第91話

「あーまあ、気にしてないは嘘になるけど、もう済んだことだし別に良いよ」


 あの時は、かなり頭に来てたけど立花の仲裁のお陰もあって溜飲が少しは下がった。


「そうか、それなら良かったが……あの馬鹿達は2組には文化祭で絶対負けないとか、対抗意識を燃やしてるんだよ。馬鹿は馬鹿なりに、一生懸命やってるんだが…」


 ふーん…屑とアホ面がねぇ…


 待てよ?じゃあさっきこっち見てニヤニヤしてたのって、うちのクラスに勝ったなって思ってたって事か?


 あれ?イライラしてきたぞ?


「そう言う事だから。立花や、他のクラスの奴にも謝ってたって伝えてくれ。俺も、もう戻るから。じゃあな田中」


「あ、あぁ…」


 イライラしてる間に吉田がクラスに帰っていった。くっそ…ここでカレーなんて食ってて良いのか!?


「あー中々旨かったな。カレーも旨かったけど、から揚げも旨かったし、から揚げカレーとかにしてりゃもっと売れたんじゃねーのか?」


 涼さんのその言葉に俺は衝撃を受けた。から揚げカレーだって?えぇ!?そんなコラボレーションがああああ!?


「涼さん…天才ですか?」


「おう、知ってんだろ?俺が天才なのは」


 少しイラッとしたけど、このアドバイスは天啓かもしれない。これなら、1組には負けない。


「涼さん綾さん、俺ちょっと用事が出来たんで少しの間二人で回ってて貰っても良いですか?」


「えー…コウが居ないとつまんねえだろ…」


 何いじけてんだこの人は。


「はいはい、コウちゃん行ってきて良いよ。涼はあたしが相手しとくから」


 やっぱり頼りになるのは綾さんだけです!


「ありがとうございます!行ってきます!」


 俺はから揚げを売っているクラスメイト達の元へ走る。後ろから『綾が相手じゃなあ』とか『ふーん、あたしが相手じゃ嫌なんだ』とか、イチャついてるのか、喧嘩してるのかわからない会話が聞こえるけど、今は走ろう。






「皆!聞いてくれ!」


「どうした?」


 一番にタクが反応する。


「実はさっき──」


 先程の真面目吉田の話をする。屑とアホ面が謝ってたらしいとの事、二人が俺達のクラスに対抗意識を燃やしてる事、そして、俺を見てニヤリと笑っていた事…


「なんだぁ?いい気分はしねーな」


「あいつら、あの時はあんなに情けない感じだったのにうちのクラスとヤル気かよ」


「でも確かにこの辺で、唯一の甘いものだしな…」


 俺の話を聞いたクラスメイト達はそれぞれ話し合ってる。だか、まだ話しは終わっちゃいないぜ!


「それでよ、一つ思い付いた事があるんだよ」


 皆の注目が俺に集まる。


「から揚げカレーって、最強じゃね?」





 そこから、急ピッチで事が動き出す。まずカレーを作ってる王子のクラスに交渉の使者として、俺と立花、そして委員長の三人が出向く。


 正直王子のクラスに負けるのは…悔しいが必至だろう。俺はから揚げさえ旨ければ勝てると思っていたが、そうじゃないんだ。長期で見れば旨い方に客は来るだろうが、文化祭は今日だけなんだ。


 その点王子のクラスは、カレーの匂いでお客さんを釣って、王子と言うブランドを最大限利用して、総合的に勝ちに来てる。準備の段階で負けてたんだ。


 しかし、王子のクラスに負けるからって、屑とアホ面には負けたくない!もしあいつらに負けるような事になれば夜しか眠れなくなりそうだ。


「おーい、王子ーと…クラス委員って誰だっけ」


 立花が声を掛けると王子とクラス委員?なのか、わからんが男子が一緒に近付いてくる。そして、先程同様に王子にカレーをよそって貰う寸前の乙女達が絶望的な顔をしてる。


「ごめんね、手短に話すから」


 そこから、事の概要を説明してカレーを買ったお客さんをこっちに誘導してくれないか頼む。もちろんカレーを持ってきた人には少しの値引きする事も伝える。


「ふーん…そこまでしてかぁ。まあ良いんじゃな─」


「うちのクラスに何のメリットがあるんだよ?」


 王子が了承しようとした時に、多分クラス委員が口を挟んでくる。くっ!確かに何のメリットもねえな!


「それはぁ…そうだけど」


 立花は困り顔でそう告げる。別にこいつの言ってることは、至極全うだしな。


「そこをなんとか…1組には、負けたくないんだよ」


 頼むことしか出来ないから、必死に追い縋るが、クラス委員は全く表情を変えずに


「いや、仕事が増えるだけだから。受けられない」


 きっぱりと断ってくる。くっそダメか。


「ねぇ副会長?次の生徒会長は、誰になるのかしら?」


「は?いきなり何を言ってるんだ?そりゃ僕が次の生徒会長だろう」


 いきなり委員長がクラス委員の男子に話し掛ける。てか、こいつ生徒会の副会長だったのかよ…全然知らなかった。


「そうよね?もちろん順調に行けばそうなるわよね?順調にいけば」


 順調にいけばを強調する委員長。迫力あります。


「な、何が言いたいんだよ」


「私もね?あんまりこう言う事好きじゃ無いんだけど、こっちも必死なの。ここにいる立花さんがこの学校の女子の絶大な支持を受けてる事位、副会長なら知ってるわよね?」


「あ、あぁしかし、だからって…」


 言葉尻が段々小さくなる副会長。女の子って怖いね?


「そうよね?でも、学校の半分は女子なのよね?この意味、副会長なら分かるでしょ?」


 敢えて確信には触れずこの先の展開だけを想像させて、相手が勝手に思い込む様に仕向けてる。委員長も、立花とは違うけど強い。


 考え込んでる副会長。頭の中で色々考えてるんだろう。申し訳ないけど、今は助けられない。俺達も必死なんだよ。


「でも、さっきも言った様に私こう言うやり方好きじゃ無いのよ、本当に。だから貸し一つって事でどうかしら?副会長」


 相手を追い詰めて、最後に助け船を出す。相手はこれ幸いと…


「そ、そうか。まあ、早川に貸しを作れるなら悪くはないかもな」


 飛び付くんだよなぁ。交渉上手いな委員長。


「しかし、他のクラスメイトが納得するかどうかが…」


「あら?逢坂くんと副会長がやるって言えば皆やるでしょ?」


 この二人がクラスをまとめてるんだろう。そして、今まで劣勢だった副会長も暗にクラスは貴方がまとめてるんでしょ?と褒められて満更でも無さそうだ。多分これも委員長の計算の内だろう。


「何だか、僕達の出る幕無かったね」


「おう、委員長も怖ぇな」


 王子と二人で顔を見合わせながら震える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る