第50話

「お疲れ様でーす!」


 さて、ジムに着いた。


「おう、悪いなコウわざわざ呼び出して」


「全然大丈夫ですよ会長。テストも終わりましたしね!」


「おお、そうか。どうだったんだよテスト。赤点でも取りそうか?」


 会長がニヤリと笑いながら聞いてくる。

 しかし嘗めてもらっちゃ困るぜ会長!俺には王子と言う強い味方がいるからな!


「いやいや、今回は生まれて初めてテストで手応えってものを感じましたよ!」


「ほー手応えねぇ?何だ?勉強ちゃんとしてんのか。あいつの学生時代とは偉い違いだな」


 そう言いながら顎で入り口を指す会長。振り返ると涼さんが入ってきてる。


「この前ジム見学したいって言ってる友達が居るって話したじゃないですか?そいつに教えて貰ったんですけど凄く分かりやすくて…」


「おはよーございます会長!おす!コウ悪いな!来てもらって」


「あれ?今日の事って涼さんに関係あるんですか?」


 何にも聞いてないからどういう話なのかさっぱりわからん。


「あれ?会長話してないんですか?てか何話してたんですかー!俺の方見て話してたでしょ」


「あぁ、まとめて話した方が早いと思ってな、コウにはまだ教えてねえよ。それとさっきの話はおめーが馬鹿だって話だよ。ほれ、行くぞ二人共」


 会長が笑いながら事務所の方へ歩いていく。


「何ですかそれ!会長!おっと、コウよろしくな?」


 会長を追いかけてた涼さんがこちらを振り返りながらそんな事を言ってきた。

 よろしくなって何だろうな?





「俺が涼さんのセコンドを!?」


「まあまあ、落ち着けコウ。あくまでも加納さんの手伝いだ」


 事務所に入ると涼さんのトレーナーの加納さんが座っていた。何だろうと不思議に思ってると会長が話し始めて俺に加納さんの手伝いでセコンドに付かないかって話らしい。


「いやー申し訳無いねコウくん、私も体が万全じゃ無いからね…」


 話を聞くと加納さんが数日前に腰を痛めたみたいで今度ある涼さんの試合のセコンドが出来るか不安だと、会長に相談したらしい。


 そこで会長は涼さんに手伝い付けるなら誰が良いか聞いたら俺の名前が出たそうだ。


「いやでも…何で俺なんですか?涼さん」


 ジムには他にも手伝い出来そうな人は沢山居るしわざわざ高校生で経験の無い俺じゃ無くても…


「あぁ?そりゃ、夏休みの予定も無いお前に少しでも思い出を作ってやろうとだな…」


 涼さんが意地悪そうな顔で言ってくる。そりゃ去年はボッチだったけどさぁ…。


「いやいや涼さん、今年は俺友達と海行くんで!寂しくないっすよ!」


「はあ!?コウが友達と海!?……どうせ男だけなんだろ?」


 涼さんは本当に驚いたのか大声を上げて会長に頭を叩かれてた。


「はぁー…涼さん甘いっすね。男だけならわざわざ俺がここで言うわけ無いでしょ」


 俺も負けじとニヤリと返す。


「は、はあ!?まじかよ…コウが…」


 そんなにショック受けるか普通?俺を何だと思ってるんだこの人。


「まったく、馬鹿な事言ってねーで、しゃんとしろ!鎌田はよ、コウに経験を積ませたいんだとさ。お前あんまり試合とか、でっけえ会場で見たことねーだろ?もし自分が立つ番になって困らない様にって事だ」


 会長がちゃんとした理由を説明してくれたが、デカイ会場って…。


「あの会長…デカイ会場って限度があるでしょ…だって涼さんの試合って…」


 そう、涼さんの次の試合会場は…


「さいたまスーパーアリーナでしょ!?」


 そう、今俺が友達と海に行くと聞いてガチで落ち込んでる痛い人は、現役チャンピオンだ。


「あーまあ最初にしてはでけーな!」


 がははと嗤いながら何でもない様に言う会長。いやいや、でかすぎるでしょ。


「ちょっと涼さん!どうでも良い事に落ち込んでないで何とか言ってくださいよ!」


 落ち込んでる涼さんに声をかける。すると生気の無い顔で喋り始めた。


「あぁ…別にコウならいつか行くだろ。そんな事より一緒に行く女の子は可愛いのか!そっちの方が重要だ!!」


 会長と涼さんの期待が凄い…そんなに期待される程強くないでしょ俺…


「もう!真剣に聞いてくださいよ!綾さんに言いますよ!!」


 綾さんとは涼さんの彼女さんだ。涼さんはめっちゃ強いが綾さんには頭が上がらない。綾さんからも何かあったら何時でも言ってねって言われてるしな!


「はあ!?お前綾に言うは卑怯だろ!女の子が可愛いか位教えろよ!後、セコンドは決定事項だから断れないからな!」


 この人チャンピオンのくせに逆ギレしてきやがったよ。大丈夫か?日本の格闘技界…。


「まったく…おいコウ、本当に嫌なら断っても良いんだぞ?鎌田はこう言ってるが別に無理にとは言わねーからよ。それとあんまり深く考えんな。指示は加納が出すから、あんましジムでのスパーの手伝いと変わんねーからよ」


 はあー…会長と涼さんにこんだけ言われたら断れないよな…。


「……わかりました。どれだけ出来るか分かりませんがお手伝いさせて貰います!」


 そう言うと会長は喜んでるみたいだが、涼さんはまだ納得してないみたいな顔をしてる。


「なあコウ……俺も海行って良い?」


「はあ!?試合前に遊びになんて行けるわけ無いだろうが!このドアホが!!」


 会長が涼さんを怒鳴り付ける。

 日本の格闘技界の未来は暗いかもしれない…。



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