面倒な同級生
午後の授業を終えるチャイムが鳴り、橋間先生は訓練棟内の生徒全員に聞こえるように脳内に直接声を届かせるテレパシーの魔法を使った。
『これにて今日の授業は終了だ。自主練したい奴は自由に残って貰って構わない』
それだけ言い、橋間先生は訓練場を後にした。
「ん~、やっと初日終わった。さっさと寮に行って荷物整理しないとな……」
今朝この人工島に来てから、直で学校に来たためまだ寮には行っていない。
大方の荷物は別ルートで部屋に届いているので、これから荷解きをしなくてはいけない。
寮暮らしが面倒でギリギリまで実家にいたが、こんなことなら前日くらいに来るべきだった。いや、正確には光咲のやつが駄々こねまくって今日までこっちに来ることが出来なかったのだが……。
今から荷解きとか面倒過ぎてやる気起きんわ……。
「そうだ、ソフィにでも手伝ってもらうか」
早速、ソフィと合流するために藍紗をつれて観客席に向かう。
「ってことで、頼む。荷解きを手伝ってくれ!」
「ってことでじゃないよ。あんた、それくらい自分一人でやんなよ。てか、女子が男子寮に入ってもいいのか?」
「はい、男子寮に入ることも荷解きのお手伝いもどちらも大丈夫ですよ」
「ホントか! ラッキー」
「タールフェルト家のお嬢様をこき使うなんて後でバチが当たったりしなきゃいいけどね」
藍紗が何やらボソッと呟いていたがよく聞き取れなかった。
「なんか言ったか?」
「何でもないよ。それよりも、さっさと寮に戻って荷解きしよ」
これ以上訓練棟にいる必要もないので俺たちは他の生徒たちより先にここから出ることにした。
「ちょっと待ちなさい!」
訓練棟を出てすぐ一人の女生徒に呼び止められた。
振り返るとそこに立っていたのは長い赤髪を二つのおさげにしてる少女だった。
「え? 誰?」
「誰って……、あなた同じクラスの生徒の顔も覚えてないの!?」
同じクラスって言っても、今日来たばっかだし、まだソフィ以外のやつと話したこともないし、知らないのは当然だと思うが。何言ってんだこの女。
「私の名前は
小鳥居はその薄っぺらい胸を強調しながら、偉そうに名乗った。
「はぁ、で何の用? 俺はこれから寮に行って荷解きせにゃならんのだが」
「そう、それならちょうどいいわ。そのまま荷物ごと実家に送り返してあげる」
「…………???」
俺は小鳥居の言っている意味が分からず首を傾げた。
「あら? 伝わらなかったかしら?」
なぜ今ので伝わると思ったんだ、この女。おバカさんなのか?
「あなたみたいなおマヌケさんにも分かるように言ってあげるわ。あなたは今から私と勝負をする、そしてあなたは負ける。で、この学校を辞めて実家に帰る。分かったかしら?」
「ドヤ顔で言っているところ悪いが、一ミリも分からん」
「なんでよ!?」
小鳥居はビックリするくらい驚いているが、それは俺のセリフだ。
「勝負って何だよ。なんでそんな面倒なことを俺がしなくちゃいけないんだ」
「そんなのあなたが不真面目だからに決まってるでしょ!」
決まってるのかそうか……いや、意味が分からん。
「ここは魔法を学ぶ神聖な場所よ。それなのにあなたと来たら、転校初日いきなり授業中に寝るなんて……あり得ないわ! それにただの一般高にいた癖に自前のデヴァイスまで持ってるなんて羨ま……じゃなくて、……許せないわ!」
「授業中寝てたことに関しては分かるが、デヴァイスに関してはただの逆恨みじゃねぇか!」
「ええそうよ。悪い?」
「認めちゃったよ……」
「そう言うことだから、今すぐ私と勝負しなさい!」
「え、いやだ。めんどくさい」
「な! あなた逃げる気!?」
「逃げるも何も意味分からんし、そんな勝負。しかも、退学とかお前に何の権限があってそんなことできんだよ」
こんな面倒なこと受けるメリットが俺にはない。無視だ無視こんなん。
「あら? あなた知らないの?」
「何をだ?」
「この学園では魔法が全て。ありとあらゆる事柄が、魔法によって決められる。つまり、あなたの退学も勝負によって決められたことなら、それは合法」
「え? マジ?」
「どうして、あなたはそんな嬉しそうな顔をしているの?」
「ばっか、そんな顔してねぇだろ! ふざけんな!」
「え、なんで私怒られているのかしら……」
しまった。つい魔法で荒稼ぎできるのではと思って顔が緩んでしまった。
「その勝負、待ったです!」
いきなり関係ないソフィが俺たちの間に割って入ってきた。
ふむ、嫌な予感がする。
「あら、タールフェルトさん。悪いけど、例えあなたでも、この学園ではあなたの言葉よりも魔法が優先されるのよ?」
「ええ、分かっています。もちろん、小鳥居さんの勝負はお受けします」
いや、なんでソフィが勝手に受けてんの? 俺全く受ける気ないんですが?
「ですがいいのですか? 上蔀さんは強いですよ」
おい、お前は俺の何を知っているんだ。ハードルを上げるな。
「へぇ~本当かしら?」
「小鳥居さんなんてけちょんけちょんです」
けちょんけちょんなんて久しぶりに聞いたぞ。誰だ、こいつに日本語教えたやつ。
「大した自身ね。そこまで言うなら、退学ではなく、一生私の小間使いとして使ってやるわ!」
「望むところです!」
おいおいおいおいおい、話があらぬ方向に向かって行ったぞ。てか、なんでこのポンコツお嬢様勝手に受けんだよ。退学でいいじゃん。なんだよ小間使いって、そんなの嫌だぞ。負ける気はないけどさぁ。
「さぁ、上蔀さんの実力見せつけてやってください!」
「いや、普通に嫌だけど。これから荷解きしなきゃだし、何より面倒だし」
「分かりました。では、この勝負に勝ったら追加報酬を出します」
「おいさっさとかかってこいや! 勝負だか何だか知らねぇが受けて立ってやる! 今か? 今からやるか!?」
俺は目の色を変えて、小鳥居の勝負を受けることにした。
「手の平返しが早すぎる……」
そんな俺を見て藍紗はため息をついた。
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