魔法基礎学

 転校初日、最初の授業は魔法基礎学だった。

 この授業はデヴァイスを使用しての魔法実技ではなく、座学だ。

 橋間先生の授業を流し聞きしながら、さっき貰ったテキストの最初の方をペラペラとめくる。

 魔法を扱うために必要なものは、全部で三つ。


 一つは魔素。これは空気中に漂う気体の一種だ。

 魔素とはありとあらゆる素材の代用に出来るオールマイティー元素だ。もちろん、魔素の役割はそれだけではない。現存しない物質の構成や物理法則を無視した事象を引き起こすことも出来る。


 二つ目はデヴァイスだ。

 魔素がいくらオールマイティー元素だとしても、それを吸収し変換するためのプロセスが必要だ。それを一手に担っているのがデヴァイスだ。

 空気中の魔素だけを取り入れ、別の媒体へと変換する機能がデヴァイスにはある。


 そして三つ目は演算能力。

 魔法とは念じれば発動する安易なものではない。その時の状況に合わせて演算しデヴァイスを通して空気中の魔素を取り入れ奇跡を発現させる。演算はデヴァイスがある程度補助してくれるため、使用者が頭を使うことはなく、ボイスコマンドを入力することで魔法を行使できるようになっている。

 その為、魔法は念じれば発動すると勘違いしているものも多い。しかし、デヴァイスだけに頼った魔法には制限があり、大規模な魔法を使用することは出来ない。


 義務教育の範囲で習うのは、デヴァイスだけでの魔法利用だ。そして、デヴァイスのボイスコマンドのみを利用した魔法は第一位階魔法と呼ばれている。

 一般的に祇嶋学園の様な魔法専門の学校で習わない限り、一般人には魔法=ボイスコマンドで行うものという常識が刷り込まれている。

 魔法はボイスコマンドなしでも発動は可能だ。

 この祇嶋学園では、その先、デヴァイスだけではなく術者本人が演算を行い、高度な魔法を扱えるようにすることを目的としている。つまり、第二位階以上の魔法習得だ。ちなみに参考までに言っておくと大罪魔法は最高位の第八位階に位置している。

 でだ、今この魔法基礎学ではその魔法発動するために必要な演算方法を学ぶ。ただ、演算処理が出来るだけでは魔法は発動しない。自分が思い描いた魔法に必要な元素は何か? 量は? 原理は? と言った様々な知識も必要となる。

 簡単なところで言えば水。水素二に対し酸素一の割合と言うのを知らなければ、演算どころの話ではない。

 魔法基礎学ではそう言った科学知識を学ぶ授業でもある。

 チラッと前の席に座るソフィを盗み見る。



「………………」



 彼女は橋間先生の話を真面目に聞き、ノートも丁寧にとっている。

 その彼女手元を見て一つ気になることがあった。

 それはこの学園の生徒なら全員身に付けているデヴァイスを付けていないことだ。

 まぁ、あれこれ考えたところで、予測の域を出ないしそんなことをするのは無駄の時間なので、ソフィについて考えるのを止め、俺は机につっぷした。

 橋間先生の授業は分かりやすいが、内容はつまらないので眠くなる。

 俺はゆっくりと瞼を閉じ、眠りに落ちた。








「上蔀さん、起きてください」

「んあ~……あれ? もう授業終わった?」

「授業どころか昼休みももう終わります」



 眠い目を擦りながら、周囲を見渡すと教室には俺とソフィしか残っていなかった。



「え? 嘘。俺そんなに寝てた?」



 心なしかお腹が空いている気もする。



「一限目からぐっすりでしたよ?」

「ああ~、マジか~。それより、クラスのやつらはみんなどこ行ったんだ?」

「次の授業は魔法実技なので、みんな訓練棟に行きましたよ」



 訓練棟。確か体育館みたいなとこだよな。



「上蔀さんも早く着替えて準備してください」

「着替え?」



 そう言われて、ソフィが学校指定のジャージ姿になっているのに気がついた。



「私は先に行きますが、訓練棟の場所は分かりますか?」

「ああ、大丈夫だ」

「そうですか。あ、それと実技なのでデヴァイスは必ずつけてきてくださいね」

「はいはい」



 俺は適当に返事して、更衣室へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る