第85話

「買い出しに行こう!」


 その俺の一言で、から揚げの材料の買い出しに行くことになった。試作品を作って、食べないの?と言う神(立花)のお告げがあり、早速提案して、言い出しっぺの俺と後は何時ものメンバーで買い出しにに行くことに。


「取り敢えず、近所のスーパーで買ってきて、文化祭の時はネットで頼むって感じ?」


「そうそう、大体今日はただ、から揚げが食べたいだけでしょ?だから、スーパーで買い出ししてー文化祭の時は冷凍のから揚げだしね?」


 そう、最初はしっかり下味も着けてとか漬け込み時間はどれくらいなのかとか、色々考えていたんだが、担任が


「中に火が通ってなくて食中毒とか出したら、勝ちもなにもないぞ?」


 と言う有難いのか有り難くないのか、分からない助言のおかげで、冷凍のから揚げになりました。


 でも!しっかり下味着けた奴も食べたいだろ!ってな訳で試作品(我欲)を作るために、近所のスーパーに買い出しに行くことに。


「えーっと…クラス分だから結構量いるかな?」


 ここは、から揚げ神に任せるのが得策だろう。俺達は黙って荷物持ちに徹しよう。


「粉は…市販のでいっか。後はニンニク入ってない方が女子も食べやすいよね…」


 から揚げ神は色々考えながら買い物をしてらっしゃいます。確かにニンニクはなぁ、女子に嫌がられるかも。


 俺はどんなから揚げでも、愛するけどね。


「よし!これくらいかなぁ?後は学校にもあるでしょ」


 クラス全員分ともなると、結構な量だけど、日頃からから揚げの為に?鍛えてる俺にとっては、発泡スチロールと変わらない。


 会計も終わり、学校から持ってきた袋に積めていく。てか、委員長も春川も、タクすら要らなかったな。俺と立花だけで全然余裕だった。


「結構買ったねー」


「これ食べきれるのかしら?」


「大丈夫じゃない?もし食べきれなくても他のクラスの子とか呼べばすぐ無くなるよ」


「それもそうね…あの、田中くんは何であんなに目がギラついてるのかしら?」


「あーコウはから揚げ大好きだからな。小学校の頃、遠足で弁当食べてたら、食べ掛けのから揚げ落として、号泣してたしな」


 あーそんな事もあったな。て言うか委員長、別に俺の目はギラついてない。無垢な子供のように輝いてると言ってくれ。


「あーお弁当に一個しか入ってないから揚げを食べ掛けとは言え落としたら、あたしもショックだ」


「みーちゃんは、私がお弁当落として駄目にしちゃった時分けてくれたんだよ!」


 ドヤ顔で、俺にマウントを取ってくる春川。いや、そりゃ友達なら分けるだろ。


「あーあたしと王子で分けたっけー懐かしいー」


「ちなみにコウの弁当のおかずは、殆どから揚げだったから」


 あの頃は無理言って母さんにから揚げばっかり積めて貰ってたな。母さんは、もっと可愛いお弁当が作りたかったらしい。


「から揚げへの執着が凄まじいって事ね?田中くんがから揚げ食べてる時は、近付かないようにするわ」


「別にから揚げ食ってても狂暴にはならねーよ」


 大体もう高校生だぞ?いくらから揚げが好きだからって…





「てめえら!!から揚げに謝れよ!!!」


 絶賛ぶちギレ中である。事の発端は─



「そろそろ最初のから揚げ揚がるよー」


 立花の声にクラスの男子が浮き足立つ。


「おい、から揚げってこんな旨そうだったか?俺ヨダレ出てきたんだけど」


「実は俺も、滅茶苦茶食いたい」


 うんうん!君達も立派にから揚げ好きだ!

 あんまり、油の近くに人が居すぎると、かえって危ないので男子は片付け担当だ。


 立花の指示でテキパキと動く女子達。流石クラスカーストNo.1誰が何が得意か分かってるんだろう。適材適所で動かしてる。


 …春川さん?貴女は立花の周りをうろうろしてるだけですけど……あぁ、仕事が貰えないのね?


 春川を少しだけ哀れみを含んだ目線で見ていたら、何時もの春川からは考えられない鋭い目線でキッと睨まれた。


 だって皆動いてるのに春川だけうろうろしてんだもん…可哀想だろ。


「出来たよー、取り敢えず全員一個はあるから食べてみて」


 バットにどさっとから揚げが盛られてる。女子達も自信ありげにこちらを見てる。一人の男子が恐る恐る爪楊枝をから揚げに刺して口に運ぶ。



 ───男子の目が驚愕に染まる


 他のクラスメイト達も、続いて行く。皆一様に驚いたり、唖然としてる。


「え……うまくね?ヤバくね?」


 最初の男子が口を開くとあちらこちらから感想が聞こえてくる。


「何でこんなに旨いん?学校で食うからか?いや、弁当のから揚げとかも普通だし、揚げたてだからか?」


「これ勝っただろ?絶対他のクラスより旨い」


「でも、実際は冷凍の奴らしいからな、ここまで旨くは無いんじゃ?」


 そうなんだよ。これが出せれば間違いないんだが衛生面が…ね。万が一があったら怖い。


「えーっと、一応色々な所に少量試食って形で頼んで選ぶから、出来るだけ近い味にしたいと思ってるわ」


 委員長や、立花と話し合って出来るだけ旨い奴を探そうって事になった。試食係は俺だ!


「マジか!俺達も手伝うし、何でも言ってよ委員長!」


 周りの男子も俺も手伝う等と言ってるが、試食係は渡さんぞ?


 よし、俺もいただこう。


 爪楊枝を刺すだけでこんなに心踊る食べ物がこの世にから揚げ以外であるのか?いや、ないね!


 口に近付くにつれて匂いも近付いてくる。豊潤な薫りとは、この事かと初めて理解した。


 いよいよ口に入る。熱が口に伝わって、歯が当たり、から揚げの衣を打ち砕く。そうすると、中に隠されていた肉汁か暴れ出てくる。


 これ…これだな!シンプルだが、から揚げの魅力が詰まってる。



 その後は、案の定から揚げが余ってきたので、他のクラスにもお裾分けする事に。


 揚げたから揚げを嬉しそうに持ち帰ってる人たちを見て俺も嬉しくなる。そんな光景を楽しく見ていると…


 ──けて……たすけて、こーちん……



 なんだぁ!?俺の呼ばれたいあだ名No.1を呼ぶ声がする!?



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