第84話
王子の話からしばらくして、夏も終わりに近付く今日この頃。うちのクラスでは、文化祭の話し合いが行われている。
「えー俺はお化け屋敷が良いなぁ」
「私はあんま動きたくない」
クラスメイト達は、各々適当な事を喋りながら緩く進行してる。しかし、別に収拾がついてない訳ではないのが、委員長の人望だな。
「はーい、皆の意見は大体食べ物屋って感じ?それじゃあ次は、何売るかを決めます」
委員長がまとめて、うちのクラスは食べ物屋をやるらしい。準備もあるし、さっき動きたくないって言ってた女子は嫌そうだけど。
「はーい、あたしはから揚げが良いと思いまーす」
いきなり手を挙げて発言したのは、立花だ。こちらを見てニヤリと笑ってる。
……わかってんじゃねぇか!立花!!
「お、俺も!から揚げ良いと思う」
俺も急いで、から揚げを推していく。
「から揚げ?…まあ、アリか」
「えー…油の匂いとか身体に着くじゃん?」
男子の反応は良好だな。女子は…半々位か?ただ、提案したのが立花だから、最終的にはから揚げに傾きそうだ。
「から揚げね…」
委員長が黒板に書き出していく。そこからは、ハンバーガーが良いだの、カレーが良いだの、クレープ食べたいだの、色々意見が出たが、最終的にカレーとから揚げの一騎討ちになった。
「んじゃあ、多数決取ろうかな」
委員長がまとめに入る。た、頼む!から揚げ頑張れ!!
「それじゃあ、から揚げが良いと思う人手を挙げて下さい」
おお!半分位は挙がってるけど…微妙な線か?
「それじゃあカレーの人ー」
うーん…ほぼ同数…どっちなんだ!
「えーっと……」
「うん、カレーかな?じゃあカレーってことで」
あああああああああ!!なんでぇぇぇ!!!から揚げ旨いだろぉ!!から揚げにしようぜえええ!!
心の中で、血涙を流してると、担任が入ってきた。
「おー決まった?……カレー?あー3組がカレーにするってさっき提出してたぞ?」
「「ええーー」」
カレー派の奴等の悲鳴が聞こえる……これは!!大逆転なのでは!!
「被ったかぁ…じゃあから揚げだね。1組と被らない様に早めに提出してきまーす」
立花の方を見ると親指を立ててこちらに合図をしてくる。俺も満面の笑顔でサムズアップだぜ!
「コウ、お前は表情が分かりやすすぎて、見てて面白かったぞ。てか、受験の合否の時より祈ってたじゃん」
「あ?から揚げだぞ?そりゃ祈るだろ。から揚げに決まったからには、確実に旨いから揚げに仕上げる。いや……もう旨い!!」
何だこいつ見たいな目で俺を見てるが、から揚げを食えば全て解決する。任せろ。
「コウ!やったねー!コウママのレシピもあるし、うちのクラスが1位取れるんじゃない?」
一応文化祭では順位が出るらしい。特に賞品とかは無いけど、やるなら勝ちたいよな。
「立花が、から揚げって言った時に身体に電流が走ったね。ああ、こいつ天才なんだな?って」
俺の素直な感想を述べる。
「天才は言い過ぎだけどさーこの前のから揚げ凄い美味しいかったし。どうせやるなら、順位でも負けたく無いじゃん?」
「うんうん、から揚げなら間違い無く勝てる。てか、から揚げは負けん!!」
「お前は気合い入りすぎだろ…」
「あ、修ちゃん」
教室のドアの方を見ると、王子が立ってた。いち早く気が付いた春川が、駆け寄っていく。
「修ちゃんの所はカレー作るんでしょ?」
「うん、もう知ってるんだ。僕が提案したらすぐ決まったよ。作り置きも出来るし盛り付けも難しくないしね」
王子…お前ってやつは!俺は王子に近付いていき、王子の肩に手を置くと
「王子…お前って奴は……」
「え?なになに!?」
王子がキョロキョロしながら焦ってる。
「最っっっっ高だぜ!!」
俺の親友は、何時も俺を助けてくれる。
ああ、から揚げ様!から揚げ様のご加護を王子にも!
「どう言うこと?」
事のあらましを春川が王子に伝える。
「へー…まあ結果的にコウの為になったなら良いかな。正直狙ったわけでもないしね」
「わかってるわかってる。以心伝心って事だろ?」
心が繋がってるんだよなぁ。
「まあ、そう言うことにしとこうかな?」
「王子ー!帰りに皆でどっか寄ってく?」
「良いよ今日は何もないからね。コウ達は?」
「俺も大丈夫。タクも…大丈夫だろ」
「まあ、大丈夫だけどさ!なんかおかしくないか?」
「おかしくないおかしくない」
だって俺達仲間だからな。
「後は早川さんかな?」
「委員長は後で聞いとくねー」
久々に皆で遊ぶことになりそうだ。
「じゃあお疲れー」
放課後皆でブラブラしながら適当に遊んで解散となった。何時ものように俺が立花を、タクが委員長で王子は春川を送っていく。
大体この頃遊んだ帰りは、こうやって帰ってる。王子とタクは、俺に気を遣ってくれてるんだろう。春川だけは、毎回残念そうだけど王子に連れられて帰ってる。
「今日のから揚げの提案は最高だったぜ、立花。学校で合法的にから揚げが食べられるんだから、なんで思い付かなかったのか不思議なくらいだ」
「合法的って、別に学校でから揚げ食べても逮捕されないでしょ?褒められるのは嬉しいけど」
今日一日褒めすぎて若干困惑してるみたいだが、俺の感謝は留まるところを知らない。
「いや、学校で揚げたてを何度でも味わえるのは、もう犯罪と言っても過言」
「流石に過言なんだ」
どちらともなく笑いがこぼれる。はぁ、幸せです。から揚げも立花も…。
「もう文化祭かぁ、何か早かったなぁ」
「去年は何やったんだ?立花は」
「え?知らないの?一応メイドカフェやってそれなりに話題になったと思うんだけど…」
「あ…えっと……」
そう、去年の文化祭なんて、ボッチの俺は一人で学校の歴史を展示する教室で、一日座ってた。たまに、山田とタクが交代してくれたけど、友達も居らず別に行きたいところも無かった俺はずっと展示物と一緒に教室だ。
「まあ、コウはメイドカフェとかあっても行かないかぁ。結構可愛いって言われてたんだけどなぁ」
「へー見てみたかったな」
ポロリと本音が出る。
「ふーん……今度着てあげよっか?」
本当か!?っと後ろを振り向くと、少し俯いて恥ずかしそうにしてる。
「じゃあ着て貰おうかなあ!やったー!楽しみ!おしおし!!」
大袈裟に喜ぶ俺に、立花は慌てた様子で
「いや、やっぱ無し!流石に恥ずかしいかも」
予想以上俺がノリノリで途端に恥ずかしくなったんだろう。
「まあ、冗談だ。メイド姿は見たいけど、無理して着ることはねーよ」
「う、うん…」
何だか煮えきらない態度の立花。、
「そ、そんなにすぐ諦めちゃうの?」
なんだよ。すぐ着なくて良いって言ったから拗ねてんのかよ。
可愛いな。
「ほー!じゃあ着て貰いましょうか!見たかったんだよ!よし!何時にする!」
「ダメダメー!」
後ろから俺を止める為に抱き付いてくる形になってる。
こっちの方が……なんだが。
「あーわかったわかった!」
「もう!すぐそーやって!」
その後も、少しだけゆっくり歩いて帰った。
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