第68話

「おーデカい」


 着いたのは俺が逆立ちしても払えない様な、でっかい高級中華のお店だった。から揚げあるかな?


「ほれ、止まってないで入れ」


 一度ジムに戻ってシャワー何かも浴びたからすっきりしてるし、緊張から解放されたから腹が減ってきた!


「会長!何食べても良いんですか!?」


「おう!好きなもん好きなだけ食え。今日はそう言う日だ」


「よし!腹がはち切れるまで食うぞ!!」


 期待に胸を膨らませながら店に入る。


「「「いらっしゃいませ」」」


 うおーお出迎え?までして貰ってる!


「今日は貸し切りだからね?遠慮しなくて良いよー」


 後ろから声がして誰かな?と振り返ったら興業主の高橋さんがいた。


「田中君何でお前がここにいるんだー!って顔してるね?」


「いやいや!ちょっとびっくりしただけでそんな事を思ってませんよ!」


「ふふん!今日は大盛況だったしね。僕の奢りだから、遠慮せずに食べてねー」


 そう言いながら手をヒラヒラさせて奥に消えていく高橋さん。やっぱりお金持ち何だろうなぁ。


 部屋に入ると映画やドラマでしか見たこと無いでっかい回るテーブルが置いてあった。凄い!回してみたい!


「コウ!こっち来い!お前は俺と綾の隣な!」


 もう席まで決められてる…いや!別に良いですけど?


「よしよし!来たなここの中華まじで旨いから楽しみにしとけ」


「俺こんなでっかい回るテーブル映画でしか見たこと無いですよ!ちょっと回して良いですか!?」


「あ?おう、回せ回せ!好きなだけ回せ!」


 よし!許可が出た!


「うおー!凄い!回る!何だこれ!」


 何だかテンションが上がってきた。


「あっはっは!回せ回せぇー!食器もぶっ飛ばせぇ!」


「うおおおおおおお!」


「ばっかやろう!!!」


 ビクッ!!


 はっ!我を忘れて回してしまった…。


「大人しくできねーのかお前らは!店に迷惑掛けんじゃねえ!」


「「すみません…」」


 二人揃って頭を下げる。


「ふん!まあ今日は大目に見てやる。料理が来るまで大人しく待っとけ」


「ふう…危ねえ…お前があんまり回しすぎるからだぞ?コウ!」


「ええ!?涼さんが回して良いって…」


 そんな馬鹿な話をしているうちに料理がやってきた。


「まじうまそう!高級そうなから揚げもある!!」


「お前のために、から揚げ揚げて貰ったんだよ。貸し切りだから出来たが店の人に感謝しろよ?」


「本当ですか!シェフにお礼行ってきます!!」


「待てコラ!料理食い終わっても間に合うだろうが!帰りにお礼言えば良いんだよ!ったく…」


「そ、そうですね。温かいうちに食べないと…」


「おし、じゃあまず鎌田、乾杯の挨拶を」


「えー…俺ですか?苦手なんだよなぁこう言うの」


「別に身内しかいねーんだから気にすんな何でも良いから、ほれ」


「まあそうですね、それじゃあ今日は皆さん有り難う御座いました!皆さんの協力があってこその勝利だと思います!これからもよろしくお願いします!乾杯!!」


「「「「「乾杯!」」」」



 俺のために揚げて貰ったらしい高級から揚げを食べる。


 ザクッ


 噛んだ瞬間からっと揚がった衣の音がする。そして溢れ出てくる肉汁。


「ハフハフッ!うまっ!何だこれ!?」


 ほ、本当に鶏のから揚げか?もしかしてドラゴンのから揚げ!?いや…鶏っぽくはあるから、コカトリスか!?


 俺が一人でから揚げに驚愕してると…


「なーにぶつぶつ言ってんだよコウ?旨いだろ?俺も一つくれよ」


 旨すぎてちょっと声に出てたらしい。から揚げを一つ摘まんで食べる涼さん。


「いや、旨いとか言うレベルじゃ無いですよ!これ本当に鶏ですか!?実は何処か異世界から仕入れた俺が知らないような肉じゃないんですか!?から揚げの概念が変わりますよ!!」


「お、おう。そんなに旨いか、良かったな」


 何だこの人?このから揚げを食べてもこのリアクション…はぁー…チャンピオンは違うね。


 もう俺はから揚げに夢中だ。もりもり食べる。


「それで、いつから美咲ちゃんの事好きなんだ?」


「ブフォォォォ!」


 あまりに突然の事でから揚げを吹き出した。てか、から揚げが鼻から出てきた。


「な、な、な、な、なんですか!?え?何で!?」


「それは、お姉ちゃんも気になるなぁ」


 そう言えば控室から大人しかった綾さんも話しに混ざってくる。


「何を言ってるか分かりません!」


 何でバレてるんだ?え?誰か言った?


「いやお前、俺達が何年一緒に居ると思ってんだよ。俺も最初はどうかな?って思ってたけど、綾に聞いたら『ついにあたしのコウちゃんも恋する年頃なのね!お姉ちゃん寂しい!』とか言ってたしずっと大人しかっただろ?人知れず落ち込んでたんだよ」


「そうだよ!コウちゃん全然相談とかしてくれないじゃん!あたしはこんなにコウちゃんの事考えてるのに!」


「えっと…バレバレでした?俺…」


「あーとりあえず付き合いの長いジム関係者は全員分かったんじゃねーか?」


 そう言えば、ジムの人達が控室で片付けしてる時に穏やかな目でこっちを見てたり、『頑張れよ!』って声掛けてくれたりしてたっけ…あの頑張れってそう言う事!?


「「で、いつからだ(なの)?」」


 二人共、目をキラキラさせながら聞いてくる。こう言う所本当に似てるよな。言わなきゃ収まりそうに無い…。


「あの、自覚したのは最近なんです。皆で海に行くための買い物に行った時にあぁこれが好きって事なのかなって…」


 自分で言ってて恥ずかしいが素直に言わないと、どうせ誤魔化せないし。


「はぁぁぁ!青春!甘酸っぱい!」


 綾さんは体をくねくねさせながら悶えてる。俺だって悶えたいよ…。


「しかし、美咲ちゃんだろ?ありゃ相当モテるだろ。初恋は叶わないって言うしなぁ」


 涼さんが不吉な事を言う。確かに…


「確かに初恋は綾さんだったし叶わなかったですね」



「え!?」


「あっ」


 ヤバい!秘密にしてたのに!!



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