第88話
「こいつさ、一人で何の準備もせずにコウちゃんの学校まで行こうとしてたんだよ?だからあたしが絶対着いていくからって」
「本当勘弁してくださいよ涼さん。知名度考えてよ」
「いやいや、別にそんな騒がねーだろー?お前ら考えすぎだって」
車から離れて、うちのクラスへ向かう途中で話を聞く。危なかった、もし綾さんが気が付いてくれなかったら、大パニックだっただろう。
「え?めっちゃ綺麗じゃない?あの人」
「うわー美人…あのサングラスの人の彼女かなぁ?」
「でも、あれって…2組の田中?めっちゃ腕組んでるじゃん。まさか田中の…?」
「いやいや、無いでしょ。親戚のお姉さんとかじゃない?」
「それにしても羨ましいわ…」
綾さんと絶賛腕組み中です。本当は拒否しようと思ったんだけど…
「コウちゃん?お姉ちゃんと腕組もうね?」
「あ、綾さん…流石に学校では…」
こんな美人と腕組んで歩いてたら命が無くなるかもしれない。主に男子の呪いで。
「ふーんそっかぁ…お姉ちゃん悲しいなぁ…涼の事も隠せるように頑張ったんだけどなぁ?」
くっ!それを言われると…で、でも流石にさぁ。
「いや…あの…」
俺が言い淀んでいると
「じゃあしょうがないね?涼、別に帽子とサングラス取っても…」
「綾さん!腕組んで貰っても良いですか!?いや!綾さんと腕組みたいなあ!!」
「え?本当?しょうがないなぁ。コウちゃんはお姉ちゃん大好きなんだからぁ」
こんなやり取り(脅迫)があって今の状況です。でも、涼さんの正体がバレる位なら、腕組みの方が良いです。てか、恥ずかしさを我慢するなら、全然嫌じゃないし。
「お?あそこか?」
から揚げ屋の看板が見えてくる。俺が抜けてからも、呼び込みしてたらしく、結構なお客さんが並んでる。
「おー田中……その人達が知り合い?……後で話があるから。多分男子一同から」
先程は快く迎えに行く事を許してくれたクラスメイトの視線が痛い。違うんだ!これは脅されて…。
「コウちゃん大人気だね?お姉ちゃんも鼻が高いよ!」
あの…あなたのせいです。
「から揚げ大好きなコウが監修したから揚げが、どんなもんか食べさせて貰おうか?」
「ちょっと待ってて下さい。貰ってきますんで」
中に入ったら、絶対立花達が気が付いて大騒ぎになりそうだから、先に伝えとこう。
皆の元に戻ると、ひそひそとこちらを見ながら話してる。絶対綾さんのせいだよ…。
「お帰り田中。なんか美人と腕組んでたらしいじゃん?」
「あー…まあ仲良くさせて貰ってるけど、別にやましい関係じゃねーから」
もうここまで話が流れてるのかよ。それより立花達は…いたいた、取り敢えず立花に…
「立花、ちょっと話が…」
あれ?聞こえてない?
「た、立花?ちょっと話が」
「なに?」
え?機嫌悪くない?なんで?
「え、なんかあった?」
立花の方を見ているが一向にこちらを見ない。ヤバい…原因がわからん…。
「なんかって……コウは、スッゴい美人と腕組んでデレデレしてたんでしょ?あたし達が頑張ってから揚げ揚げてる時に!」
あ……そう言う事か。
「それには理由が…とりあえずこっち向いてくれよ」
理由は分かったが、説明をさせて欲しいんだが。立花は黙々とから揚げを箱に詰めてる。くっそ、話くらい聞いてくれたって。
「立花…ちょっと──」
立花の肩を掴んできて少しだけ強引にこちらを向かせる。
「──ッ!」
あまり強引に来るとは思ってなかったのかビックリして表情が固まる。立花に顔を寄せて耳元で小声で喋る。
「涼さんが来てる。腕組んでたのは涼さんの彼女の綾さんだ。──それに、俺は意味も無くそんな事しないって、立花なら分かってくれてると思ってたんだが…」
少しズルい言い方だったが、立花なら分かってくれてると思ってる。
「あ、えっと……ごめん…」
ふと、周りの視線が集まってるのに気が付く。状況だけ見れば、立花を強引に振り向かせて、顔を近付ける変質者じゃないか?
「……って、えええ!?涼さ─っ!!」
急いで口を塞ぐ。やっぱり先に言っといて良かったわ。絶対こうなると思ってた。
「立花ステイ!それがバレたら大変な事になるって思ったから先に話したんだよ」
手の中でモゴモゴ言ってる立花が目線で合図する。流石にやり過ぎたのか、立花の取り巻きが詰め寄ってくる。
「ちょっと!田中何やってんの?あんたこの頃美咲と仲良いからって調子のってんじゃないの?」
「そうよね、この頃逢坂君とも仲良くしてるみたいだし」
ずんずん近付いてくる取り巻き達。え、怖いです。調子なんてのってません!!
「いや、あの…あ……」
俺がアワアワしてると立花が間に入ってくれる、
「ストーップ!違うから!……そう!ゴミが!ゴミが付いてたから取ってくれただけだから!」
立花が必死に弁解してくれてるが、その言い訳は苦しくないか?
「えっと…ちょっと大きいゴミが付いてたから…」
一応乗るけども!乗り切れるのか本当に?
「ふーん…別に美咲が嫌じゃないなら私達は良いんだよ?ただ、美咲が嫌がるようなことするなら……」
ジロリとこちらを見詰めてくる取り巻きA(名前なんだっけ)さん
「するなら……?」
手のひらを握りこむ様な仕草で
「潰す」
下半身がキュンってなりました。
「あの!これあたしが揚げたやつです!た、食べてください!」
「おー!美咲ちゃん!ありがとね、どれどれ」
あの後、落ち着きを取り戻したクラスメイト達に立花と俺の共通の知り合いが来てると説明して、少しだけ抜けさせて貰った。
立花は終始自分の格好を気にしていたが、俺に聞いたのが間違いだろ。別に立花がしわくちゃのお婆ちゃんでも、俺は可愛いって言うぞ。
「んー!旨いねこんなに料理が上手なら、良い奥さんになるんじゃないー?」
「ほ、本当ですか!あたし、嬉しい!」
なるんじゃないー?って言いながらこっちを見るな。ニヤニヤしやがって!
「うん、美味しいね。冷凍のから揚げを工夫して揚げてるのかな?上手だねー」
綾さんには一発で冷凍って看破されました。他のお客さんは、普通に揚げたから揚げだと思ってる人が大半だったんだけどな。
「いやいや、ちゃんと生の状態から揚げてるだろ?じゃないとこんなに肉汁出ないし、冷凍の奴ってパサパサじゃんか」
涼さんはうちのクラスのから揚げを高く評価してくれてるみたいだけど、…すいません冷凍です。
「あーそうかもね。美味しいからね」
随分とあっさり引き下がる綾さん。
「綾さんこれ冷凍なんですけど本当に」
小声で綾さんに報告する。
「うん、そうだろうけど、本人達が生から揚げてるって思ってるなら、それで良くない?一々冷凍だ!なんて言わなくても」
確かに。冷凍だからって気分を悪くする人は少ないだろうけど、別に良くなる事も無いよな。流石大人の女性!
その後も、休憩がてら少し話すことに。
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