第82話
「それじゃあ帰りに」
タクの一件で大いに和やかなムードで始まった新学期。王子は朝の話を帰りにするらしく、しばらく喋ってから、そう言って自分の教室に戻っていった。
「何の話なんだ?」
タクが聞いてくる。まあお前はその頃必死に走ってただろうから、知らないよな。
「あーなんか、家族の事?を話したいっぽいかな?詳細は俺も知らん」
「ふーん…そっか」
タクもあんまり気にしてないみたいだ。
「お疲れコウ!今日皆が集まって来るから全然話せなかったじゃーん!」
休み時間もほとんど人に囲まれて、大人気の立花が、話し掛けてる。なんだろう、この嬉しい気持ちは。はっ!これが恋!しかもかなり前から!
「おー新学期そうそう大人気だな立花」
「まーねー、あたしって人気者だから?」
くそ、自分で言われると腹立つな。でも実際人だかりが出来る程には人気も人望もあるんだろう。
「へいへい、人気者の立花に話し掛けて貰って俺は涙が出るくらい嬉しいです」
半分冗談だけど半分は本音だ。だって好きな子に話し掛けて貰えたら嬉しいだろ?
「うん、よきよき!感謝しなさい!コウこの後予定あるの?皆でどっか行く?」
「あーこの後王子と話すから今日は無理かも」
くぅ…本当は行きたいけど、王子も俺には大事な親友の一人だ。
「そっ…か。王子とかぁ」
「うん、何か家族の事?かな?立花は王子のお兄さんとも知り合いなんだろ?今朝校門の前で会ったわ」
「あー…そかそか、話すんだね。オッケー話聞いてあげて?あたしは、麻衣と委員長誘ってどっか行ってくるね」
立花も王子の家族の事情を知ってるからなのか、すんなり引き下がって委員長の元に向かってる。
そりゃ知ってるわな、王子の事情。俺やタクなんかより長く一緒にいるんだし。
「コウ、そろそろ行こか?」
タクに呼ばれて振り返り、そのまま王子の教室に向かう。
「じゃあ、立花達。また明日な」
「うん、王子をよろしくね」
少し心配そうな顔で立花が返事をする。
「王子ー帰ろうぜー」
何事にも物怖じしないタクが、王子の教室に突撃していく。マジかよ、俺は他の教室に入るのは、かなり緊張するのに。
「うん、ちょっと待ってて」
王子の方を見るとやはり人気者だからか、周りを人で囲まれてる。その中の数名の女子が、こちらに鬱陶しそうな目線を王子に気が付かれない様におってくる。
せっかく王子と楽しくお喋りしてたのに、邪魔しやがって!って所かな?王子にはバレたくないのか、王子からは見えないようにこっちを見てるけど。
「おまたせ、行こっか。皆また明日ね」
そう爽やかに挨拶すると、集まっていた人達も口々にまた明日と、声をかけてる。
しばらく歩いて教室から離れると
「ごめんね二人共、あの子達も悪気がある訳じゃ…」
そう申し訳なさそうに謝ってくる王子。女子の皆さーんバレてますよー。
「うんにゃ、別に気にしてないぜ。コウもだろ?」
「ああ、睨まれた訳でも無いし、好きな人と話してるのを邪魔されたら、あのくらいの表情にはなるかもな?」
「ありがとう二人共。…それで話なんだけとさ、あんまり人に聞かれたく無いんだよね」
「あーどうすんべ?個室のとこどっかいく?」
個室か、どっか良いとこあるか?
「あのさ、良かったら家で話さない?」
その言葉に二人共頷いた。
「どうぞ、あがって」
「「お邪魔しまーす」」
ちょくちょく王子の家には遊びに来てるから、おざなりな挨拶だけして家に入る。
「何か飲む?」
「俺お茶ー」
「じゃあ俺は水」
王子は冷蔵庫の方へ行って飲み物を取ってくる。
「はいどーぞ」
俺の前に水が、タクの前にはお茶のペットボトルが置かれる。その王子の顔は、妙に思い詰めた様な顔をしてる。
「まあ王子、そう怖い顔するなよ。リラックスリラックス」
タクが王子を落ち着かせる為に言葉を掛ける。こう言う時のタクはすげえな。
「ご、ごめん。自分の弱いところ他の人に晒すのが怖いんだ」
「そりゃそうだわな。王子のタイミングで良いぞ」
こちらを見て一度コクりと頷き、王子は意を決した様に喋り始める。
「ふぅー…今日の朝遅れそうになったから、兄さんに学校まで送って貰ったんだ。その時にコウと会ってね。やっぱりちゃんと話しておきたいなって思って今日は呼んだんだ」
「おう、とりあえず経緯はわかった」
「それで…僕が一人暮らししてる事にも関係してくるんだけど、実はここのお金とかも、兄さんが出してくれてて、両親からは一切の援助は無いんだよね」
「はぁ?まだ高校生だろ?なんでだよ?」
俺もタクと同じ様に驚いてる。大体高校生での一人暮らし自体珍しいし、何でだろう?とは思っていたが。
「うん……あのね、僕は物心ついた時から、男の子が好きだったんだ」
そう言いながら懐かしそうに目を細める王子。
「別に小さい頃のトラウマで、とか女の子に何かされてとかじゃなくて、ずっとこうだったんだよね」
「そうなのか、人それぞれ色々あるしな」
俺には分からない世界だけど、別におかしくはないだろ、誰が誰を好きだろうが。
「うん、それでさ、やっぱり小学生位の時からあれ?って、僕って周りと違うのかな?って思い始めてね、最初に兄さんに相談したんだ」
確かに、小学生位から男女を意識し始める事が多いし、周りとの違いに気が付く頃かもしれない。
「最初兄さんは驚いてたけど、『そっかぁ修は男の子が好きなのかぁ』って認めてくれて、別に周りと違っても良いんだよって、それが修なんだからってさ」
お兄さんの話をする時の王子は、とっても嬉しそうで本当に、お兄さんの事を好きなんだってのが伝わってくる。兄弟が居ない俺は少し羨ましい。
「でも、周りにはあんまり言わない方が良いかもねって、本当信頼出来る人だけに言うんだよって教えてくれて、あんまり言いたくないけど、そんなに信頼出来る友達とか多くなかったから…」
頬をポリポリ掻きながらこっちを見てくる王子。くそぉ!可愛いなこの野郎!
「で、信頼出来る俺達には男が好きだって打ち明けたと、でもそれ以上に何かあんのか?」
タクもニヤニヤしながら話してる。
「もちろん一番の秘密はそれだけど…一度言いそびれると中々勇気が出なくって」
「あーそう言うのあるよな、言いそびれるやつ」
「そうか?…俺はあんまりねーな」
タクも王子も言いそびれる経験があんのか。俺は大体言ってしまうから無い気がする。
立花の事は別件です!そう簡単には言えません!
「まあ、コウは素直だしね?それで、中学の頃に兄さんに色々相談してたら、母さんに一部聞かれたみたいでね。父さんが帰って来て、すぐ家族会議になって」
話してる王子の表情が少しずつ強張る。
「その時は、両親も兄さんみたいに受け入れてくれるんじゃないかって、全然大丈夫だよって、言ってくれるんじゃないかって…」
何となく分かってきた…そっか…
「で、両親にゲイだって事を告白したんだ」
下を向いて少し震える王子に、何て言葉を掛けたら良いのか分からない。俺は何て無力なんだろう。
「そしたら……拒絶された」
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