第103話

「すいませんでしたーーー!!」


 この、憐れな生物は田中浩一。後輩を勘違いからガンガンに責めて勝手な妄想を繰り広げた馬鹿です。


 即座に土下座をし許しを乞う。


「ちょっ!辞めてください先輩!元はと言えば私が悪いんです!止められたのに自分の気持ちを抑えられなくて協力したんですし」


 そうだけど、そうだけどさ。俺は静原さんがくそ教師と森中を操ってる黒幕だと思ってたんだよ?高校一年生の女の子の事を!今考えればどんな妄想だって話だよ。


 何が “遂に綻びが出始めた。明らかに動揺してる。”(キリッ)だよ!恥ずかしすぎるだろうお前。


 大体元凶はくそ教師じゃねーかよ!何が、何でもするだよ!じゃあ辞めろや!!


 自分の失態の恥ずかしさをくそ教師のせいにして心を落ち着かせる。ふっー…落ち着いてきた。


「それでもあらぬ疑いを掛けてしまったからね…」


「いえ、私も自分の愚かさを再認識しました。先輩にはフラレるし気分は最悪ですけど、何だか心が軽くなった感じがします!今の話を職員室で先生方にしてきますね!本当にご迷惑お掛けしました。後日立花さんにも謝りにいきます」


 早口でそう喋ると足早に教室を出ていく静原さんを唖然と見送る事しか出来なかった。そっかぁ…そうだよな。俺はあんな綺麗な子に告白されて、しかもフッたのか…。


 人の気持ちは、ままならないものだし俺も真剣に答えたけど、そっかぁ…人の気持ちなんて何時どうなるかわかんないよな。


 ぼんやりと立花の顔が浮かんでくる。あの笑顔も笑い声も今は俺に向けてくれてるけど、このままぐずぐずしてたら何時かは立花も…


 俺は立花達に合流するべく、校門へ歩いて行く道すがらそんな事を考える。そろそろ校門に差し掛かろうと言う時に


「もーー!遅いよ!何忘れてたの?」


 立花が居た。何時もの元気な、がんばり屋で寂しがりで皆に優しくて…


「立花…俺…お前の事が──」


「あ、王子から電話だ。もしー?店決まったの?うんうん、コウとは合流したよーオッケー向かいまーす」


 言い掛けた言葉を飲み込む。あっっっっぶねぇぇぇぇえ!!俺今告白しかけてなかった?勢いでさ!いやいや!勢いも大事だけどさ!もっとこう……ムードとか?そんなのがあるだろ俺!!


「もうお店決まったってさーそれで、何?何か言い掛けてなかった?」


 心臓がバクバクいってるけど平静を装う。顔が赤いのは……。


「な、何でいきなりその場でスクワット初めてんの?」


 筋トレで誤魔化す!スクワットは全身に効くから凄く良い運動だ!顔が赤いのも誤魔化せる!


「はぁ!いきなりスクワットがしたくなったんだよ!それより何で立花が居るんだ?先に行ってて良いって言ったろ?」


「そりゃーコウが一人で寂しいかな?って待っててあげたんじゃんかー!…それにちょっと怖い顔してたしね?大丈夫かなーって」


 心配で待っててくれたんか。


「そんな顔してたか?まあ色々片付いたから大丈夫だ。心配掛けたな」


 後日静原さんが謝りに来るみたいだし、今は濁しておこう。


「てか、そんな怖い顔してたか?普通だろ?」


 ポーカーフェイスには自信があるんだけどなぁ。


「普通じゃなかったよ!こーんな!こーんな顔してた!」


 こーんなって言いながら指で自分の目を吊り上げて見せる立花。そんな顔だったか?


「いやいや!こーんなは言い過ぎだろ!全然普通だったって!」


「そんなこと無いもーん!こーーんなだったー!」


 更に目を吊り上げて見せてくる立花を見てつい、笑いが込み上げる。


「ぶははは!面白い顔ですね?」


「もー!人が心配してたのに!馬鹿!コウなんてこうだ!」


 そう言いながら俺をくすぐり始める立花に両手を挙げて降参する。


「すまんすまん!ありがとうな心配してくれて。皆に合流しようぜ」


「分かればよろしい!よーし行くぞー!」


 皆に合流するまで二人で他愛もない話をして歩く。この感じが何時までも続けばって思うが、俺は立花を好きなんだ。今日改めて、静原さんの前で気持ちを言葉にしたら、この気持ちは本物だって、わかった。


 楽しそうに話す立花を横目に見ながら考える。この笑顔を守りたい、一緒に笑いあいたい。誰にも立花を…。


 勿論こんなのは俺のエゴだってのはわかってるんだ。でも、今日静原さんと話して立花が他の誰かを…って考えた時に俺は耐えられないと思った。


 断られるのは正直怖い。でも、動かなきゃ何も変わらない。いや、俺だけが変わらない。イジメられた時だって、勘違いから春川を救おうとした時だって、動いてなきゃ絶対に後悔してる。


「おーい!もうすぐ着くから!ダッシュダッシュ!」


 夕焼けが立花を後ろから照して、髪の隙間からキラキラと光って見える。あぁ、あの時と同じだ。俺が立花を好きだって感じた時と。


 俺は──



 立花に告白する。



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