第111話

「おじゃましまーす」


「……お邪魔します」


「おう、寒かったろ入れよ」


 時は12月31日大晦日、そういよいよこの日がやって来た。漢 田中浩一、一世一代の勝負の日だ。


 最初に来たのは立花と春川だった。まあ、立花はから揚げ神でもあるから早めに来てるって訳だ。


 ……本当は立花だけ早く来ると思ってたから少し二人で話なんかでも、なんて思ってたんだけど


「さーて!美味しいから揚げ作りますかぁ!」


 から揚げ神は気合いが入ってる様だがその後ろで俺をじっと見詰める番犬が一人


 絶対なにか察してるな。王子が直接話すなんて事は無いだろうから、野生の勘で感じ取ってるんだろう。普段はぽけーっとしてるのに立花の事になると急に有能になるんだな。


 ずんずんと家の中に入っていく立花の後ろをこちらを見ながら付いていく春川。その目には近寄らせねぇ!と言う強い意思を感じる。


「な、なんか手伝う事あったら言ってくれよ」


「うんーその時はお願いするー」


 今の俺の精一杯の声掛けだ。これ以上は…くっ!春川が恨めしい!



「もーはるちゃん!危ないって!向こう行ってて!」


 その後も春川は立花にくっついて離れなかったが、遂に包丁を使う段階になると立花も危険だと判断して離れるように言った。


 春川も立花に怒られて流石に諦めたのか俺がいるリビングまでとぼとぼと戻ってきた。


 戻ってきたは良いんだがまだ俺の事をじっと見てる。別に怒ってる訳じゃ無さそうだが、良い感情だけって感じでも無さそうだ。


 しばらく二人の間で沈黙が続き俺は我慢できずに


「……なんだよ?」


 俺から声をかける、だってずっと見てくんだもん!


「……………」


 声を掛けてもずっとこちらを見詰めるだけの春川。え、気まず。


 王子ー!タクー!早く来てくれーー!どうなっても知らんぞぉぉぉ(俺が)



 ピンポーン


 ガタッ!


 思わず体が動いてしまった。これはきっと天の助けだ!じっと見詰める春川を置き去りにして玄関へ向かう。


「──っ!良く来た!」


 ドアを開けるとそこには王子とタクが二人で並んで立っていた。


「おまたせーなんでそんな嬉しそうなの?」


「こんー王子言わせんなよ、俺達が来て嬉しいんだよコウは」


 確かに嬉しいが、理由が違う。


「まじで気まずくて…」


 とりあえず今までの春川の行動を聞かせる。


「はぁー…ちゃんと話し合ったんだけどね…勿論作戦の事は言ってないけど、麻衣本人もある程度察してただろうし」


 王子はある程度ぼかして話してくれたみたいだけど、春川には逆効果だったか?


「ごめんね、ちょっともう一回話してくる」


 そう言いながら俺とタクを置いて、春川の居るリビングまで早足に向かう王子。


「まあなんだ……頑張れ」


 タクの憐れむような視線が突き刺さるぜ。


 リビングに向かうと春川と王子の姿は無く、多分別室で話してるんだろう。キッチンに立花居るし万が一聞こえたらって配慮かな?出来る男、王子。


「んで、俺はここでしばらく寛ぐわけだよな?コウ?今が楽しく話すチャンスじゃねーか?」


「っ!!お前……さてはモテるな?」


「フッ、言うなよ。行ってこい」


 モテるタクのアドバイスを元にから揚げを揚げてる立花の所へ向かう。


「どんな感じ?」


「ん?良い感じだよー鶏肉もパパが良いヤツ買ってきてくれたから、かなり美味しいと思う!」


 髪を後ろに縛ってエプロンを着て、から揚げを揚げてる立花。うん、可愛い。


「おー良いね良いね、これなら王子も旨すぎて踊りだすんじゃねーか?」


 から揚げを一口食べて踊りだす王子を妄想する……?出来ない。


「王子も踊りださないだろうけど、絶対美味しいって言うよ!踊りださないけど!」


 立花の中では踊りださないのは決定らしい。


「そう言えばさっきインターホン鳴ってたけど、王子達来たの?」


「あぁ、王子とタクは来たよ。後は委員長だけかな?」


 王子は着いて早々に春川とお話してますが。


「そっかもうすぐ揚がるから、王子には揚げたて食べて貰お?」


「おー!そうだな!伝えてくるわ」


 から揚げ神のから揚げは冷めても旨いが、揚げたてだと更に旨い!



 リビングに戻ると既に王子と春川は話を終えて戻ってきていた。春川は俺を恨めしそうに、王子は苦笑いだ。


「お、おう、から揚げもうそろそろ揚がるから委員長には悪いが揚げたて取り敢えず食べようぜって話しになったんだが…」


 俺が話してる間もずーっとこちらから目を反らさない春川。王子?本当に話してくれたの?


 そう思って王子の方を見ると


「ほーら麻衣、ちゃんとして!」


 王子の言葉に一瞬ビクッと動き先程まで重かった口を開く春川。


「……田中君私はみーちゃんが幸せならそれで嬉しいの、だからみーちゃんが良いなら私も良……やっぱり良くないけど我慢する」


 明らかに不機嫌な顔をした春川がそう俺に告げる。


「もう…麻衣が言いたいのはね、邪魔はもうしないって事。そうだよね?麻衣」


 王子が補足してくれる。なるほど?今のはそう言う意味なんか。


「でも!もしみーちゃんを悲しませる様なことしたら」


 急にこちらキッと睨むと──


「絶対○す」


 絶対○すマンじゃーん!いや女子だからウーマンか?


「こらこら麻衣、コウがそんな事するわけ無いよ」


 王子が咄嗟にフォローに入る。はぁ王子が居て良かった。


「でももし本当に美咲を悲しませるなら…」


 え?王子まさか?


「絶対○す」


 で、でたー!絶対○すマン!こえーよ!春川の方を見るとなんかドヤ顔してるし。王子を味方に付けてご満悦の様子。


「ってのは冗談だけどね?それに信じてるしコウの事」


「う、うん任せてください」


 別に俺が責められてる訳じゃ無いんだが、なんだか敬語になってしまった。そんな俺をタクがニヤニヤしながら見てた。クッソ!


 ピンポーン


「お?委員長来たか?ベストタイミングじゃん俺が行ってくるわー」


 そう言って微妙な空気の俺と春川を残してタクが玄関に向かう。俺も行きたい。



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