここで言ってもしょうがないだろう。



「さて、あなたの不安はそれだけね。なら、さっさと始めるわよ!」

「始めるって、場所は? それとさっき言ってた立ち合いの教師は?」

「場所はこの訓練棟の隣にある模擬戦闘用のスペースよ。立ち合いの教師は先に頼んでもうそこで待ってもらってるわ」



 小鳥居はそう言って意気揚々と訓練棟の隣にある建物へと向かって行った。



「逸人さん、ファイトです」



 ソフィの目は俺の勝利を疑ってはいない様だった。



「なぁ、一応確認しておきたいんだが、小鳥居って強いのか?」



 やたらと偉そうだし、変に自信ありげなのが気になる。



「そうですね……彼女はその魔法に対する素質の高さから、初等部からこの学園にいます」

「素質……?」

「火、水、雷、土、風の五属性全てを扱え、魔素吸収率は六三%と破格の才能を持っているんです」

「…………は? なにそのチートみたいなスペック。あいつ異世界転生した主人公か何かか?」



 俺は一瞬言葉を失った。

 五属性を扱える人間など聞いたことがない。しかも、魔素吸収率六十三%ってなんだよ。そんなの歴史上でも存在するかどうか怪しいレベルのバケモンじゃねぇか。



「ママチャリと戦闘機くらいのスペック差があるんだが? 俺これ勝てなくね?」



 どう考えてもあいつ世界、いや歴史的に見ても最高クラスのバケモンだぞ。



「確かに彼女の才能は凄いです。ですが、彼女は……」



 そこでソフィはたった一つの勝機となる情報を教えてくれた。

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