第70話
「んで、ここがうちのジムだ」
「そんなにおっきく無いんだね」
「あぁ会長があんまりでかすぎても俺だけじゃ見きれないって自分で見れる位の広さにしたんだって」
「成る程、広すぎるのも考えものなのか」
そんな会話を王子としながらジムへ入っていく。勿論立花も来てるが、緊張でガチガチだ。
「ほれ、立花行くぞ」
立花の背中を押す。
「ちょっと待って!あたし変じゃない?大丈夫かな…」
「大丈夫、今日も美咲は可愛いよ」
「本当に?コウはどう思う?」
ここで俺に振るんですか。
「何時も通り可愛いんじゃないか?」
あくまで冷静に、普通の事だと言わんばかりに返事をする。
「んふふ!そっか!じゃー行こー!」
俺達二人の返事に満足したのか上機嫌でジムに入る。
「お疲れ様でーす」
「「お邪魔します」」
「おう、来たか。まあ見るものなんて少ないがゆっくり見ていってくれ」
「はい、ありがとうございます」
王子が会長と話してるが立花は周囲をキョロキョロしながら何かを探してる様だ。何かって言うか誰かだな?
「涼さん今日は居ないみたいだな」
「そ、そっか…忙しいもんね涼様」
少し肩を落とす立花に会長が声をかける。
「嬢ちゃん鎌田なら時間があれば後で顔出すって言ってたぞ」
「本当ですか!…ごめんなさい、別に涼様を見に来た訳じゃ無いのに…」
一瞬にして笑顔になる。そして本来の目的を思い出して自己嫌悪、表情がコロコロ変わる。
「別に構わんよ。何に興味を持つかは自由だしな。入り口が鎌田でも、格闘技が好きなら大歓迎だ」
「か、格闘技は大好きです!」
会長の言葉に感動したのか、ふんふん頷きながら返事をする立花。でもあのじじいは若い女の子が来るから嬉しいだけだろ。
昨日なんて、いつも行かない美容院なんて行ったりしてるし。会長は床屋で角刈りにされとけば良いんだよ!
「じゃあコウ、色々見て回らせてくれや、案内は任せるぞ」
「わかりました!髪型似合ってますね。会長!」
「お?そうか?ちょっと俺には若すぎ…」
「よし二人共こっちから見ようぜ」
何か勝手に語りだそうとしたから無視して案内に移る。ちょっと悲しそうな顔しないで会長。
「まあ、あんまり広くないから見るところって少ないんだけどな」
そう言いつつジムの中を案内する。チラホラと練習してる人も居るけどその数は決して多くはない。
「あの、さ練習してる人ってこれだけなのかな?」
王子が少し遠慮気味に聞いてくる。涼さんや他にも良い選手が居るのに練習してる人が少ないのが気になるんだろう。
「あーそう見えるよな、王子には先に伝えとくわ」
神妙な顔で王子が聞いてるけど大した理由じゃ無いけどな。
「練習がキツくて皆辞めてくんだよ」
「え?選手でも?」
「途中から入った人は結構な確率で辞めるな。最初からこのジムの練習生だった人がプロになる方が圧倒的に多い」
「えっと…もしかして練習ヤバい?」
「あー…素直に言うとヤバい。俺は小学生の時に入ったから段々慣れさせて貰ったけど普通の練習で皆キツくて吐いてるしなぁ」
特に入ったばかりの人はゲーゲー吐いてる。そして、練習に来なくなるのがパターンだな。
「その代わり辞めなかったら絶対成果はあるし、根性は付く!今居る人達も、あの練習を潜り抜けた人達だと思うと信頼出来るしな」
「おいおい、俺を持ち上げるなよ、そんなに」
声の方を見ると…ってかこんなこと言うのは一人しか居ないけど。
「別に涼さんだけに言ったんじゃ無いですよ」
「やーやー!逢坂くんと美咲ちゃんだったっけ!この間ぶりだね」
そこには私服姿の涼さんがいた。
「りょ、涼様!!こんにちわ!」
「お邪魔してます。この間はありがとうございました」
「で、どうよ?うちに入るの?美咲ちゃんなら大歓迎だけどなぁ。逢坂くんも是非入ってよ。ここは俺以外むさ苦しい奴ばっかりだから女の子も寄り付かなくてねー」
「立花は逢坂のついでに見学しに来ただけですから、それに涼さんも練習中はむさ苦しいでしょ」
「なーんだ、美咲ちゃんは入んないのかぁ残念だなぁ」
そう言いながら俺をチラッと見てくる。うぜー。
「涼様に言われたなら入ろうかな、あたしも!!」
何乗り気になってんの立花…。
「立花は勉強もバイトもあんだろ?うちは中途半端で出来る様な所じゃないぞ?」
別に入ってほしく無い訳じゃ無いが…いや、入って欲しいが、うちの練習は半端じゃ無いから多分最初は日常に支障を来すと思う。
「そっか…そうだよね、中途半端は良くないもんね。ごめんなさい涼様…」
「あーあー!コウは優しくないなぁ。もうちょっと優しく言えば良いのにね?美咲ちゃん」
この人絶対面白がってるだろ。祝勝会の時の仕返しか!?
「んじゃ、逢坂くんはどうなの?」
さっきからあんまり話さずに話を聞いてた王子だったけど何か吹っ切る様に涼さんに聞く。
「あの、今までどうしても越えられなかった事が有ったとして、その事に尻込みしてしまう自分をどうにかしたくて今日見学に来たんですけど、曖昧で申し訳ないんですが、鎌田さんは、ここに通えば乗り越えられると思いますか?」
真剣に涼さんに聞いてる王子、こんなに真剣に話す王子を今まであんま見たこと無かったけど、何か王子の中で変えたい事が在るんだろう。
「乗り越えられるかは自分次第だけど、うちの練習をやりきれるなら、大抵の事は乗り越えられるんじゃねーかな?そう思わん?コウ」
「俺は小学生の頃から練習してるんであんまり実感無いんですが…」
「おーそうだった!コウは小学生の頃から変態だったもんなぁ。まあ、逢坂くん一回練習来てみたら?それで決めても良いんじゃない?」
まったく、人の事を変態扱いしおって。でも練習がキツいのは本当だし、精神力は付くよな。
「そうですよね。やってみないとわかんないですもんね!体験って事でも大丈夫なのかな?コウ」
「勿論、じゃあ会長に話通してくる」
やったー!友達がジムに入るぞ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます