第80話

 そうは思ったけど、まあ別に良いか。考えたら、両親の結婚20周年を夫婦水入らずで祝って欲しい。


「それで、どうかな?」


 笑顔で問いかけてくる母さんと心配そうに見詰めてくる父さん。母さんは俺が了承するって分かってるんだろうな。


 父さんは心配性だし、あの表情なのも頷ける。心配しなくても良いのに、父さん。


「良いんじゃない?夫婦水入らず。俺は家でゆっくりしてるよ」


「そう?大丈夫よね?…ほらー!お父さん、言ったでしょ。コウちゃんは、大丈夫だって!」


 父さんは、ほっとした顔で


「そ、そうかぁコウも高校生だしなぁ…何だか感慨深いなぁ…」


 嬉しそうに、でも、少し寂しそうに父さんが呟く。


「それでね?一応コウちゃんが困らないようにお金は多めに置いていくから、ご飯とかは買っても良いし、もちろん材料買ってきて作ってもいいのよ?」


 何だかんだ言って、母さんも心配なんだろう。


「そんなに心配しなくても大丈夫だって、母さんがさっき言ってたんだよ?お金だって別にバイト代でなんとか…」


 何も、1ヶ月家を空けるとか、長い期間じゃなくて、せいぜい1週間位のものだろうから、それくらいならなんとでも出来る。


「まあ、なんだ、コウの分の旅費が浮いてるから、その分だと思っておけ。別にお金が余ったら、自分の小遣いにしていいぞ」


「それなら、その浮いた分で美味しいものでも食べてよ」


 旅先での食事って、ただでさえ旨いものが、もっと旨く感じるよな、やっぱり感情とロケーションから来るものなんだろうか?


「……っ!!母さん!うちの息子が凄い良い子なんだけど!」


 感動した様子で母さんに話し掛けてる。いや、別にそんな大袈裟に騒ぐ程か?


「それは私の息子ですから!大好きよ!コウちゃん!!」


 母さんも感動したのか抱き付いて来ようとしてる。流石に高校生にもなって、母親に抱き付かれるのは恥ずかしいので、やんわり引き離す。


「そうだよなあ!…でも俺の血も半分入ってるのに…」


 父さんがそんな事を口走る。


「なんでだよ!父さん自分の血に自信持とうよ!」


 母さんの方を見ると、母さんも考え込んでる。


「そうね…なんでかしらね?」


「母さんも同意しないでよ!」


 相変わらず、騒がしく夜は更けていった。






「はぁー……」


 夏休みが終わってしまった。立花や王子達に会えるのは嬉しいけど、やっぱり夏休みが終わるのは、悲しいな。


 そんな、少しの憂鬱を抱えながら、学校へ向かう。


「ん?あぁ…」


 前方の空中に花が咲いてる。立花が居るんだろう。この幻覚?にも慣れたものだ。嘘です。今でも驚きます。


 近寄るとやはり立花が、輪の中心にいた。夏休み明けだからか、大勢の女子に囲まれてる。人気者だなぁ。俺には誰も声すら掛けてこないよ?


 立花がこちらに気が付いたのか、小さく手を振ってくる。あの集団から抜け出すのは、中々出来なさそうだしな。


 立花を囲む集団をそそくさと追い越して先に向かう。ありゃしばらく動かんぞ。


 それにしても、タクにも会わないな?大体登校時間被ってるから会うんだけどな。王子も居ないし、急に寂しくなってきた。


 とぼとぼ校門前まで歩いていくと、一台のベンツが止まっていた。はえーあれ高いやつじゃねーの?あんまし車に詳しくないけど、タクが見たら興奮しそう。


「あれ?」


 ふと車の横に王子が見えた。何やら男の人と話してるみたいだ。別に険悪な雰囲気じゃないし、揉めてるわけじゃなさそうだけど…

 とりあえず挨拶に行くか。


「おーい王子、おはよー」


 声をかけると王子も、こちらに気が付いたのか、何時もの王子スマイルを輝かせながら、こちらに手を振る。


 しかし、横の男の人はこちらを怪訝な目で、じっと見てくる。な、なんだぁ?王子の横にいる男の人は、身長も王子と同じくらい高くて、すらっとしてて、出来る男!って感じだな。


 近寄っていくと、男の人の顔がはっきり分かってくる。見た目は、良い言い方をするなら、クールなイケメン。何も隠さずに言うと冷徹な表情と、目線でチビりそうです。


「おはようコウ、タクはまだなんだね?」


 王子は横のクールイケメンの目線を気にした様子もなく、普通に話し掛けてくる。俺は目線をが怖すぎてそっち見れないけどな?


「あぁ…君が例の…」


 え?この、目線で人を殺せそうな人に名前を知られてるんですかあ!?…あれ?でも声は柔らかくないか?


 恐る恐る冷徹イケメンの方を見ると先程の怪訝な視線が嘘のように、パッと笑顔でこちらを見ている。あれ?笑ってると何だか王子に…


「君が噂のコウくんか!!いやー会いたいとは思っていたんだけど、中々機会がなくてね!そうかそうか!」


 先程とは、打って変わって満面の笑みで話し掛けてくる冷徹イケメン。


「あ、あの?」


 その変わりように、困惑しながら何とか返事を返す。


「兄さん、コウが驚いてるから。コウ、こっちの顔が怖い人が僕の兄です」


 そう紹介されると、ずずっと近寄ってきて手を握られる。え?なになに?


「何時も弟がお世話になってます。修司の兄の逢坂一成おうさかかずなりです。コウくんの事は何時も弟から聞いていたから、是非会いたかったんだよ!」


 笑顔で迫ってくるイケメンって怖いのな。王子のお兄さん、一成さんはやはり王子と同じ遺伝子を持っているからか、顔は凄く整ってる。


 でも、王子とは違ってクールな外見をしている。笑った顔は何処と無く王子に似てるかな?やっぱり兄弟なんだってのがわかる。


「いえ、王子…修司君には僕もお世話になってるんで。初めまして、田中浩一です」


 お兄さんを見ながら一応の自己紹介をする。さっきは冷徹とか言ってごめんなさい。


「うんうん!聞いていた通りとっても良い友達だな!修司!」


「まあね」


 王子は少し照れてるのか頭を掻きながら短く返事を返す。



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