第105話
「それじゃあコウちゃん、行ってくるからね?戸締まりと火には気を付けてね?」
「コウ、何時でも電話して良いからな?……やっぱり一緒に来るか?今からでも間に合うか?ちょっと宿に電話を……」
「父さん、大丈夫だから。行ってらっしゃい楽しんできてね」
「あ、あぁ…そうか?じゃあ行くぞ?本当に?」
期末試験も無事に終わり、いよいよ年末を迎える。両親は前に言っていた様に二人で旅行へ出掛けた。父さんは最後まで心配してたけど、一週間ちょっとだし何とでもなるだろ。
あぁ、因みにクリスマスだが男三人で過ごしました。立花や春川、委員長も家族で過ごすらしく、タクと王子を連れ立ってイルミネーションが綺麗なスポットなんかに行ったぜ!
周りはカップルだらけだし、男三人組なんてどこ見ても居なかった。それは凄い疎外感だったから、すぐに近くのファミレスに移動したんだが、そこもカップルだらけでした。
急いで王子の家へ避難して、途中のコンビニで買ったケーキを男三人で食べる。テレビを見ながら乾いた笑いが響き、全員喉元まで
(これなら家で一人で過ごした方が…)
と言う言葉が出かけたが、友情の為にグッと我慢した。その日は王子の家に泊まる予定だったので、三人とも早々と寝ることに。
翌朝は微妙な空気のまま外へ飯を食いに行って、そこでやっと昨日の話題を話す。
「なんだか…昨日は、その…あれだったね」
「ああ、あそこまで疎外感があるとはな。怖いもの見たさで行くんじゃなかった」
王子がなんとも微妙な言い回しで喋り始めたが、昨日の惨状は…言葉に表しづらいよな。
「大体よー!クリスマスは聖なる日だろ!?カップルでイチャイチャしやがってよー!」
「タク……負け犬の遠吠えにしか聞こえないからやめようぜ」
確かに同意する部分もあるが、わかってて行ったのも俺達だしな。
「お、おう……よし!鬼ごっこしようぜ!」
タクがいきなりおかしな事を言い始めた。カップルを見すぎて頭が…。
「はあ?お前いきなり何言って─」
「良いね!こういう時は体を動かさないと!」
え?賛同すんの?二人が俺を見てくる。今から?本気か?
「あーまあよ、負けるのが怖いなら別に良いんだぜ?コウ。なあ王子、許してやろうぜ?」
「そっかぁ…コウは逃げないと思ったんだけどなぁ。しょうがないねタク」
ほほう?お前ら命は要らないんだな?
「この鬼ごっこ界の野獣と呼ばれた俺を舐めて貰っちゃ困るな。……覚悟は良いか?」
数分後、そこには12月25日朝9時43分の公園で全力で鬼ごっこに興じる高校二年生男子三人の姿があった。
全員鬼になると、まさに鬼の形相とも言うべき顔をして相手を追い掛ける。それは世の中のカップルを呪う様な気持ちが具現化したのではと言う程の鬼気迫るものだった。
因みにクリスマスの朝という事でほとんど人は居らず、何とか通報だけは免れたようだ。もし普通に人が居たら、クリスマスから警察の方々のお叱りを受けただろう。
っとまあ、こんなに楽しいクリスマスを終えて、両親の旅行の日になったわけだ。実は立花にクリスマスの予定を聞いて双子ちゃんや家族と過ごすから、ごめんねと言われた時は家に帰って枕を濡らしたものだ。
でも、本来はクリスマスって家族で過ごすものだしな。双子ちゃんはまだ小さいし、家族で楽しく過ごして貰えればと思う。
「はぁー…ひとりかぁ」
普段なら独り言なんて言わないが、ひとりになると出るもんなんだな?一人暮らしすると独り言が増えるらしいしな。
しかし!俺はこれから!立花と買い物に行くのである!これはデートかな?まあ、前話してた年末に皆でパリピパーティーしようって言ってた奴の買い出しなんだけどね?王子もいるしね?
「さて、立花と王子が来る前に準備しますかぁ」
ピンポーン
「はーい」
それから数十分後、玄関のチャイムが鳴る。立花かな?王子かな?
ガチャ
「おはようコウ」
「おう、おはよう王子」
先に着いたのは王子だった。いや、全然嬉しいけどね?立花が早く来たらちょっと二人で話せるかな?とか思って…ました。
「ごめんね美咲じゃなくて。ちょっと遅れるかもってさ美咲は」
「な、なに言ってんだよ!王子も嬉しいよ…まあ、あがって」
「はーいお邪魔します」
まったく!真理をつくなよ!王子は勘が鋭いんだからさぁ。
「しかし、夫婦で高校生の息子を残して旅行かぁ…信頼されてるねぇコウは」
「そうか?普通じゃないか?もう高校生なんだから、一人で一週間ちょっと過ごすなんて誰でも出来るだろ?」
大人でも無いけど、ずっと見てなきゃって程子供でもないだろ。
「いやー高校生の息子を一人置いて家を空けるってかなり信頼無いと無理じゃない?高校生なんて遊びたい盛りだし、何が起きるかわかんないもんだよ」
「んー…どうなんだろ?でも、信頼はして貰ってるんじゃないかな。日頃からそう接してくれてると思うよ」
王子の所はなぁ…色々と複雑だしな。出来れば一緒に解決したいけど、それも本人次第ではあるし。
それからしばらくして
ピンポーン
「ん?美咲来たかな?」
「ちょっと行ってくるわー王子は座ってて」
トコトコと玄関へ向かうと、何やら玄関前が騒がしい。あれ?立花じゃないのか?と思いつつ玄関のドアを開ける。
ガチャ
「おはよーコウ!ごめんね遅くなって」
そこには今日も可愛い立花が居た。居たんだが…
「おはよう……えっと?」
「あーごめんね…どーしても付いてきたいって聞かなくって…迷惑ならすぐに帰すから」
そう言いつつ立花の後ろに目をやる。そこには…
「こうにーちゃーん!!なんであそびにこないの!!」
「そらくんがらいだーきっくするよ!!」
立花の家の双子ちゃんが居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます