第101話
「居た……」
とりあえず教室に一旦戻ったら、探す迄もなく俺達の教室の様子を伺ってる静原さんが目に入ってきた。
俺は一つ息を吐き、声を掛ける。
「静原さん」
こちらを振り返る静原さんは、何処か不安気で儚い印象は変わらず、俺の勘違いなんじゃ無いかとすら思えてくる。
多分俺は、俺の予想が外れて欲しいんだろう。でも、こういう時の予想は大体……。
「先輩!どうしたんですか?」
何時もと変わらない感じの静原さん。これも演技なのか?いや、別に普通だろ?
「ちょっとさ、話があって…少しこの後時間ある?」
俺が話があるって言うと少し嬉しそうにスマホを取り出して何かを確認してる。
「はい!大丈夫ですよ!行きましょう先輩!」
俺の腕を取ろうとする静原さんを、やんわり避けて空いてる教室に向かう。
「それで?話って何ですか?」
余程嬉しいのか、ご機嫌で話す静原さんを見ると、何だかただの青春の一ページのように思えてくる。
「……ああ、実は今日さ、立花に少し問題があってね」
全然関係無いのなら、全部話すわけにもいかないし、最初は簿かして話す。
「立花先輩に問題ですかぁ……何か悪いことでもしたんですかね?それの相談ですか?」
何か悪いこと…今の一言で、ぐっと近付いた感じがする。やっぱり──
「まあ、そんな感じかな。そう言えば、静原さんは森中と仲良いの?」
「え?森中先輩ですか…?全然仲良く無いって言うか…話したことも無いですよ?」
まったく、何を急にこの人は?みたいな感じで話してるがこれは嘘だ。だってあの日…二人が話してるのを俺はしっかり見てる。
「そ、そっか」
余りにも自然に嘘を付かれて凄くビビる。こんなにも違和感無く人って嘘つけるの?何も知らなかったら絶対に見抜けない。
「もー!何ですかいきなり?森中先輩がどうかしたんですか?」
良く良く見れば、少しだけこちらを探る様な目で見ている事がわかった。これは森中の事が気になってる証拠か?
「実はさ、立花の問題を森中が悪く広めて担任まで巻き込んだ騒動になったんだよね」
努めて淡々と話す。不思議と感情的になりそうじゃ無さそうだ。まだ、確信が無いからだろうか?
「えー!大変ですね!……それでどうなったんですか?」
静原さんの一挙手一投足が俺を騙そうとしているように見えてしまう。俺が疑いの目で見ているからなんだろうけども。
「しっかり誤解だって事を説明して無事に疑いは晴れたよ」
聞いていた静原さんは、一瞬だけ顔を強張らせた様に見えた。
「そ、そうですか…じゃあ、どうしたんですか?解決したんですよね?」
先程とは違って少しだけ動揺してるのか、話題を変えたいのか、結論を急かしてくる。
……切り込むか。
「静原さんはさ、森中と話したこと無いって言ってたよね?」
「…そうですね、どうしてですか?森中先輩との関係を聞いてくるなんて、何だか私が疑われてるみたいな」
これだけ森中の話題を出せばそう思うよな。
「あぁ、俺は変に嘘ついたりするのは苦手だから、言っちゃうけど俺、見たんだよな夏休みに森中と静原さんが店で喋ってる姿を。しかも真剣に二人で話してたから、二人の関係が良い方向に向かってるのかな?って思ってたんだけど」
俺が目を見ながら話していたら、途中でスッと目を反らされた。嘘をついたのがバレたからなのか、それとも、この騒動の黒幕は…
「え…見られてたんですか……?そんな……で、でも!違うんです!」
遂に綻びが出始めた。明らかに動揺してる。
「俺はさ、森中の事嫌いじゃないんだよね。だからアイツがどんな奴かはわかってるし、一人で担任への根回しやら何やらを出来るとは、あんまり思えないんだ」
一番気になってたのは、森中の性格からしてこんな綿密に計画するのか?って事だ。
だって考えても見てくれよ。森中は最初から春川を直接立花から庇って立花に睨まれてただろ?俺もあの時はもう少し考えろよって思ってた気がする。
そんな空気も上手く読めない森中が担任と共謀して立花をどうにかしようとするのか?てか、やれるのか?って所が気になってた。
そんな時に、森中と静原さんが真剣に話していた事を思い出して、俺の性格上どうしても確かめずには、いられなかった。
勿論俺の勘だけだから、外れてる確率の方が高かっただろうが、今回は……。
「その…そんなんじゃ無くて…あの、その…」
少しだけ目に涙を浮かべて弁解しようとしてるんだろう。でも──
「静原さん、静原さんが知ってるかはわかんないけど、俺は嘘をつくのもつかれるのも凄く嫌いなんだ。静原さんは咄嗟に森中とは話したことも無いって言ったけど、それは嘘だよね。俺も引っ掻ける様な言い方だったけど…これ以上嘘をつかれるなら──」
「俺は君を軽蔑する」
ツーっと涙が頬を伝って流れる静原さんを見て少し罪悪感を覚える自分に嫌気がさす。
相手は立花を傷付けようとしたのに、自分に好意を持ってくれている相手を泣かせた事への罪悪感なのか、ただ単に年下の女の子を泣かせたからなのか。
「だ、だって……だって!!」
想いを俺にぶつけるように、静原さんが言葉を投げてくる。
「す、好きなんですもん!先輩が!!」
はあ……俺は人生で初めて告白されたみたいだが、その事より俺のせいで立花があんなに悲しんだかと思うと、まったく喜べなかった。
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