第2話 真似ごと

 マネージャー小谷さんのもとに二人で向かい彼女がなにか知ることがないか聞き出す為、始めはすみれが一人で向かい少し離れた位置から悉知が見ていた。


「お疲れ様です。あの...金子さんの件なんですが...もしかして、乳製品や小麦とかってアレルギーだったりしました?私、シュークリーム差し入れしちゃいまして...」

「あ、お疲れ様です。いいえ、違いますよ。奈々さんのアレルギーは柑橘類でしたから」

「柑橘類ですか...。それ以外はなかったんですか?」

「えぇ、そのはずです。...あ!あとはカシューナッツとかアーモンドとかは咳が出るから食べたくないとも言ってたけど...そんな大げさなものではなかったですし......」


 言われた事は桃井や刈谷、他の演者たちが言っていた事と同じで違いがあるとすれば、明確なアレルギーを知っていたことぐらい。特になにか隠している感じもない。

 この後情報を共有するために顎に手を当てながら情報を整理していると


「藍田さん作家なのに聞き方が探偵みたいですね」

「え?!そんな!!」


 探偵を書くこともあるだけに自信が探偵みたいだと言われ、驚きと同時に恥ずかしくて赤くなる顔を隠そうとうつむきながら手で顔を覆い否定した。

 すると何かを思い出した小谷が声を上げ


「あ!そういえば今回舞台裏を撮影してましたから奈々さんが映ってるかも知れません」

「それってどこにあります?」

「う~ん、どこと言われても...私も分かりません、確かあの辺りに置いてあったはずなんですけど...」


 指を指した舞台袖に、定点カメラとして置かれていたはずのビデオカメラを探していると遠くから見ていたはずの悉知が平然と歩み寄って来て


「何を探している?」

「舞台裏を撮影していたはずのビデオカメラを探してて...」

「それなら俺たちが押収したぞ」

「それってもう確認した?」

「いや、まだだと思うが...どうした?」

「もしかしたら直前の行動が映ってたかもって小谷さんが...」

「わかった。鑑識に確認する」


 情報を共有するためにすみれは少し背伸びをし、悉知は逆に少しかがみお互いに顔を近づけて会話していたら


「お二人は仲がいいのですね。もしかして恋人ですか?」


 その言葉が信じられないとすごい勢いで小谷の方を向いたすみれ。一方の悉知は口元を片手で隠し、顔を明後日の方に向けた。その耳は少し赤みを帯びていた


「え?いや...そんなことないですよ?...ね?」

「...」

「え?無視?!さすがに、ひどくない!?」


 いまだにそっぽを向いたまま何も返事をしない悉知にすみれはしびれを切らし体を掴み揺する。その様子を見ていた小谷は思わず吹き出し笑い出した


「ふ、ふふふ」

「小谷さん?!違いますよ?ホントに違いますからね!?」

「ごめんなさい...。でも、藍田さんってもっと冷めた方だと思っていたからなんというか新鮮で...つい」


 慌てふためくすみれを見て小谷は自身が抱いていた印象と大きく違う事に驚いたようで一瞬目を見開きその後、嬉しそうに笑った


「あ〜...いや...え〜っと...ありがとうございます?」


 否定しようにも悉知はなにも返さず、小谷は二人のやり取りを微笑ましくそしてすみれの新たな一面を見れた事を喜んでいる為すみれはこれ以上なにも言えなくなってしまいため息をついた。すると今まで話に参加しようとしなかった悉知がようやく口を開いた


「コイツ不器用で冷たく見えるけど優しい奴なんだ。良かったら仲良くしてやってくれ」


まるで親のような言い方にすみれは悉知を睨みつけるが当の本人はどこ吹く風。まったく気にする様子がなく、なんで悉知に言われなければならないのだと言う顔をしながら傍観者を決め込むことを決めた。が、小谷はそれを知ってか知らずか笑顔で渡しで良ければ”喜んで”と返した。


