第100話
「やあやあ!春川さん!悪は成敗されたはずだから、これからは安心して学校生活がおくれるよ!」
そう言いながら大袈裟な身振り手振りで近寄ってくる森中。はぁ~…やっぱこいつかよ。
「森中…お前が担任けしかけたのか?」
俺が森中に尋ねると
「ん?いやいや、風の噂でな?やっぱり見る人は見てるんだよ田中。お前も被害者なんだから…良かったな!」
……正直何時もなら森中を殴りたくなりそうだが、今はそんな気持ちにならない。勿論立花の件が無事に片付いたと思ってるのもあるだろうが……俺はそんなに森中の事が嫌いじゃないのかもな。
立花が春川へ強く当たってたのは事実だし、双方合意だと知らなければ…まあ俺は知らなかったから、友達になって止めるなんて作戦をやったんだけど。
だから、森中がやった事は立花の友達としては許せないが、俺個人の…本当に個人的な感情で言えばそこまで怒りは湧いてこない。
今回の森中のやり方だって、森中側からしてみれば自分じゃ手に負えないから、担任に相談するってのも、至極全うだし内容だって全部が全部嘘って訳でも無いからな。
それでも俺達の中での森中の評価は最低だろう。特に立花の事を想ってて今回一番心配して人物からしたら…。
「さあ!こっちへ!もう無理して近くに居る必要は無いんだよ、春川さん!」
それはもう、自信満々に春川へと近付いてくる森中。春川は震えている。森中は立花が怖いからとでも思ってるだろうが、俺達には分かる。怒髪天だ。
「ほら、春川さ─」
森中が春川に手を伸ばそうとしたその時─
「触るんじゃねえよ!!!気持ち悪い!!」
鬼の形相で森中の手を払いのける。
「え?な、どうして?え?」
春川の豹変に森中は唖然としてるばかりで言葉が出てこない様子だ。
「本っっっっ当に気持ち悪い!私のみーちゃんを陥れようとした奴が話しかけてくるんじゃねえよ!!あまつさえ触ろうとするとか、あり得ない!!」
春川は止まらない。今まで顔は悪くないから、ある程度はモテてきたであろう森中は、こんな対応を女子にされたのは初めてなのかもしれない。
「何を……そうか!立花!お前春川さんに何を吹き込ん──」
ガバッ!
「離して、田中くん!」
「流石に不味いだろ。本当に不利になるぞ?」
森中の言葉を聞いた春川は、明らか森中に殴りかかろうとしてた。と言うか俺が止めなきゃ殴りかかってた。
「いやいや…あれはないでしょ」
「あんだけ言われて気が付かないのは本当にヤバイね」
「自分が嫌われてるだけなのにねー」
一部始終を見ていた周りの生徒からも、ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。殆どが森中の行動に批判的な意見のようだ。
「な、そんなはず無いだろ!僕は…だって!」
はあ…やっぱりこいつか。しかし、本当に森中が一人でやったのか?じゃあ俺が見たものは偶然か?
「おーい、騒がしいな…?今日は中里先生が体調不良で自習になるから他の奴にも伝えといてくれ」
教室に田渕先生が入ってきて皆にそう伝える。ふーん…体調不良ねぇ?
「それと森中、お前はちょっと話があるから付いてきなさい」
先程の出来事で、すっかり意気消沈した森中に田渕先生が声を掛ける。まあ、事情を聞かれるんだろう。
「……はい」
何かを察したのか、素直に付いていく森中の後ろ姿を見ながら、ある出来事を改めて思い出す。
あれは……立花にから揚げをご馳走になった日の帰り道だったよな…?
田渕先生が教室を出ると、立花と春川の周りに人が集まってきた。そりゃあんだけ騒げば注目の的だろう。事情を聞かれてるみたいだが、答えづらそうにしてるなぁ。
「うん、別にもう解決したし、大丈夫だよ」
当たり障り無い答えを返してる立花の横で春川は番人の様に立ちながら立花を守ってる?ようだ。女子にはあんまりいかないが、男子には目線で牽制してる。
まあ、あの女子の輪の中に入っていける男子なんて居ないだろうけどな。
結構あの後森中も、くそ教師も戻ってこなかった。下校時間になって、今日は皆でパーッと遊ぶか!って話になっている。
「じゃあどーしようか?」
「みーちゃんが行くなら何処でも良いよ!」
「もう!はるちゃん!そう言うのが一番困るの!」
「えへへへ…」
どうもみーちゃん、はるちゃんに呼び方は戻ったみたいだった。春川はそりゃあ嬉しそうにしている。
立花も、もう春川を守るだけじゃなくて自分を守ってくれる親友だってことが十分わかった事だろう。あの剣幕を見れば異議は無いよな。
しかし、俺には──
「すまん、忘れ物したわ。先に行っててもらって良いか?後で合流するわ」
「もー何やってんの、コウ!早く取ってきてよー待ってるからさぁ」
立花達は俺を見ながら笑ってるが、どうしても俺は笑えなさそうだ。俺が考えてる事が真実なら、今回の騒動は…。
「いや、ちょっと探すかもしれねーから先に行ってて良いぞ。絶対後で合流するから」
「んー?本当に?てか、大丈夫?なんか…あるの?」
いかんなぁ…ちょっと態度に出てたかもしれない。
「いや!まじで大丈夫だから!先行っててくれよー!」
俺は話を強引に終わらせて校舎へ走る。
静原さんを探しに。
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