第83話
「父さんは僕に、何を考えてるんだって…母さんはただ泣いてるだけだった。何かの間違いじゃないのか?って一時の気の迷いだって父さんが言ってくるんだ」
王子は、声を震わせながら、涙声で一生懸命話してる。
「僕もその時は、何で僕を認めてくれないんだって、初めて両親に反抗したんだ」
俯いてじっと下を向いてる王子。
「それからはもう、話し合いにもならなくてね。兄さんは何とか両親を止めようとしてくれたけど、売り言葉に買い言葉で、中学を卒業したら、家を出ていけって事になった」
テーブルの上の震える手を握る。思った以上に力が入っていたのか、ハッした表情でこちらを見詰めてくる。
「はぁー…自分でも消化しきれてないとは思ってたけど、ここまで引き摺ってるとはね。我ながら弱いなぁ」
涙目で苦笑いを浮かべる王子。両親からの拒絶、何て言葉を掛ければ良いのか、わかんない。
「くっ……そぉ!何でだよ!親子だろ!自分の子供だろ!なんで…なんでだよ……」
横を見るとタクも泣いてる。俺も話を聞いてる途中からいつの間にか泣いていた。
「王子…お前は弱くないよ。俺には想像すら出来ないけど、同じ状況だったら…」
それ以上言葉が出ない。想像なんて出来るもんでもない。もし俺が父さんや母さんに拒絶されたら…
「それでね、兄さんはその頃には会社を立ち上げて、収入もそこそこあったらしくて、学費や生活費は心配するなって、兄さんが居なかったらって思うとゾッとする」
唯一お兄さんが、絶対の味方で本当良かった。もしお兄さんまで…なんて事になってたら最悪の事態になってただろう。
「仲良さそうだったもんな、朝も」
凄く自然に笑ってた気がする。やっぱり家族だけに見せる顔ってあるよな。
「うん、高校に入ってバイト始めた時も凄く心配してさ、バイト先まで迎えに来てて、顔が怖いから他のバイトの女の子が泣きそうになってて、兄さんには悪いけど笑っちゃったなぁ」
さっき話してた時とは違って、穏やかにお兄さんの事を話してる。家族ってやっぱりこうあるべきじゃないのか?
「コウのジムにお世話になったのも、いつか両親と話す時に自分に何か自信が欲しかったからなんだ」
「おう、俺達はいつでもお前の味方だからな」
タクが俺の肩に手を回して、王子に微笑み掛ける。さっきまで、泣いていたから目は真っ赤だし鼻水も垂れてるけど。
「うん、二人ならそう言ってくれると思ったから話したかったんだ。ありがとう。美咲達に話した時も今からしゅうちゃんのお父さんとお母さんに文句言ってくる!って止めるの大変だったなぁ」
王子も当時を思い出したのか、微笑みながら話す。しかし、難しい話だ。両親との確執なんて、高校生の俺達にはヘビーすぎる。中学生の立花は…変わって無いな。
「そう言や王子って結構色んなバイトしてんの?」
タクが暗かった雰囲気を変えようと、話題を変える。
「うん、そうだね。僕だって高校生だし、自分で遊ぶお金とかも欲しいよ。でも流石にそこまで兄さんに迷惑掛けられないから結構色々やってきたかなぁ」
「へーどんなん?やっぱりモデルとかか!?」
「あー今は時間がある時に撮影の仕事は入れて貰ってるかな。結構融通が効くし、お金も結構貰えるしね」
「はぁー…やっぱ顔が良いやつはちげーな!」
三人でさっきの雰囲気を晴らすようにワイワイ色々な話題で盛り上がった。
「そう言えば、自分がゲイだってのは、案外あっさり話したよな?」
ふと、タクが疑問を口にする。そう言えばそうだな?ゲイだってのも、結構な秘密だよな。
「あー…えーっとね、この話は一応美咲と麻衣には話して良いって確認は取ったから大丈夫なんだけど…」
ん?立花と春川の話か?
「えっとね、美咲がなんであんな風に麻衣に接してたかって話になってくるんだよね─」
そこから、俺が勘違いして立花に友達料金を払う事になる原因の事件のあらましが王子視点で語られる。
とは言っても、大筋は変わらず俺の知ってる事がほとんどだったが。
「それで、中学ではちょっと怖がられてたから何とか美咲と動いてワカラセタって感じの事があったんだ」
「はぁ…そりゃ軽々しく男には言えねーわな。しかし、王子が中学でやんちゃしてたとはなぁ」
「あの当時は、両親と色々あって荒れてたのもあるし、その…男らしくって言うかなんと言うか…」
「あーそうだな、簡単に飲み込めないよな」
タクとの会話を聞いていて、王子も当時悩んでたんだろう事が伺える。男らしくでヤンキーってのはいかにも中学生だけど。
「それで、今だから言うけど、麻衣の事が広まらない様に、僕の秘密を打ち明けた面もあるんだよね。二人共ごめんね、何だかんだ言いながらしっかり信じられては無かったんだ」
王子は申し訳なさそうにこちらに謝ってくる。しかし、考えれば当然だろ?いきなり親友に異性の友達が出来て、そいつは秘密も知ってると。
もしそいつがまた同じ事をやったら、自分の噂でそれを掻き消すつもりだったんだろ、多分。そこまで覚悟してるってすげえ。
「気にすんな気にすんな!今全部話してくれてんだからよ!」
「あぁ、元々俺も自分のやったことが怪しいとは思ってるから、ちゃんと警戒してくれる人間がいて、良かったまである」
「うん、ありがとう。もう本当に何にも無いよ。これ以上の事があった方が怖いけどね?僕どれだけ闇を抱えてるんだって!」
自分の事だからだろう。あっけらかんと笑う王子に俺達も釣られて笑う。
人間笑顔が一番に決まってるよな。
「おし!じゃあ帰るべ。王子もまた明日学校でなー」
「うん、二人共ありがとう。聞いてくれて。自分勝手だけど、凄く心が軽くなった」
「そりゃあ結構!ほれ、コウ帰るぞー」
「おう、じゃあ王子。また学校で」
王子の家を出て、二人で歩きながらどちらともなく話し出す。
「しっかし、王子達って仲良いな、とは思ってたけど、そんな事があったならそりゃあ絆も深まるか」
「そうだよな。同じ状況で自分の秘密を自分でばらすなんて…出来ないよなぁ」
「ふーん…お前は秘密が無いだけで、同じ立場なら同じ様にやってそうだけどな?」
そんな事を言いながら、こちらにチラリと見てくるタク。
「やめろよ。俺はそんな良い奴じゃねーから」
「へー…まぁそう言うことにしとくかぁ」
その後は何時ものように、他愛もない話をしながら二人で家路に着いた。
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