第79話

「ごめんねコウ、パパがすっごい喋っちゃって。もう!せっかくのお礼だったのに」


 ちょっと拗ねてる様子の立花。俺も喋りたかったけど、お義父さんの話も面白かったからなぁ。


 お義母さんにいつでも遊びに来てねって言われたし、社交辞令と言う空気を読まずに、また遊びに行きたいな。


「でも楽しかったよ。また遊びに行きたい位には」


 しかし、ヘタレだからこうやって、予防線を張ってしまう自分が恨めしい。


「ほんと?じゃあまた遊び来てよ。弟達も喜ぶしさ……あたしも…」


「ん、そっか、じゃあ近いうちにまた遊びに来るから、絶対。立花もうちに遊びに来いよ。母さんもまた来てほしいって言ってたし、もちろん俺も」


「えへへ……そー言えばさっきパパ達の前で美咲さんとか言ってたよねぇ?」


 くっ!バレてた。


「そりゃあ立花って呼んでもあの場では俺以外全員立花だから、分かりにくいしさぁ…」


「ん~ふふ、べっつにあたしは、何時で美咲って呼んでもらって良いんだよぉ?」


「んんっ…か、考えとく」


 我ながらヘタレた答えるだ。


「うん!じゃあ夏休みも、もうそろそろ終わるし、次は学校かな?」


「そうだな、てか終わるのはえーよ夏休み」


「それな!体感3日で終わったわ!」


「それは言い過ぎだろ」


 どちらともなく、笑いが漏れる。


「じゃあ見送りありがとな、から揚げ旨かった、まじで」


「それは良かった!隠し味が入ってるからね!」


「え?何入ってたんだよ?」


 立花は照れたようにこちらを向いて



「──ひみつ」


 そう言いながら俺を見詰めて微笑んでる。やっぱりそんな立花にドキッとしながら


「な、なんだよ」


 こんな言葉しか出てこない程気が動転してるみたいです。



 その後少し話して帰路に着く。帰り道にさっきの立花を思い出す。


「──はあ!?可愛すぎるんだが?え?待て待て、可愛いだろ!?何だよひみつって!!あああああ!!可愛くて頭が可笑しくなる!!」


 気が付けば道端で叫んでた。出来るだけ人が居なそうな場所を選んだけど、少しは居ます。どう見ても不審者です。


 でもよぉ!可愛いだろうが!そりゃ誰だって惚れちまうよ…だからこそ、道程は険しい。


 現状二人の仲はかなり良いと、俺は思ってる。俺の一方通行じゃ無い事を祈るけど。


 そんな事を一人うんうん考えながら帰っていると、あれ?あの子は…?


 目線の先には、静原さんだ。なにやら誰かと話してるみたいだ。


 ん?良く見るともう一人にも見覚えがある。あれって森中じゃね?森中と静原さんがなにやらマ○クで話し込んでる。


 ははぁん、そっかそっか。森中顔は良いしな。静原さんも前に進んだって事か。美人だし男なら誰も放っておかないよな。


 相手が森中ってのが若干心配だけど、人を好きになるのは、止められないし、好きになったら人間変わったりするからな。


 何だか今日は、立花の家に招待されて、から揚げをご馳走になって、お義父さんやお義母さん、双子ちゃんと仲良くなり帰り道で、もやっとしてたことが解決して、なんて良い日なんだろうか!


 あんまりジロジロ見るのも失礼だろうから、足早にその場を離れる。二人がうまくいっても、いかなくても青春の思い出として、残れば良いな。






「ただいまー」


「お帰りーコウちゃん」


 家に帰って来て一息つく、今年の夏休みは色々あったな。皆で海に行ったし、お祭りにも行ったな。うちのジムの試合を皆見に来てくれたりしたし、今日なんて立花の家でから揚げまで食べた。


 あれ?俺って今凄い青春してない?俺の青春始まってるよな?思えば、立花が春川をいじめてると、俺が勘違いした所から始まった、この奇妙な関係が、今ではただの友達…いやそれ以上になってる。


「はぁー…なんだよ…」


 やれば出来るじゃん俺。今まで友達が居なくて青春出来ないとか言っといて、結局自分が何もしてなかっただけなんだよな。仲良くなれる人なんて何処にでもいるのに。


 ふと、スマホを見ると、王子から連絡が入ってた。そう言えば今日ジムに行くって言ってたな。どうだったんだろう?


【無事動けなくなりました。】


 そんなメッセージと一緒にジムの床に転がされてる王子と満面の笑みの涼さんが写ってた。あの人面白がって絶対無茶させただろ。

 よし、会長に転送っと。



 しばらくして、涼さんから


【会長はズルいだろ】


 ってメッセージが届いたよ。自業自得だね。


「コウちゃんーご飯出来たわよー」


 母さんが呼ぶ声が聞こえる。しかし、考え事しながらの筋トレは、あんまり効率良くないな。意識がしっかり筋肉に向いてない気がする。


「よし…」


 筋トレ用の器具を片付けて、リビングへ向かう。



「「「いただきます」」」


 家族皆で食卓を囲む。父さんも案外帰ってきてる事が多いから何だかんだ毎日皆で夕食は食べれる。


「コウは今日何処行ってたんだ?」


「ん?友達の家に遊びに行ってたよ」


「あぁ、たっくんの所か。たっくんは元気にしてるのか?」


「父さん、たっくんってあいつも、一応高校生なんだよ」


「おーそうだよな。小学校の時に一緒に遊びに行って以来会ってないから父さんの中ではまだたっくんなんだよなぁ」


 まあ、分かると思うがたっくんはタクの小学校の頃のあだ名だ。懐かしいな。


「タクの所じゃないよ。別の友達」


 立花の所だって言うと、またうるさいから黙っておこう。


「そうかそうか、もうすぐ夏休みも終わるしな。父さんも何処かに連れていければ良かったんだがな」


「何時もこの時期は忙しいから無理しなくて良いよ。年末に連れていってくれてるだろ」


 年末は大体家族で旅行に行くのが恒例になってる。


「あ、あぁ………その事なんだけどなぁコウ」


 少し気まずそうに父さんが話し出す。


「実は今年で父さんと母さん、結婚20周年なんだよ実は」


「へーそうなんだ?おめでとう」


 別に気まずそうにする必要あったのか?


「それで…母さん?」


 父さんが母さんに視線を送る。


「もう!お父さんったら!自分で言うって言ったでしょ!」


「いや…でも母さん…」


 なんだ?何かあるのか?


「コウちゃん!今年はお父さんとお母さん二人で旅行に行くから!コウちゃんも高校生だし年末はお友達と遊んできたら?」



 え?俺置いていかれるの?




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