第59話

「なんで王子さっき居なくなったんだよー!薄情者!」


 王子が居てくれたらもう少し何とかなったんじゃないのか?


「んー?まぁ僕はコウの味方でも有るけど美咲の味方でもあるからね?」


「何だよ味方って?」


「コウには、もう少ししたら分かるんじゃない?」


 なんだそりゃ。わっかんねーよ。


「おいコウ!何ださっきのは、お前いつの間にモブからハーレム主人公にクラスチェンジしたんだよ!」


「してねーよ!てか俺が一番意味わからんかったわ!お前も助けに来いよ!」


「それとこれとは別だろ!俺も馬に蹴られて死にたくないしな!」


「うるせー!お前は豆腐の角に頭をぶつけて死んどけ!」


「コウ、頭に豆腐ぶつけても死なないし勿体無いよ?豆腐が」


「王子は本気で言ってのかどうか分かりにくいわ!」


 三人で笑いながら話す。この時間も唯一無二なんだろうな。


「あーそうだ集まった時に本当は渡そうと思ってたんだか、今度のイベントのチケット渡しとくわー」


「わー!涼様を生で見れるチケット!コウありがとう!!」


 皆に渡したら立花が一番喜んでた。そんなに好きかね?あの人が……?


「あーそれと王子、見学の件だけど涼さんの試合終わったら何時でも良いって会長が言ってたぞ」


「そっか、じゃあ何処かで予定合わせて…」


「なに!王子コウの行ってるジムに見学行くの!?あたしも行きたい!!ぜっったい!」


「いや、美咲。僕は一応本気で入りたいから見学に行くんだよ?やっぱり冷やかしみたいに見学に行くのはどうなのかな?」


「あ、そっか…涼様の練習の邪魔になったりしたら…ファン失格じゃん…でも!見たいんだもん!!」


「あー来たいなら取り敢えず試合の時に会長に聞いてみたら良いんじゃない?普通にOKしそうだけど」


 立花が一人で心の葛藤をしてたけど、多分会長に聞いたら即OKすんだろなぁ。面白そうだとか言って。


「マジで!でも涼様のジムの会長って犬飼さんでしょ!?めっちゃ怖いって有名だけど…」


「何で立花が会長の名前知ってんの?格闘技界じゃ有名人だけど普通知らなくね?」


「いやいや、犬飼会長だよ!?何言ってんのよ!格闘技界の超有名人で実績も凄いじゃん!大体涼様を見出だしたのも犬飼会長でしょ?スパルタで有名だけど選手との信頼も篤くて今の日本の格闘技界一の大物って言われてるじゃん!」


 えぇー…あのハゲオヤジが?この前、海外に修行に行く練習生を送り出す為の飲み会で、飲んでる途中で泣き出してベロベロになりながらずっと壁に説教してたんですけど?


 しかも奥さんと娘さんが迎えに来て頭叩かれながら車に放り投げられてましたけど…。

 もちろん尊敬はしてるけど格闘技界一の大物は嘘だと思います。


「えっと、俺の知ってる会長とは別人かも知れないけど、うちのジムの会長は別に練習中以外は普通に優しいから大丈夫じゃない?」


「本当?あのさ、コウも一緒に聞いてくれる?」


「別に良いよ?王子も別に良いよな?立花が来てても」


「僕はコウとジムの方々が良いなら全然問題無いよ。むしろ美咲が一緒に行ってくれるなら嬉しいまであるし」


 問題は無さそうだな。他の三人は…興味無さそう。


「じゃあ試合の日に聞いてみるか」


「お、お願いします」


 深々とお辞儀をする立花なんて中々見れないよな。てか立花ってかなり格闘技界に詳しいまさか会長の事まで知ってるとは。




 しばらくして、祭りも十分楽しんでそろそろ解散かな?って雰囲気になってきた。


「じゃあそろそろ解散かな?」


「コウ!今度さ、家に来るでしょ?だから家の場所教えておきたいんだけど。良かったら送ってくれないかなぁ…なんて」


 ハニカミながらそんな事を言ってくる立花。


 はい!喜んでーー!


「何でみーちゃんの家に田中くんが行くの!?私も行く!」


「はいはい、麻衣は僕が送っていくからね。コウ美咲の事よろしく」


「おう、任せとけ!」


「じゃあ委員長は俺が送るわ」


「あら川島君、ありがとう」


「いやいや、俺だけ一人で帰るとか寂しすぎだろ!委員長すまんな俺で!」


「全然?嬉しいわよ?取り敢えず帰り道で私の秘蔵の妄想を…」


 タクよ、強く生きろ!そんな感じで話が纏まりそうになった所に…


「せんぱーい!」


 今日何度目かの聞き慣れた声が聞こえてきた。


「先輩達もそろそろ帰る感じですか?」


「あーそうだね、もう帰ろうかって話してた所」


「そうなんですね!あの…私だけ家の方向が違うくて、友達は皆一緒に帰るんですけど、一人で帰ることになっちゃって、出来れば先輩…一緒に帰って貰えたりしませんか?この前みたいな事になると怖いんで…」


 あーそっか、そりゃ怖いかも。


「えーっとうーん」


 俺が返答に困ってると王子がさっと間に入って


「静原さん…だっけ?家はどっち方面?……えっとこっちならタクと同じ方向かな?タク送っていってくれる?ごめんねコウは美咲送っていくってさっき決まっちゃったからさ?」


「おー俺は良いぜー」


「………やっぱり結構です。ありがとうございました」


 冷たっ!え?今冬?冷たすぎて冬かと錯覚する位の声色でしたけど?怖っ。


「ぐぅぅぅそう!!なんだよ!何もしてねーのに振られた気分だわ!悔しい!!」


「王子、ありがとうな。この借りはいつか返す。タクはどんまい!」


「全然気にしなくて良いよ?それにいつか返してくれるなら尚更ね」


 俺は王子への借りを生きてるうちに返せるのか?


「委員長帰ろうぜ…なんか疲れたわ」


「そう?私はまだ見ていたいけど川島君が言うなら帰りましょう。皆お疲れ様、楽しかったわ。また誘ってね?」


 そしてタクは背中に哀愁を漂わせながら帰っていった。


「じゃあ僕達も帰るね。麻衣、帰るよ」


「待って、しゅうちゃん!」


 王子の後ろをテトテト着いていく春川。マジで兄妹みたいだな。


「じゃあコウ、帰ろっか?」


 俺達も帰るとするか。





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