第99話

「は?渡してない?どう言うことだ?こっちは教室でその様な話を聞いたと、複数の生徒から裏は取ってるんだぞ?」


 やはり、タクとの教室での話を聞かれてたのか…。自分達の無用心さに怒りを覚えるが今は考えても仕方無い。反省は全部終わってからだ。


「いやいや、俺が立花に何でお金を渡すんですか?俺達はこんなにも仲が良いのにそんな事するわけ無いでしょ?」


 ふんっ!大体被害者と目されてる俺が無いって言ってんだから、普通は、そうか、それなら良かった。で終わるだろ?やっぱ何かおかしいな、こいつ。


「立花に友達になって貰う為に金銭を渡したと話してるのを聞いた生徒がいるんだ。それは事実だろ!」


 ふむふむ…まじでしっかり聞かれてるな。やっぱり何者かが悪意を持って立花を貶めようとしてる。


 昨日の話し合いで一応の目星はつけたが、アイツ頭は悪くないけど、ここまで綿密に行動出来るのか?結構抜けてる所あるんだけどなぁ。


「まあまあ、落ち着いて下さいよ先生。確かにそんな話もしたかも知れませんけど…それゲームの話ですね。何なら一緒に話してたタク…川島に聞いて貰っても良いですよ?」


 大体、本人に確認もせずに盗み聞きした内容で推薦取り消しにっておかしすぎるだろ。そっちがその気ならこっちだって何だってするよ?


 俺達と川島がつるんでる事を知ってるくそ教師は、苦虫を噛み潰した様な表情でこちらを睨み付けてくる。もう、打つ手は無いだろ?


「先生、わかって貰えましたか?それじゃあ今回の件は、全て誤解と言う事で…」


 委員長が、まとめに入る。何とか問題が片付いた事で皆表情が柔らかくなってる。立花と春川は、目が真っ赤だか。


「──だめだ!そんな噂が複数あるような生徒を我が校は推薦出来ない!」


「はあ!?」


 混乱のあまり素が出てしまった。何を言ってるんだ?このくそ教師は?お前が持ち出した問題は全て誤解だって言ってんだろ?


「先生!それはあまりにも横暴です!あり得ません!!」


 流石の委員長も声を張り上げて抗議する。立花は唖然として、春川なんて今にもくそ教師に飛び掛かりそうだ。


「だめだ!だめだ!この話はもう終わりだ!」


 席を立とうとするくそ教師を、止めようと俺も立ち上がる。くそ!このままじゃ!


「どうされました?さっきから大きな声が聞こえてきてますが?」


 そこに現れたのは学年主任の田渕先生だ。


「あ、田渕先生…何でも無いんです…」


 さっきの勢いがいきなり無くなるくそ教師行くなら今か?


「田渕先生!聞いてください!」


 観念したように席に着くくそ教師と静かにとなりに座る田渕先生。とりあえず、今までの経緯を話す。話してるうちに、くそ教師はどんどん顔が青ざめていき、逆に田渕先生の顔色は赤くなってきている。


「──と、言った感じで全て誤解なんです。なのに…」


 委員長が非難するようにくそ教師を見る。


「中里先生…どう言うことですか?」


 そう言えばそんな名前だったっけ?こいつ。


「いえ……こ、これはですね、違うんですよ」


 明らかに動揺してるくそ教師。てか、こいつ独断でやってたのか?


「何が違うんですか?こんな大事な事を…職員会議でも議題に出してませんよね?」


 怒気すら感じる程の声色でどんどん問い詰めていく。


「そ、それはですね…ある程度まとまってから話そうと…」


 この期に及んでまだ言い訳をかましてくるくそ教師へ田渕先生の鋭い言葉が飛ぶ。


「ある程度まとまってから!?何を言ってるんですか!!こんな問題!生徒の将来が決まるかもしれないんですよ!!何を考えてるんだ!!」


 怒号が響く。他の先生も様子がおかしいと覗きに来るほどだ。


「あ、あぁ……」


 くそ教師は観念したのか脱力して椅子から崩れ落ちる。実は田渕先生は一年の時に俺のクラスの担任だった。普段は生徒からも、ぶっちーなんて呼ばれて親しまれてる。


 しかし、怒ると怖い。去年の文化祭で俺が教室に一人で置き去りにされた事件が発覚した時は、交代してた爽やか山田と、タク以外のクラスメイト達は俺が引く程怒られてた。


 それでも生徒から慕われてる凄く良い先生だと俺は思ってる。ボッチの俺にも色々話しかけてくれてたしな!田渕先生は以外に格闘技が好きなんだ。だから話も合ったし。


「はぁ……すまんな立花達、これはここだけの話にはなりそうにない。一旦私に任せてくれ。悪いようには決してしないから」


 ここは田渕先生に任せた方が良さそうだ。そう思い委員長の方を見ると、委員長も頷いている。


「それじゃあお願いします。田渕先生」


「おう、心配させてすまんな」


 子供相手でもしっかり頭を下げる田渕先生に、尊敬の感情が湧いてくる。だって別に田渕先生悪くないのにな?くそ教師は床に崩れたままだし…。





「「「失礼しましたー!」」」


 四人で職員室を出る。王子とタクがすぐに駆け寄ってくる。


「ど、どうだった?」


 王子もタクも不安だったんだろう、顔を強張らせながら聞いてくる。


「多分……大丈夫だと思う!」


 立花がそう言うと、二人共パッと顔が明るくなり、その場で跳ねたり喜んでるみたいだ。


「そっかぁ!麻衣の大きな声が聞こえた時は、焦って職員室に突入しようとしちゃったけど、何とかなったのかぁ…良かった!」


 あまり廊下で騒ぐのも体裁が悪いので、教室まで歩きながらくそ教師とのやり取りを話していく。




「なるほど…そこまで頑なだったんだね。これは、やっぱり裏がありそうだね」


 一通り話を聞いた王子の感想に皆頷く。ここまで来て、くそ教師だけであそこまで意固地になるとは思えないしな。


 話ながらだと、教室へはあっという間に着いた。まだ授業が始まるまで時間があるからか、登校してきた生徒はそれほど多くなかった。


 とりあえず六人で教室に入る。まだ時間あるし、少し王子とも話したいしな。


 そう思っていると、ニヤニヤしながら一人の人物が近寄ってくる。タクが黒幕じゃないかと、目星をつけていた奴………森中だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る