第60話

「はー楽しかったーやっぱり皆で遊ぶと楽しいねぇ」


「そうだな、俺はあんまり大勢で遊ぶことが無かったから新鮮だな」


 帰り道、立花と喋りながら帰る。他愛もない話が妙に心地好くて、ずっと続けばなんて柄にもない事を考えながら歩く。


「でもさーまさかコウが通ってるジムが涼様と同じなんて思いもしなかった!……そう言えばコウは何で格闘技始めたの?」


 ふと疑問に思ったのか立花が聞いてくる。


「あー前に、いじめられてたって話しただろ?そん時に強くなって見返してやろうって目についたジムに飛び込んで、俺を強くしてください!なんて会長達の迷惑も考えずに叫びまくったんだよ」


「コウが?叫ぶ位悔しかったの?」


「当時は小学生だったし、めちゃくちゃ悔しかったよ。何で俺がって何度も思ったし、でも会長が俺の様子を見て、ただ事じゃないって思ったみたいでさ、ぐずぐずに泣いてる俺の話を根気強く聞いてくれて」


 あの時自分では何て言ったか覚えてないけど大人が自分の話をちゃんと聞いてくれてるってだけで安心してた気がする。


「そんで、会長がいじめの事は伏せて両親に話してくれて、小学生の頃なんて会長や涼さんが遅くなったら家まで送ってくれたりして、本当にお世話になってるんだよなぁ」


「涼様と犬飼さんがねぇ…愛されてますなぁ!」


「正直今でも結構過保護だと思う時あるしな。それでもやっぱり…家族みたいに思ってるよ俺は。会長や涼さんも思っててくれたら嬉しいなぁ」


 会長も涼さんも絶対口には出さないだろうけどな。俺も出さないし!


「良いなぁ羨ましい。涼様だからとかじゃなくて、自分の事をしっかり見てくれる大人が両親以外に居るのって凄い良いよね」


「だな、すっげー恵まれてると思うぜ。この頃はちゃんと友達も出来たしな? 」


「それはあたしのおかげだね。感謝しなさい!なーんてね!」


 こうやって何気ない話の中でも、立花の事が好きなんだと、強く思う。俺の中では話が合うって言うか…波長が合ってる?と思ってる。俺だけかも知れないけど。


「立花は獣医になりたいんだっけ?」


「そう!あたしの夢!小さい頃からの憧れ」


「立花は成績も良いし、努力家だからきっと叶うよ」


「そうかなぁ、一応先生からこのまま行けば推薦出せるって言われてるから、大学には何とか行けると思うよ。でもやっぱりそこからが大変だからなぁ」


「どんな事でも大変な所はあるしな。結構金も掛かるだろうし、うちの両親も格闘家って食っていけるのか不安らしいから」


 一応両親にはプロになりたい旨は伝えてあるが、安定する職業じゃないし、やっぱり不安はあるらしい。


 それでも最後は応援してくれると思ってる。


「そうだね、お金は凄く大事!やりたいことがお金が無いから出来ないのって、とっても辛いからね」


 立花の家って金持ちなのに、その辺はしっかりしてんのな。


「何々!こいつの家金持ちなのに、金銭感覚はちゃんとしてんだな。みたいに思ったでしょ!」


 なんだ!?エスパーか?


「いや、あの…そんな事は…」


「あはは!別に良いよ。でもお金持ってるのは家であたしじゃ無いしね?……結構気まずい話するけど大丈夫?」


「?別に良いけど」


「うちのパパとママって再婚何だよね。前の父親がすっごいダメな奴でさぁ、やっと別れられたと思ったら子供育てるのって凄いお金掛かるじゃん?」


「そうだな、何千万も掛かるって聞いたことあるし」


「んで女手一つだとやっぱり夜の接客がお金が凄く良かったらしくてママもそこであたしの為に働いてくれてたんだよねぇ。自分が別れたことで娘に貧乏な思いはさせたくない!って思ったみたい」


「母は強しだな」


「うん、ママの事本当好きだし尊敬もしてるそんでね、そのお店にパパがお客さんとしてたまたま来た時に一目惚れしたんだって。すっごいアプローチだったらしいよ?」


 立花の母親だからそりゃ綺麗だろうしな。


「最初はママも、あたしがいるし断ってたらしいんだけど、パパの熱意に負けて付き合う事になったんだってー。だからあたしもお金は凄く大事だと思ってるよ」


「そうだよな、誰でもお金は大事だな。」


「うん!今ではパパの事も大好きだし弟も妹も出来て本当嬉しい」


 立花はニコニコしながら家族の話をするよな。本当に好きなんだろう。


「そろそろ家に着くよーコウ、ありがとね?後ちゃんと場所覚えてて!また来るんだからね? 」


「はいはい、ちゃんと覚えておきますよ。なんたって、から揚げの為だからな? 」


「そうだよ、美味しいから揚げ作っちゃうからね!……よし、着いた!送ってくれてありがと。次は涼様の試合でね!お疲れさま!」


「おう、またな」


 立花が家に入るまでドアを見詰める。我ながら未練がましい。まだ立花と話してたかった、もっと色々聞きたかったなんて思ってる。


「さて、帰りますか」


 ひとつ自分に言い聞かせて自宅に歩みを進める。




「せんぱい……」



 その声が俺には届かなかった。





 ───試合当日



「おーし荷物積んだか?忘れ物なんてすんなよ。……よし、行くぞ! 」


 会長の号令で試合会場に向かう。涼さんは先に会場に行ってるらしく、ジムの人や荷物を積んで俺達は向かってる。


「おうコウ、緊張してんのか?鎌田の試合なんだから安心して見とけよ」


「そ、そう言われても…だって会場でかいし人いっぱい入ってるんですよね!?」


「おう!超満員だそうだ。良かったな!」


 ガハハと笑いながら俺をからかう様に言ってくる会長。くっそお!そりゃ会長達は慣れてるでしょうけどね!

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