「ま、雑談はそれまでとして監督の柿枝さんはどこにいるか知ってるか?」

「柿枝さんなら畑山さんともう一人の刑事...え~っと...高島さん?でしたっけ?...と一緒に楽屋に行くとか言っていた気がしますけど...」


 悉知は小さい声で"アイツ..."と吐き捨て途端に眉間にしわを寄せ始めた。それを不思議そうにみるすみれがとりあえず行ってみない事には分からないと言った様子で


「ありがとうございます。いってみますね!」


 すばやく小谷にお礼をいい苛立つ悉知の背中を押してその場を離れ


「どうしたの?突然イラつき始めて」

「あ?...お前には関係ない事だ気にすんな」

「関係ないってひどくない?」


 背の小さなすみれの頭をまるで心配するなというように撫でた悉知。しかし、すみれは子ども扱いされたと勘違いして怒っているがそれを悉知は目を細めて愛しいように見ているのを頭に血が上ったすみれには見えていなかった


「悪いな。じゃあ、一緒に来てくれるか?」

「あー!!流した!!」

「そういう所が子供っぽいんだよな...」


 まるで癇癪かんしゃくを起した子供のように絡んでくるすみれに仕方がないといった様子で悉知ははいはいと受け流しながら高島刑事の元まで向かう。その間、悉知は携帯で何やらメールを打ちながら歩いていた。


「なにやってるか知らないけど前見ないとぶつかるよ?」


 歩きスマホで壁にぶつかりそうになる悉知の腕を掴み知らせる


「悪い...ありがとな。それにお前が見ててくれるから安心だろ?」

「あー、はいはい。次は助けないからね」


 すみれが指摘したからかそれとも打ち終えたからなのか悉知は携帯を胸ポケットの中にしまった。


「もういいの?」

「あぁ」


 高島刑事がいる楽屋にたどり着き、扉を開けると奥から担当編集者の南が駆け寄って来て


「あ~ぁ!さっきの刑事さ~ん。大丈夫でしたかぁ?この人時々ひどく感情的になることがあるんですぅ」

「...そうなのか、知らなかったな」


  南が悉知の腕に巻き付き猫撫で声で接しているのを悉知は動じるそぶりもなくほとんど生返事で返しているが、近くで見るすみれは顔をしかめていた。自身が気に食わないだけで、悉知が特に嫌がっている様子を感じられなかった様子のすみれはただの昔馴染みの自分が割って入る事はお門違いだろうと視線をそらし二人が部屋に入るのを数歩後ろで待った。すると、楽屋の中から高島刑事の声がした。


「南さんそんな奴ら放っておいてこっちに来て欲しいっス」

「ほぉら、高島刑事も呼んでるしぃ~一緒に行きましょぉ?」


 高島刑事から呼ばれた南が歩き出そうとした時、悉知は掴まれていない方の腕ですみれを掴もうと伸ばした手が空を切った。眉をひそめすみれを見る悉知だが、その表情に気づきながらも心がモヤモヤ腫れない様子でいつもの様に触られなくて反射で避けてしまい


「...ごめん。ついて行くから、先行って」

「ほらぁ、藍田先生もぉそういってますしぃ行きましょう?」


 腕を引かれ連れて行こうとされるが、その場に立ち止まってすみれが来るのを待っている悉知に南は絡めた腕をほどき今度は手を掴み早く行こうと催促した


「ねぇ~、早くぅ行こうよぉ~」

「...分かったから手を放せ」

「なんであの人の事は掴もうとするのに私はダメなのぉ?!私のが可愛いでしょぉ!?」


 確かに南の方がフレアスカートにワンポイント大きなリボンが胸元にあるシャツを着て程よく化粧もしていて万人が綺麗だと答える容姿をしている。それに引き換えすみれはパーカーにジーンズとラフな格好。化粧もせずお世辞でも綺麗だとか可愛いとか言えるような姿ではではなかった。

 いつもは気にならなかった自身の姿がこの時はとても気になり恥ずかしくこの場を立ち去りたいと感じたようですみれは踵を返しこの場から離れようと決意し進み始めるが...


「あー、藍田さんもいたんっスね。お聞きしたいことがあったんでこっちに来てくださいっス」


 高島刑事に止められその願いは叶わず、仕方なく二人の後を追い楽屋に入った。すると、集められたであろう人物がすでに4人いた。


「高島...この人たち集めてどうする?」

「そりゃ、犯人探しに決まってんだろ。俺に手柄横取りされたからって恨むなよ?」

「...恨まねぇよ...それより俺は、お前が訴えられないか心配だ」 

 

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