ポンコツお嬢様

「うわぁ、すっげひろ!」



 ジャージに着替えて訓練棟に行くと、その広大な広さに思わず声が出た。

 訓練棟は四百メートルトラックが丸々二つ入るくらいの大きさで、周囲にはちゃんと観客席もある。

 一クラスたった二十人しかいないのに、この広大な訓練棟を貸し切って魔法実技の授業は行われるらしい。

 まぁ、普通の体育の授業とは違って、魔法を使う授業だからこのくらいの広さは必要なんだろう。知らんけど。

 中学校の時は普通の体育館でやってたんだけど、そこは魔法専門学校だからこその違いだろう。



「つか、広すぎて誰がどこにいるかわっかんねぇな……。みんなバラバラで統率なさすぎ、これが普通なんか?」



 クラスの人たちは一か所に固まっているわけではなく、各々好き勝手に散らばっていた。

 どうしていいか分からない俺は取り合えずソフィを探すことにした。



「広いって言っても障害物はないし、適当に見て回っていけば……」



 すぐに見つかると思ったが、訓練棟内を一周してもソフィの姿は見つからなかった。



「あれ? どこ行った? あいつ先に行くって言ってたのに……後、探してないところは……」



 俺は一旦訓練棟を出て、外から階段を上がり観戦席へと来た。



「あ、いた」



 すると意外にもあっさりソフィを見つけた。



「お前こんなとこで何してんの? 見学か?」



 女の子特有のあれで実技の授業は見学かと思ったがどうやらそうではないらしい。



「えっと、ですね……大変言いずらいのですが……、実は私デヴァイスを持ってなくて……」

「え? なに? 忘れたのか? 学校の貸してもらうとかは?」

「それは、その……」



 何とも歯切れの悪いソフィに俺は首を傾げた



「あの~……その~……信じてもらえないかもなのですが……。私がデヴァイスを使おうとするとどうしても壊れてしまうんです」

「……ふむ、壊れる……ん?」



 一瞬、ソフィが何を言っているのか分からなかった。



「こ~う、デヴァイスをつけます。そして、ボイスコマンドを入力すると……驚くべきことに黒い煙が上がるではないですか!」



 やたら大袈裟に芝居がかった口調で説明するソフィに俺は冷ややかな視線を向けた。



「あ~つまり?」

「私がデヴァイスを使うと理由は分からないんですけど、例外なく全て壊れてしまうのです」

「魔法を発動しようとするとデヴァイスが壊れる、ねぇ……」



 一つ疑問が解けた。ソフィがデヴァイスを付けていなかったのはそう言うことだったのか。

 しかし、デヴァイスが壊れるなんて話聞いたことがない。例外なく全てのデヴァイスが壊れるってことはデヴァイス側の問題ではなさそうだが。



「実はその、私機械音痴でして……デヴァイス以外にも機械関連は私が触ると壊れてしまうんです……」



 ソフィは恥ずかしそうに目を背けながらそう言った。



「それじゃあ魔法つかえないじゃん。なんでこの学校に入ったんだよ」

「うっ……」



 痛いところを突かれたようでソフィは肩を震わせた。



「それに大罪魔法もそうだ。魔法も使えないのに一体なんであんなもん欲しがんだよ。家の人に言われたからとかか?」

「いえ! 違います! これは私が望んだことです! 家のことは関係ありません!」



 今までのソフィからは考えられないとほど声を荒げていた。



「ごめんなさい、いきなり大声を出してしまって……」

「あ、いや別に気にしてなかいらいいけどよ。なんか深い事情があるなら聞かねぇよ」

「いえ、聞いておいて欲しいです。私の依頼を受けてくださったのですから、ちゃんとこちらも事情を話すのが筋だと思いますから」

「筋って言ってもなぁ」



 正直なところソフィの事情になど興味はなかった。けど、本人の真剣な表情を見ると断るだなんて野暮なことは出来なかった。



「実はお母様が原因不明の病で床に伏しているのです」

「その病気を治したくて、大罪魔法ってことか?」

「はい、大罪魔法の一つにお母様の病を治せるかもしれないものがあるらしいのです。それさえあれば……」

「なるほどなぁ。でも、大罪魔法のグリモワールがもし見つかったとしても……」

「分かっています。それを使えるかは別問題、ですよね」

「その昔、傲慢のグリモワールが見つかった時、それを発動させるためには一人分の魔素では足りず、三十人がその発動に立ち会ったと言う。結果は失敗。不完全なまま発動された大罪魔法はその場に居た三十人全員の命を奪った。その後、傲慢のグリモワールは行方知らずって話だ」

「そのリスクも承知です。それでもお母様を救える可能性が一%でもあるのなら、私は命を懸ける覚悟です」



 そう言うソフィの目は本気そのものだった。



「俺たちの契約は大罪魔法を見つけるまでだ。それ以降に起きたことに関しちゃ俺たちは無関係だからな」

「はい! どうか、よろしくお願いします!」



 これはどうやら本気で大罪魔法を見つけなくてはならないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る