第86話

 俺は一目散に教室を出て、廊下に向かう。何故か分からないが、こちらから聞こえてくる気がする。


 タッタッタッ


 感じるままに廊下を走る。そして目に飛び込んできた光景は…


「うぇーい!ほれ!キャッチ!」


「あばば!でかくて口に入らねーよ!」


「「ギャハハハハ」」


 から揚げを投げて、口でキャッチするようだ。なんだこれは…


「あー床に落ちたじゃねーか!お前がちゃんと食わないから、もったいねー」


 ニヤニヤしながらから揚げを拾う屑1号。お前まさか…


 そのままから揚げを掴んでゴミ箱に入れようとしてる。うん、無理だ。


 急いで屑1号に駆け寄り手を掴む。




「てめえら!!から揚げに謝れよ!!!」


 そして現在に至る。


「はぁ?なんだよお前、いてえから離せや!」


「何こいつ?知ってる奴?」


 アホ面が何か話してる。こんな奴と知り合いな訳無いだろ。


「いや、しらねーッゥ!離せやマジで」


「お前ら、食べ物で何してんだ?そして、このから揚げどうするつもりだ?」


「あ゛?落ちたから捨てんだよ!」


「落ちたんじゃなくて、投げて落としたんだろうが!!」


「なんなんそいつ?やっちまうか?」


 何だこいつら、こんなヒョロヒョロなのにやる気なのかよ。


「まず、腕離せ!てめえ!痛ッ!マジでやめろや!」


 腕に力が入る。どうしてやろうか?こいつら…


「なにやってんのー!!」


 声のする方を見ると、立花と委員長、それとタクや、他の男子も走って来てた。


「いきなり凄い勢いで教室飛び出すから、何事かと思ってみんな追い掛けてきちゃったじゃんか!」


 俺を追ってきた立花やクラスメイトは俺と、屑とアホ面を見て余計に訳が分からなくなったようだ。


「んで、なんなの?」


「はあ?いきなりこいつが腕掴んできて意味わかんねー事言ってきたんだよ!」


 屑がなにか言ってる。


「田中くんはどうなの?」


「こいつらが、から揚げを投げて遊んでたから止めたんだ」


 委員長の問いに勤めて冷静に答える。


「別に貰ったんだから何しようと俺達の勝手だろうが!!」


 屑は後に引けないのか強気に突っ掛かってくるが、アホ面は形成が悪いと見て及び腰だ。


「へー…あたし達が一生懸命揚げたから揚げを投げて遊んでたんだぁ」


 静かに立花が喋り出す。え?怖くね?ジロリと見られた屑とアホ面がたじろいでる。その時、立花の取り巻きBがなにか気が付いた様に喋り出す。


「あれ?あんたさ、1組のアキナと付き合ってなかった?」


 ピシリと固まる屑。ヤバいことがバレた奴みたいだ。


「は、はあ?アキナは関係無いだろうが」


 先程に比べると明らかに語気が弱い。完全に主導権を握られてる。


「そーだねー別に関係無いもんね?アキナと付き合ってようが、から揚げで遊ぼうが」


「そ、そうだろ!大体こいつがいきなり…」


「でもさー、から揚げはあたし達2組が一生懸命作ったのには変わりないんだよねぇ」


 明らかに不味い方向に話が行っている事を察して屑もアホ面も口をパクパクさせて目を泳がせてる。


「まあ?アキナがあんたと付き合うのも勝手だし?あんた達がから揚げで遊ぶのも…勝手かもね?じゃあさ、あたしがアキナに何言っても勝手だよね?」


 さっきから、あ、あ、としか発言してない屑その屑を心配するアホ面。


「あーあぁーアキナってこんな奴と付き合ってるんだぁ…アキナとのつきあい方は変えたくないしなぁ……そうだ!アキナにつきあい方を変えて貰えば良いのかな?あたしが勝手にやることだから」


 不機嫌そうな顔で屑を見てる立花。そんな立花を、青ざめた顔で見詰める屑。


「……ません…た…」


「なに?」


「すみませんでした…」


 観念した屑は、渋々といった感じで謝りだした。


「別に謝って貰わなくて良いよ。そっちの言う様に、勝手にだし」


 取り付く島もない立花の態度に慌てた屑が再度謝る。


「マジで勘弁してください…あいつに知られたら絶対許さないから…」


「……はぁ…もう良いよ。どっかに消えて」


「本当、お願いします。すみませんでした…おい行くぞ」


 屑とアホ面がそそくさと退散していく。それを見ていた野次馬達が


「女王つえー、絶対逆らえねえわ」


「周りからじわじわ固められるとか地獄だよな」


「食べ物で遊ぶのは、日本人の禁忌のひとつだから、あれぐらいやられてもしかたないな」


 立花への畏怖がそこかしこから聞こえる。食べ物で遊ぶのが禁忌って言った奴とは友達になれそうだ。


「あーあーまた怖がられるかな…この頃は結構気軽に男子も話し掛けてくれてたんだけどなぁ」


「す、すまん…滅茶苦茶巻き込んで…」


 実際、立花が間に入ってなかったら、どうなっていたか想像したくはない。良くて停学、最悪は…


「本当だよ!でも、あたしもムカついたのは本当だし。広い心を持ってるあたしは、許してあげましょう」


 広い心で許してくれるらしい。


「はぁ…俺さ好きな…物とかが、粗雑に扱われたり、悪く言われたりすると…駄目だって分かってるんだけど…どうしても抑えが効かない時があるんだよな…格闘技やってる癖に全然精神は鍛えられてない…」


 好きな…の時に海で立花が絡まれてる所を思い出して少しだけ恥ずかしくなった。あんだけ執着してたら、そりゃ周りにバレるか。


 前までは、人との関わりが学校では、あんまり無かったし、ジムは基本的に年上ばっかりだから、皆可愛がってくれててそんな事にはならなかった。


 でもこの頃、立花の事を好きになって位からか?自分がこんなに執着心が強い人間なんだってのがわかった。


 まだ、彼女でもなく、告白すらしてない好きな相手をこんなに思ってるとか、知られたら絶対気持ち悪い。しかし、ヘタレだから告白する勇気もない。


 そして、このまま執着だけが増していって、焦ってる告白して、拒絶される。


『やめて…コウの事はただの友達としか…』


 考えただけで身震いする。立花に拒絶されるくらいなら、いっそこのままの関係の方が…

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