第87話
「おーい聞いてんのーコウ!」
「ああ、すまん。なんだったっけ?」
「もう!やっぱ聞いてない!その手のから揚げどうすんのって!流石に…」
俺はさっき、屑とアホ面に弄ばれたから揚げを手に持っている。立花にどうするつもりか聞かれて、さっき考えていた事で頭が一杯だった俺は
「ああ、そうだな」
そう言ってぱくりとから揚げを食べる。流石に俺も、慌ててなければ落ちたから揚げを、そのまま食わないと思う。
「ちょ!大丈夫なの!?落ちた奴だよ!?」
立花も流石に捨てる想定だったみたいで、慌てて聞いてくる。
食べた後に思った。確かにあんまり大丈夫じゃ無いかもしれない。だってちょっとジャリって言ってるもん。
「少しだけジャリジャリする…」
俺が苦悶の表情でそう言うと
「ぷっ……あはははは!そりゃそうでしょ!いくらから揚げ好きだからって落ちたのまで躊躇無く食べるとは思わなかった!」
俺の行動と表情がツボに入ったのか爆笑の立花である。まあ、水で洗って食べてはいたと思うが。
「田中…場の空気を和ます為に落ちたから揚げを…体張ってるな!」
「躊躇無くは行けねーわ…すげえぜ田中」
男子からは俺が空気を和ます為に体を張ったと思われてる様だ。実際は立花に告白して振られる想定してたから、声かけられて慌てての行動なんだけどな。
そんな事もありながら、いよいよ文化祭当日だ。あの後、屑と彼女がどうなったかは知らない。別に知りたくもないしな。
文化祭当日までは、然したる障害もなく、順調だった。俺はから揚げをもりもり試食出来るし、ここ数週間は、はっきり言って天国でした。
しっかし、冷凍のから揚げって言っても種類で全然違うんだな!最初人気ナンバーワンって言うのを食べてみたんだが、うーん…不味くはないが…って感じだった。
これは思った以上に難航するか?と思ったが、4種類目に食べたから揚げが抜群に旨かった。しっかり味もついてるし、揚げて暫く時間が経ってもべちゃべちゃにならなかったし、味もそこまで落ちなかっし。
その後も何種類か食べてみたが、やっぱりさっきのから揚げだなと、満場一致で決まる。
そこからは、揚げ方や揚げ時間、二度揚げするか否かなど、色々と話し合い今日の日を向かえた。
「それじゃあそろそろオープンするわよ」
委員長が皆に声をかける。調理班、接客班、雑用班に別れて各自の持ち場につく。俺は雑用班だが、雑用班は何処にでもヘルプで入るから一番忙しいかもしれない。
流石にオープン直後から人だかりとまではいかないが、結構な人数が買っていってくれている。歩きながらでも食べられるように器も持ち運びやすい様なものにした。
「から揚げ売ってま~す。今なら揚げたてでーす」
接客担当の女子が呼び込みをしてる。一般開放もされてるので、おじさん達が女子に話し掛けられて嬉しそうに、から揚げを買っていく。
文化祭に来ているのは、殆どが生徒の親や、親戚だろう。あのおじさんも、家では娘にどんな扱いを……
考えるのはやめよう、悲しくなってくる。
「あーお父さん!こんなところでから揚げ買って食べて!コレステロール値が高いんでしょ!お母さんに怒られるよ!」
そんな事を考えながらおじさんを見てたら、娘らしき生徒にから揚げを食べてるいるのを咎められていた。
よかった…少なくとも父親の健康を気遣う娘のようだ。もう!お父さんと洗濯物一緒にしないで!なんて事は無いと思いたい。
順調に売上を伸ばしていくうちのクラスではあるが、そろそろお昼時。王子のクラスのカレーの匂いが猛威を振るい始める。
「お?カレーか?何処のクラスかな?」
明らかに匂いに釣られ出すお客さん達。流石王子、何が売れるか分かってる。しかし、うちのクラスも、うかうかしてられない。
お昼時はから揚げだって売り時だしガッツリカレーより、から揚げ位をつまむのが良いって人も多いだろう。よし!気合い入れて呼び込みするか。
「俺ちょっと呼び込みしてくるわ。今カレーの勢いが凄そうだし」
「おっけーいくら王子でも負けらんないからね!」
調理班リーダーの立花に許可をもらい呼び込みに向かう。くっ!カレーの匂いがより鮮明になる!旨そう…
「から揚げいかがですかー!揚げたてで美味しいですよー!」
皆で決めた呼び込みのセリフを出来るだけ大きな声で叫ぶ。最初は少しだけ恥ずかしかったが、周りのクラスメイトも呼び込みをしてるからなのか、言ってるうちに気にならなくなってきた。
その時、スマホが震えるのを感じた気がした。でもこれって、なんだったっけ?ファントムバイブだったか?バイブしてないのにしてる気がするやつか?元中二病患者としては、字面を見るだけで少しワクワクする。
取り敢えず確認だけしてみると、連絡が普通に連絡が入ってた。誰だろ?立花とか王子かな?
(コウの学校にもうすぐ着くぞ)
短い文章で簡潔に用件だけ伝えてきてる。誰だ?この人に文化祭の事教えたの…
連絡は涼さんからでどうも文化祭に来る気らしい。絶対面倒だから去年も言わなかったんだけど、王子辺りが漏らしたか?
「はぁー…マジかよ…」
あの人一応大晦日に日本でやる格闘技のイベントのメイン張ってるんだから、顔は殆どの人間にバレてるの分かってんのか?
「どーしたよ?田中」
俺のため息がクラスメイトに聞かれてたらしい。
「あぁ…なんか知り合いが来るっぽくてさ」
「あーちょっと恥ずかしいよな分かる分かる」
恥ずかしいのもあるが、絶対騒ぎになるだろ。くっそ俺は青春を送りたいだけで、面倒は、いらないんだけど。
「すまん、ちょっと抜けて良いか?迎えに行ってくる」
「おー分かった」
急いで涼さんの元まで向かう。てか、車で来てるのか?あの目立つランボルギーニで?
不安は大的中。全く学校に似つかわしくない真っ赤なランボルギーニが止まってる。絶対あれだろ。ダッシュで車に駆け寄る。てか、もう車だけで目立ってるし…。
「ちょっと!涼さん出ないで!」
「おー!来てやったぞ!から揚げ屋やってんだって?食わせろよ!」
人の気も知らないでノーテンキな…。
「コーウちゃん!あたしも来たよ?」
なんと、助手席には綾さんまでいた…二人揃ってさぁ…。
「涼!ほら、これ着けて。コウちゃんに迷惑かかるでしょ」
「えー…マジで着けんの?別にバレても良いだろ?」
あぁ!綾さんが女神に見える!俺の事を思って深めの帽子とサングラスを持ってきてくれてる!
「綾さん!信じてました!涼さん絶対帽子とサングラス取らないで下さいよ!」
「ほーら!コウちゃんが嫌がるって言ったでしょ!コウちゃんの事ならお姉ちゃんに任せなさい!」
これで、なんとか騒ぎにはならないと、願いたい。
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