第51話

「なあコウだめか?ちょっと位なら良いだろ!?会長には内緒でさ!」


 この人本当に現役最高の選手と呼び声高い、あの鎌田涼か?実はただの遊びたいだけの兄ちゃんなんじゃないのか?


「おいアホ!こっち来い!トレーニングしろ馬鹿が!」


 会長が涼さんを怒鳴り付けてる。しかし涼さんはあんまり気にしてないだろう。だっていつも会長とはこんな感じだしな。


「会長~アホなのか馬鹿なのかどっちかにしてくださいよ!」


「はぁー…お前の唯一良いところは試合前でもピリピリしないでリラックスしてるところだな…」


 会長も涼さんの性格がわかってるからこんな接し方なんだろう。あれ?じゃあ俺を変な奴って言うのは俺の事わかって言ってるって事!?


「おーそうだコウ、ジム見学したいって言ってた友達な、鎌田の試合が終わったら何時でも良いぞ。何なら鎌田の試合も見に来てもらっても良いしな」


「え!?涼さんの試合のチケットって馬鹿高いしもう売り切れなんじゃ無いんですか?」


 あんな人でも一応今日本で一番強いって言われてるしな…


「あ?別に何人か位ならどうとでもなるから心配すんな」


「じゃあ海に行く友達誘っても良いですか?五人何ですけど…」


「おーそりゃ良いな。後でチケット渡すからちょっと待っとけ。ほれ、鎌田!海は無理でも一応友達は見れるんだからこれで我慢しろ!」


 涼さんはハッとした顔で


「なんだ!やっぱり会長も気になってたんじゃないですか!グエッ!」


 そんな事を言ったらそりゃ殴られるでしょうよ。





「それじゃあお疲れ様でした!」


「おーう、気を付けて変えれよー鎌田、お前はまだ終わりじゃねえ、逃げんな」


 俺が帰る隙に涼さんも帰ろうとしたみたいだが、あえなく会長に見つかって連れ戻されてた。


 はー、セコンドかぁ俺に出来るんかな?セコンドの真似事みたいなことはジムのスパーでやらせて貰った事はあるけど、本番の試合となるとなぁ。


 何度かジムの人達の試合を見に行かせて貰った事はあるけど、当然雰囲気が全然違うし選手側もやっぱり少しピリピリしてる。

 あの涼さんですら、試合前は雰囲気が変わるし…。


 チケットはどうしようかな?まあ海の時で良いか、もしかしたら来ない人だって居るかもしれないし、王子とタクは呼べば来てくれるだろうけど、女子はわからんなぁ。


 立花は一応格闘技好きだって言ってたからワンチャン来るかな?春川と委員長は…わからんな。殴り合いとか春川は苦手そうだし、委員長も野蛮なのは…とか言いそう。


 さて、そんな事を考えながら帰ってると家が見えてきた。今日の晩御飯何だろうなー、なんて考えながら家の方へ向かっていると…あれ、静原さんじゃね?


 一瞬で背筋が冷える。正直後をつけられた時から懸念はしてたし、ちょっと怖かったってのがあったから二人で食事を断ったのも、ほんの少しだけだが理由に含まれてる。


 え?ヤバくね?静原さんの方を見ると落ち込んでるのか、顔が暗い気がする。

 もう夕方だし薄暗いのもあるかもしれないが、今日の事があったから余計にそう見えるのか?


 どうしよう…家に…帰るしかないよな。

 自分でもタクの事があったから、ちょっと強く断ってしまったなとも思ってたが、まさかここまで思い詰めて家まで来るとは…。


 はぁー…俺なんて放っておいてもっと良い男の所に行ってくれよ…慣れてないんだよまじで…。

 覚悟を決めて歩き出す。


「あの、静原さん?何で俺の家の前に?」


 ここはオドオドしながら話し掛けちゃだめだ!不審者には毅然とした態度で接しろと学校でも言われたしな。


「あ!お帰りなさい田中先輩…」


 貴女に帰りを待たれるのは怖いので止めてください…。


「あのそれで…何でうちに…?」


「す、すみません!勝手に押し掛けちゃって…実は学校の帰りに偶然川島先輩に会いまして、色々謝罪をさせて貰いまして…」


 ほう?タクにねぇ…。


「それで、田中先輩にもすぐに謝りたくて…私が無理矢理、川島先輩から聞き出しまして…」


 はぁ、後をつけたとかヤバい理由じゃなくて良かったが、タクの野郎ちょっとは考えろよな…。


「そっか、いきなり家の前に居たから凄いビックリしたよ。でも俺は気にしてないから、それよりちょっと強く言い過ぎたかなって思ってたし」


「いえ!先輩の言葉でいかに自分勝手な考えをしてたかがわかりました。なので、出来れば、お友達から初めて貰えませんか?」


 潤んだ瞳でこちらを見てくる静原さん。

 グッ!卑怯だぞ、こんな風に言われたら断れないだろう。


「えっと、俺で良ければ?友達としてよろしくね?」


 そう言うと、パッと花が咲いたような笑顔でこっちを見返してくる。美人はズルいぜ。


「本当ですか!?ありがとうございます!はぁー…断られると思ってたので嬉しいです!」


「あはは、そんなに喜んで貰えるなら良かったよ」


「それじゃあ、あまり遅くなっちゃあれなので、失礼します!また連絡しますね」


 嬉しそうに駆けていく静原さん。俺なんかと友達になって嬉しいもんかねぇ。

 俺も立花や王子と友達になった時は、嬉しかったから気持ちはわからんでもないがな?


「ただいまー」


「お帰りなさいー」


 まあ無事に家に帰れて何よりだ。








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