第117話 エピローグ

「皆様ご卒業おめでとうございます」


 俺達は卒業式を向かえる。卒業式では来賓の偉いさんが長々と祝辞を述べて、皆一様に眠そうな顔で聞いている。


 もう、美咲と付き合ってから一年以上経つなんて時の流れは早いもんだ。もちろん一年以上経っても美咲は可愛い。


 ちらりと美咲の方を見ると美咲もこちらを見てニコリと笑う。うん、周りに花が咲いてますね。


 あの告白した日からも色んな事があった。まずは俺の事から。俺は相変わらずジムに通ってる。実は試合もした。結果は……置いといて、その試合を見た涼さんの試合の興業主だった高橋さんが大学の推薦の話を持ってきてくれた。


 俺が受けようと思ってた大学よりワンランク、いやツーランク上の大学で俺としては凄く有り難かったんだけど高橋さんに外堀を埋められてる様で若干怖い。なので春からは大学生だ。


 次は美咲かな?美咲は勿論推薦を貰って希望の獣医師になるための大学に進む。本人もやる気に満ちていて今からトルネードを聴診器で診察してた。


 トルネードは若干迷惑そうだったが『しょうがないわねぇ』って感じでされるがままの様だ。多分自分の方がお姉さんだと思ってるんだろう。


 付き合ってからも美咲はモデルの仕事もしてて他校からも見に来る人がいる程人気があるそうだ。


 最初は美咲の彼氏と言うことで因縁を付けられる事が少しあったけど、アマチュアで試合をして、その試合結果が広まったらしくそこから絡まれることはあまりなくなった。突発的に絡まれる事はあるけどね?俺モブ顔だし。


 そして我らが王子、王子も学校の先生になるために大学に進学する。てか俺達全員進学組だしな。


 相変わらずモテるようだけど、どうも好い人が出来たみたいだ。俺にはちゃんとしてから絶対報告するからって言われたから、あまりそこには触れないようにしてる。親友なんだ、上手くいってほしい。


 それから両親とのいざこざも……良い方向には向かってる。勿論すぐに元通りとはならないだろうが、後は当人同士の関係性だしな。



 それからタクは親父さんのやってる自動車の整備工場を継ぐために整備の専門学校に通うことになってる。今でも王子と三人で遊ぶことが多いが、どうも美咲と俺が紹介した女の子と良い雰囲気の様で一安心。


 あいつには本当に世話になった。中学高校と面倒臭い俺の相手をずっとしてくれてて、何だかんだ付き合いも長いから、感謝もしてる。本人には言わないが。


 最後は春川と委員長だ。何故一緒かと言うと、なんと同じ文系の大学に進む。委員長は将来本の編集者になりたいらしく夢に向かって勉強中だ。


 春川は…その…前から公言してるようにSM作家になりたいそうだ。将来は春川が本を書いて委員長が編集者として携わるのが目標らしい。


 完成した暁には絶対読んでね!と元気良く言われたが、え、SM小説なんだろ?俺にはハードルが高そうだ。


 各々無事?に進路も決まり夢に向かって歩きだしてる。俺だって将来はチャンピオンになっていずれは美咲にリング上でプロポーズを…なんて事も考えてる。


 まあまだ二人ともやりたいこともあるから先にはなるだろうけど。


「それでは、卒業生の皆様は──」


 っと色々考えてるうちに卒業式が終わったようだ。全然聞いてなかった。


 教室に向かい帰る準備をする。三年に進級して皆クラスが同じになった。王子だけ今まで別クラスだったし、ちょっと疎外感があったらしい。


 同じクラスで良かったってめっちゃ笑顔で言われたっけ。その時の笑顔は今でも覚えてる程眩しかったな。近くに居た女子なんて溶けてたし。



「よーし写真とろー!」


 準備も終わって桜が舞う校門で写真撮影だ。勿論何時ものメンバーで撮るんだが、王子や美咲とは撮りたい人が多いらしく結構な視線を感じる。まあ人気者だしね。


 美咲や王子が写真撮影に応じてる間にタクと話してると


「あの…先輩、写真良いですか?」


 俺に声を掛けてきたのは静原さんだ。あの後静原さんとはそんなに絡んでないけど、ちょくちょく会えば話したりする仲になってる。


 自分に告白してきた子を…と思わなくもないが、そんな事思ってるのは男だけで、女子からすると思い出は思い出だそうだ。(美咲談)


