第115話

「そんで、高校に入って一年の時は超ボッチでタクとか数人の男子しか話し掛けてくれなかったんだが、二年に進級して…立花と春川を見てさ、すんげーもやもやして」


 そう、あの時立花が許せないとか春川が可哀想ってより俺の気持ちが凄くもやもやしてた。これは見過ごして良いのか?ってお前は傍観者になるのか?って。


 渦中に飛び込むのは苦しいだろうし、傍観者なら楽だろう。見て見ぬふりをしてれば自分には何も害は無いし。でも見えてる物を無視する事を俺は出来なかった。


「青春がしたいって理由は嘘じゃないし今でも思ってるけど、実際は俺の自己満足って言うかなんと言うか」


 そう言いながら罰が悪く頭をポリポリ掻く。すると立花が


「自己満足でも良いんじゃない?結果的にはるちゃんを救った?のかな、どちらかと言うとあたしが救われたんだけど。昔の自分の考えに、がんじがらめになってたあたしを救ってくれたのはコウだと思ってるよ?」


 そう言うと薄く笑う立花。本当に立花が救われたと思ってるならこれ程嬉しい事はない。


「そっ…か、立花の為に少しでもなってたのか。嬉しいよ本当に」


 自然と微笑んでる自分に気が付く。立花と居ると何時も笑ってる気がする。


「んーん!違うよ?少しじゃなくて一杯あたしの為になってるよ?本当にコウが居てくれて─」


 横を見ると少しブランコの揺れが激しくなっている。恥ずかしいんだろう。


「そんでさ、色々あって一緒に遊ぶ様になって王子とか委員長とかさ友達も増えて皆で買い出しに行ったり」


 そう、夏休み前の買い出しの時俺は立花が好きな事を自覚したんだ。それまでは王子と想いあってると思ってたから無意識にブレーキ掛けてたんだろう。王子曰くだか。


「あれが皆で行った最初だったっけ?あの時はコウが急に具合悪くなって心配したんだよ!」


 そうですね。貴女に対して恋の病を患いました。


「そんな事もあったな。その後海に行ってお祭りにも行ってさ」


 思い出されるのは何時も立花の顔、笑ってる顔や怒ってる顔、呆れた顔なんかもされたっけ。


「それに涼様の試合にも呼んでくれたしね!あたしあれは一生の思い出だよ!」


 あの時の立花は本当に興奮してたなぁ。試合中ずっと叫んでたっぽいし、少し涼さんに嫉妬した気がする。


「ずっと涼さん応援してたもんな。夢中で」


「そうだね、でもちゃんとコウの事も見てたよ?すっごい真剣に試合見てさ、急いで色々準備して、インターバルの間に涼様達と話してる所かとかすっごい格好良かったんだから!」


 完全に涼さんに夢中だと思ってたんだが、意外にも俺も見てくれてたらしい。あの時は必死でずっと試合見てたから気が付かなかったけど。


「そうなんか、なんか照れるな必死過ぎてなかったか?」


「なんで?必死で頑張ってたんだから格好良かったよ。頑張ってる人は誰でも格好良いと思うなあたしは」


 不思議そうに聞き返してくる立花。立花の中では必死は格好良いんだろう。今って必死=格好悪いみたいなイメージがあるからな。そうだよな、必死で何が悪いってんだ。


「んだな!必死で全然記憶ねーけどあの時は俺も最高に楽しかった」


「そうだよね!いつかコウの試合も応援したいねー」


 俺の試合かぁ…会長曰くまだ時期じゃないらしい。俺の実力じゃ早いってことだろうからしばらく先になりそうだけど。


「その時は最前列に招待するから見に来てくれよ。立花が応援してくれるなら誰にでも勝ってみせる!」


 応援が力になるのは本当で、何度も色んな人の応援で頑張れたって涼さんも言ってた。


「絶対行く!楽しみだねっ」


 ニコニコご機嫌の立花、今日は大晦日だし辺りには人影もない。年明けまで時間はあるけどあんまり遅くなりすぎるのも皆に心配をかけるしそろそろ──


「それでさ、立花と最初に会った時はただ可愛いギャルが居るなって思っただけなんだが、色々あって友達になっただろ?」


「可愛い……ありがと」


 最初はあたしは可愛いから!ってすげー言ってたのに言われると照れるのかよ。可愛いなおい。


「お、おう。んでここ数ヶ月は一緒に遊んだりする事が増えてさ、なんつーか…俺の中で立花の存在が大きくなってきて」


 色々考えて喋ってるがどうも言葉が追い付かない。こんなんで良いのか?立花は大人しく聞いてくれてるみたいだが。


「最初に気が付いたのは皆で夏休みの買い出しに行った時で、それからどんどん気になっていって、いつの間にか目で立花の姿を探すようになってて…」


 しんと静まり返る夜の公園で俺の声と少し揺れてる立花のブランコの音だけが響く。


「立花が笑ってると俺も笑えるし、立花が怒ってたら俺も腹が立つ。悲しんでたら一緒に乗り越えたいし、これからも一緒に楽しい事や感動する事なんかしていきたいんだ」


 緊張で立花の方を見ることが出来ない。心臓はバクバク言ってるし、今にもブランコの鎖がちぎれるんじゃないかって程強く握ってる。




「これから一緒に…ずっと一緒居たいんだ。立花美咲さん俺は貴女が好きです」




 言った。俺の素直な気持ちを。


「出会った形は変だったけど、いや…周りの皆曰く俺も変らしいけど…正直性格は悪いし顔はモブ顔だし結構すぐカッとなるし後先考えないで突っ走る事も多いし…」


 何言ってんだ俺は!今はそんな事言う時じゃないだろ!


「それにトレーニングバカだし、から揚げもバカみたいに好きだし…それでも!俺は立花の事が──」


 支離滅裂になりながら気持ちを伝える。くそ絶対失敗した…。


「最悪…二度と言わないで」


 立花の声が静まり返る公園に響く。





 終わった…俺と立花の関係はここで終わりだ。元々俺と立花が不釣り合いなのはわかってただろ?


 一時でも夢を見られたと思って諦めろ。それが立花の……立花の……。


 もう二度と立花の笑顔が見れないと思うと自然と涙が出てくる。


 こうして俺の青春は──

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