タールフェルト家
逸人が銀行強盗に巻き込まれた翌日。
『昨日未明、世田谷区にて三十代の男性が路上にて殺害されているところが発見されました。殺害の手口からこれまでの連続殺人犯と同一人物である可能性が高く、今回で五十人目の犠牲者となりました』
ミカヅキ探偵事務所のオフィスのテレビからお昼のニュースが流れていた。
「今日も平和だな」
そのニュースを見ながら藍紗は退屈そうにあくびをした。
「連続殺人事件のニュースを見て平和だなんて狂気的なことを言うのはお前位なもんだぞ」
そんな藍紗に逸人はツッコミを入れた。
「分かってないよ、逸人は。平和って言うのはいつもと変わらない日々のことを言うんだよ。この連続殺人なんてもう半年も前からずっとじゃないか。それはもう日常だよ」
「日常的に殺人が起きる世界なんか俺いたくねぇよ」
そんなことを話していると番組は次のニュースへと移っていた。
「あ、これ昨日逸人が巻き込まれたやつじゃない?」
「ん?」
藍紗に言われテレビを見ると画面のテロップに『銀行強盗逮捕』と表示されていた。
「別の銀行じゃないか?」
「いや、どう見てもこの銀行すぐそこにあるやつでしょ」
報道されている銀行の場所は確かに昨日逸人が訪れたその場所だった。
「でもよ、強盗を捕まえたのは警備員だってなってるぞ? 俺のことは言わないでくれと頼みはしたが、あの場にいた全員がそれを守ってくれるなんて流石にあり得ないだろ」
「それもそうね。でも、それじゃあ、このニュースは何? あの銀行は一日に二回も強盗に襲われたってこと?」
「それは分からねぇよ。けど、不自然なことには変わりないな」
二人してそのニュースに首を傾げている時だった。
ピンポーンと事務所のインターホンが鳴り響いた。
「新聞の勧誘か?」
「な訳ないでしょ。仕事の依頼でしょ」
藍紗はため息をつきながら来客を迎えに行った。
『なお、今回の銀行強盗犯の肩には魔女の烙印があり、インヴェスとの関係性を調べています』
「インヴェス?」
つけっぱなしのテレビから追加情報が流れてきた。
「インヴェスつーとあのイカれた宗教団体か。全くはた迷惑な連中だ」
そのまま逸人はボーっとテレビのニュースを見ていた。
「おい、逸人。お前にお客さんだ」
来客を迎えに行った藍紗は銀髪の少女を一人連れていた。
「ん? あーどっかで見たような?」
逸人にはその少女に見覚えがあった。
「あ、あの、昨日はどうもありがとうございました」
少女はぺこりとお辞儀をした。
「昨日……昨日……あ、昨日、銀行強盗に捕まってたやつか!」
逸人は思い出したかのようにポンと手を叩いた。
「わざわざ礼を言いに来たのか。なんて律義な……ってちょっと待て。なんで俺がここにいることが分かったんだ? 俺は名前すら教えてないぞ」
「それでしたら、これを」
少女はカバンから一枚のカードを取り出した。
「あ! それ俺の学生証! なんで!?」
「はい。昨日落とされたので。それを私が拾ったのです」
「え? マジ?」
逸人はポケットからスマホを取り出し、手帳型ケースのカード入れを確認する。
「あ、ホントだ。いつの間にかなくなってる」
いつも学生証を入れているそこには何もなく空っぽになっていた。
「わざわざ届けてくれたのか。わりぃな……っていやいやいやいや! ちょっと待て。学生証があったとしても、なんで俺がここにいるのが分かったかの答えにはならないぞ! 家や学校ならともかくなんでバイト先がバレるんだよ!」
「調べました」
少女はあっけらかんとそう言った。
「いや、調べましたってお前……たった一日でそんなこと分かるわけ……」
「分かりますよ。私なら。いえ、私の家の力を使えば、ですけど」
「家?」
「そうでした、自己紹介がまだでしたね。私の名前はソフィーア。ソフィーア・F・タールフェルトです。どうか、ソフィとお呼びください」
「ソフィーア……?」
「F……?」
「「タールフェルト!!?!!?!!?!!?!!」」
ソフィの名を聞いた瞬間、逸人と藍紗は二人揃って叫んだ。
「タタタ、タールフェルトってあのタールフェルトか?」
「ば、バカね。他にいないでしょあのタールフェルトでしょ!」
二人の同様っぷりは異常ともいうべきものだった。
それもそのはず、タールフェルト家とは千年前、魔素を発見しこの世界に魔法を生み出した一族。今では世界で三本の指にも数えられるほどの大金持ちなのだ。
「えっとじゃあ、もしかして昨日の事件のニュースで俺が出てなかったのって」
「はい、こちらで情報操作しておきました」
「じょ、情報操作って流石金持ち……」
一般人では到底想像のできない世界の話をされて二人は彼女が本物のお嬢様であることを悟った。
「結婚してください!」
「バッッッカ! なに逆玉狙いでプロポーズしてんのよ!」
「いやだって、こんな機会二度とないかもしれねぇじゃんよ!」
「あのすみません。私の婚約にはまずお父様の許可を頂かないと」
「いや、いい! アンタは何も言わなくていい! 今すぐこいつ黙らせるから!」
「おい、藍紗。やめろ。首、首締まってる……く、くるしい……」
その後、逸人と藍紗が落ち着くまでしばらく時間がかかった。
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