「ああ、撮ろうか」


 静原さんとも色々あったが、関係が悪くならなくて良かった。ちなみに森中は相変わらず一人だがあまり気にしてない様子だ。


 流石にあの一件以来大人しくしてるけど、正義感が強いのは変わらないらしくクラスでもズバズバ意見してるそうだ。クラスが違うからあんまり知らないけど。


「それじゃあそろそろ…」


 王子が囲まれてる人達に声をかける。ほぼ女子だけど。先輩!絶対遊びに来てくださいね!とか私先輩の事忘れません!とかすげー言われてる。


 すげー号泣してる子も居るし泣き崩れてる子もいる。ここ数ヶ月は王子への告白ラッシュが凄かったし籠ってる気迫が違ったんだろう。わかるよ君達、王子優しいもんな。


 美咲は友達との別れを惜しんでうっすら涙を浮かべてるけど、今の時代連絡はすぐ取れるしそこまで悲壮感は無さそう。


 けれど会う回数が減るのは間違いないし、やはり高校生活が終わると言うエモい事柄に感情が揺さぶられてるんだろう。美咲は結構感情的だしな。


「それじゃあコウ、美咲をよろしくね」


「ああ、任せとけ」


 今日で制服を着るのも最後だろう。王子や委員長が気を利かせて今日は二人っきりにしてくれるそうだ。二人で色んな思い出の場所を見て回る事にしてる。


 時間に余裕はあるが、早くでた方が色々回れるから、美咲に声を掛ける。


「美咲、そろそろ行こうか」


 俺の声に振り返る美咲。すこし頬と鼻の頭が赤らんでる。涙のせいだろう。


「うん、そうだね。それじゃあみんな─」


 その場を離れようとしてパタリと止まる。なんだ?忘れ物か?


「もう!さっきも言ったでしょ!」


 美咲の影に隠れて見えなかったが、そこにはガッシリと美咲の制服を掴んだ春川が居た。


「だ、だってみーちゃん!今日で最後なんだよ!?」


 懇願するように美咲に話し掛けてる春川を見ると必死さが伝わってくる。


「そうだよ?だからコウと一緒に最後の制服デートするんだから!」


「じゃあ私も連れてってよぉ!これでお別れなんて寂しいよぉ!」


 別に明日も皆で遊ぶから全然お別れじゃないんだが、美咲もなんだかんだ春川に甘いからなぁ。


「えー…ちょっと待っててはるちゃん、コウに──」


 はぁー…これは連れていく流れか?しゃーなしか、二人で回る所は後日にして…


「こら!麻衣!ダメだって言ったよね?ほら、離れて」


 そこで王子が登場する。


「しゅ、しゅうちゃん…こ、これは」


 明らかに動揺してる。春川は王子に弱いからな王子と美咲と春川で綺麗な三竦みが出来上がってる。


「ほらほら!行くよ!──二人も気を付けてね」


 そう言い残し王子が春川を連れていく。ありがとう王子。


「王子には何時も世話になりっぱなしだなぁ」


「んふふ、そーだね?でもあたしは嬉しいな最後の制服デート」


「ん?俺の方が嬉しいが?」


「えー!あたしの方がもーーっと嬉しいし!」


 そんなくだらない話をしながら街に向かう。恐らく後ろで王子やタク、委員長なんかにバカップルだって笑われてるだろうけど、今はそれすら嬉しい。




「はーもう卒業かぁ…早かったなぁ」


「そうだな」


 川沿いの桜並木の道を二人で歩く。俺達が最初に夏休みの買い出しの為に集まった場所の近くだ。当時は美咲を好きだって自覚してなくて、美咲を見た瞬間こんなに可愛かったっけ?って思った気がする。


「んー?なにー?」


 そんな事を思いながら美咲を見てると視線を感じたのか美咲がこちらを向いて聞いてくる。


「あーなんだ、今日も美咲は可愛いなって」


「へ!?な、なに急に!」


 俺の言葉に少し慌てた後ニヤニヤし始める美咲。嬉しいんだろう、良かった。


「コウだって今日も格好いいよ?筋肉も良いよ」


 組んでる腕をニギニギしながらそう答える美咲を見ながら幸せそうな顔をしてるのを見てまあいっかと思い直す。美咲が良いなら俺も筋肉も嬉しいだろう。


「あーあぁ、高校生活も終わりかぁ…でもさ!正直最初にコウに話し掛けられた時は付き合うなんて思わなかったなぁ」


 そうしみじみ語る美咲。


「だってさ“お話があります“とか言っていきなり話し掛けてくるし!変な奴に絡まれた!って思ったもん」


 そう言いながら美咲の顔は笑ってる。


「そりゃあ俺だってもっと格好良く話し掛けたかったけどさ、流石に話し掛けるのは緊張してたんだよ。春川の事もあったし変な方向に行かないように細心の注意をだな…」


 まあ確かにいきなり話し掛けたら変な奴だって思われるとは考えたが、あの時の俺の頭じゃ良い案は思い付かなかったしなぁ。


「そしたらさ!友達になってください!とか言ってきて冗談で友達料金くれたらって言ったら食いぎみで払ってくるんだもん」


 うーん、客観的に聞くと相当ヤバい奴だな俺

 良く美咲は友達になってくれたもんだ。


「そーんなコウが今では──」


 そう言って俺に後ろから抱き付く美咲。こういう、ふとした時に大胆な行動をするのは変わってないな。


「大好きな人になってるなんて、不思議」


 俺もくるりと美咲の方を向いて抱きすくめる。


「俺もこんなに大事な人が出来るなんて思ってなかった。高校生活もあのままボッチで終わると思ってた」


 嬉しい事も楽しい事も、沢山あった。青春なんて人それぞれだし、何が良くて何が悪いかもその人によって違ってくる。


 青春は誰にでも訪れる。けれど何もしなければ勿論何も起きない。俺の青春は変なところから始まったけど、今では良かったと思ってる。


 きっかけは多分何でも良いんだ。そこで一歩踏み出せるかどうか、そこが一番大事だ。


 俺の青春はきっとあの時からだ。


 ──友達料金払ったら青春始まった。

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