第69話

「コウちゃん!初恋があたしって本当に!?」


「あの…はい…綾さんは美人だし優しいし、あんな風に大人の女性に接して貰ったこと無かったんで……」


 そう俺が今、年上のお姉さんがタイプなのは絶対綾さんの影響だ。


「もう!コウちゃん!ちゅきちゅき!そうだ!もう!涼とは別れてコウちゃんと付き合う!いや!結婚かも!!」


「いやいや、二人共婚約してるでしょ。それに今はほら…」


 立花が好きだし。


「まあ、綾に惚れるのはしょうがねえな。何たって俺が選んだんだぞ?勿論めちゃくちゃモテるしな」


「ふん!何よ…」


 綾さん嬉しかったんだろう、顔赤いですけど。


「んで、実際どうなんだ?今日一緒に居た、あのすんげえイケメンと付き合ってんじゃ無いのか?」


 あーやっぱりそう思うよな?


「それは…」


 そう言いかけると


「それは無いんじゃない?」


 さっきまでくねくねしてた綾さんが正気に戻ったのか口を挟んでくる。


「何でだよ?ありゃあ相当モテるし、美咲ちゃんだって気を許してるっぽかっただろ?」


「んー逢坂くんだっけ?何かねー彼からは、男を感じないって言うか男を出してないって言うか…コウちゃんなら分かるよね?」


 パチリとウインクしてこちらに合図してくる綾さん。あーこれ気が付いてますわ。


「そうですね。付き合ってるとかはないです」


「そうか、じゃあ後は美咲ちゃんの気持ちだけなのか」


 その気持ちが問題ですけど。


「あたしは美咲ちゃん良いと思うよ?こんなんでも一応彼氏だし、あんだけ褒められたら嬉しいよね。それに一つの事をあれだけ好きになれるのも良いポイント!」


「俺も良い子だと思うぜ。ただな、絶対モテるからぐずぐずしてると誰かに取られるぞ?綾だって俺が何回も告白して付き合ってくれたんだからな」


「え!?涼さん何回か振られてるんですか?」


「あ?言ってなかったか?3回振られてるな」


 意外だな…涼さんでも振られるのか。


「だってコウちゃん!最初の告白なんて、こーんな変な頭してて『付き合ってやっても良いぜ』だよ?誰がOKするんだよって話!」


 昔の涼さんって髪の毛尖ってたのか…。


「そりゃ照れ隠しだろ!その後は髪型もちゃんとしてただろ?」


「髪型は治ってたけど、ヤンキーなのは変わってなかったじゃん。そう言う不良みたいな事をする人は嫌だったし」


 あー綾さん不良とか嫌いそう。理不尽な事許せない!って感じだし。


「でも!不良もやめて格闘技に打ち込むって言って告白したけど振っただろ!?」


「だ・か・ら!何ですぐ信じられるのよ!どうせすぐ諦めると思ってたし」


「まあ…それまでを考えればそうか」


「そうそう!でもちゃんと練習してたから付き合ったでしょ?」


「俺が土下座しながら今回OK貰えないなら諦めるから付き合ってくれ!って言って、やっとな?」


 涼さんが土下座までしたの!?


「それは!あのまま付き合ったら二人共ダメになるって思ったから。好きだったけど好きな人を不幸にする位なら諦めるよ、あたしは」


「って、俺達の話は良いんだよ。コウ!告白はもうしたのか?してるわけねえか、してたら分かるしな」


 俺ってそんなに分かりやすいのか?


「ど、どうしたら良いんですかね!?教えて下さいよ涼さん!」



「お?聞きたいか?」


 どんな秘策があるんだ!


「ぜ、是非!!」


「そうだな……俺は同じ女に三度振られる男だからわからん!!」


 ズサッ!


 椅子から滑り落ちる。


「な、なんですかそれ!」


「てかお前も同じ人に三度も振られる様な奴のアドバイスが効果あると思うか?」


「あっ…」


「やめろ普通に傷付く。まあ何だ、大いに悩んで大いに苦しめ!そうしないと糧にはならん。トレーニングと一緒だな」


「確かに、自分でやらないと意味ないですね。あれ?じゃあ何で立花の事聞いたんですか?」


「そりゃお前面白そうだからだろ!がっはっは!」


 くそやろう!!


「もう知りませんからね。綾さん実はですね…」


「ちょ、待てコウ!誤解だ!!」





「ふぅー…お腹いっぱいだ。綾さん美味しかったですね」


「そうだねぇ、美味しかった。コウちゃんと食べたからかな?」


「俺も綾さんと食べたから何時もより美味しかったのかも」


「んふふ、もう!コウちゃんったら!」


 二人で楽しくお喋りタイムだ。ん?何か隣の席に魂の抜けた何かが居るけど気にしないでおこう。



「おーし食ったな!帰るぞーうお!なんだ鎌田?」


 涼さんの変化に会長も驚いてるみたい。自業自得だぜ!


 外に出ようと店のエントランスに出ると高橋さんが待ってた。


「どうも高橋さん。今日はありがとうございます。ご馳走様でした」


「いえいえ、これくらい。今日は凄く良いものを見せて貰いましたからね」


 そう言いながらこちらをチラッと見てくる。涼さんの試合凄かったもんなぁ。


「あれはまだまだですから、御手柔らかにお願いします」


「ええ!任せてください」


 涼さんでもまだまだなのかぁ。格闘技は奥が深い。



「おし、コウ!遅くなる前にタクシーに乗って先に帰っとけ。見学の件は後で連絡寄越せよ。別に何時でも良いからな」


「わかりました!高橋さん、会長、涼さん!ご馳走様でした!お先に失礼します!」


 そしてタクシーに乗り込む。


 はぁ、美味しいし楽しかったなぁ。ふとスマホを見ると皆から、ありがとうや楽しかったなんて連絡が沢山来てた。


 自分の好きなことで感動して貰えるって良いなぁ。

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