第35話

「深淵なる混沌の覇者………」


 ポーズを決めながら本を読み始める立花。


「グッ……!それは……!!」


 俺の鼓動が速くなる。


「終焉をもたらす者よ……裁きは黒く絶望の淵に立つ……」


 くそ!今聞くと意味が分からない!!


「漆黒の覇者よ……禁忌を侵した黒き焔を身許に……」


 覇者さん二人目出てきたよ!

 後禁忌を侵したなら身許に置いちゃダメだろ!


終焉フィーニス混沌ケイオスが始まる……黒の書よ……顕現よ!!」


 ぐああああ!いきなりのラテン語からの、もう手に持ってる本を顕現させようとしてる!


「や、やめてえええ!」


 俺の心が壊れちゃう!

 俺の考えた格好いいポーズ

(某コード○アスの主人公の様に顔を半分隠して片足を前に出し見下すように相手を見る)を完璧に再現しながらこちら見てる立花。


「ぷ、ぷははは!何これ!コウが書いたの?面白すぎでは!」


 そう、これは俺が中学生男子が大体掛かる病の時に丹精込めて書いた


 ≪†黒の書† ~終焉と混沌~≫


 で間違いない。

 だって当時は格好いいと思ったんだよ…


「ねーねー他に無いの?」


「ねーよ!てか漁るな漁るな!大人しく座っとけ!」


 確かに今は無いが実は


 ≪†白の書† ~生誕と降臨~≫


 も実は書いていた。

 当時の自分を殴りたい。


 しかし白の書は白いノートに白い修正ペンで書こうとしてなんて書いてあるか、あんまり分からなくなりページを閉じたら引っ付いて開けなくなった。


 当時の俺は


「やはり俺の属性は黒…白の書は俺には扱えない……か」


 とか言いながら誤魔化してた。

 黒の書と白の書が出会うと創生の書が産まれると言う裏設定があったため白の書を封印と称して近くの公園で燃やして近所のおじさんに怒られたっけ。

 おじさんごめんなさい。


「お前やめろよ…そこは本を見付けても見て見ぬふりするところだろ。ノリノリでやんなよ」


 ドアを開けてポーズを取り本を持った立花を見て当時がフラッシュバックしてドキドキしたわ!


「だーってこんな面白い物があったら読んじゃうでしょ!」


 グッ…!面白いのは認める、他の奴が書いてたら俺も嬉々として読んでただろうからな。

 でも!やっぱ恥ずかしい!


「はぁ、もう返せよ勉強しようぜ。春川達も来るだろそろそろ」


 ワーワー言ってる間に結構時間が経ってしまった。


「コウーお友達来たわよー」


「ほら、もう来ちまったじゃないか。下に迎えに行ってくるわ」


 しっかり黒の書を手に持ち部屋を出る。

 急いで別の部屋に隠しとこう。



「お待たせ、春川に王子。上がってくれよ」


「「お邪魔します」」


「コウの友達?随分格好いいわね!」


 母さんが立花が来た時とは別の意味で興奮してる。芸能人に会ったみたいなリアクションだ。


「浩一君のお母さん初めまして。逢坂修司です。こっちは春川麻衣。今日はお邪魔させていただきます」


 軽く頭を下げる王子。

 絵になるなぁ。


「お、お邪魔します…」


 春川は相変わらず初めての人には緊張するみたいだな。


「どうぞ、大したおもてなしも出来ませんが上がって下さいね」


「ありがとうございますお母さん」


 母さんの顔が嬉しそうだ。

 何か、複雑。


「逢坂、春川。二階だから付いてきて」


 二人に声を掛けて二階に上がる。

 部屋の前まで来てふと思う。


 立花、もしかして例のポーズで待ってたりしないよな?信じてるぞ?


 俺がドアの前で立ち竦んでると王子が


「ここがコウ君の部屋?入れて貰っても良いのかな?」


「お、おう!良いとも!」


 ええい!信じてるぞ!立花!


 ガチャッ


「おつー二人とも、早かったね」


 ふぅ、良かった。


「ほらね、麻衣。何にもなかったでしょ?」


 王子が何やら春川に話してる。


「だ、だってしゅうちゃんが!二人だと何かあるかもって言うから!」


 何だ何だ?


「だからあれは、普通男女が二人っきりなら何があるか分からないけど、あの二人ならただ遊んでそうだねって言ったんだよ」


 俺と立花が二人っきりで何か起こると思ってんのか。こちとら童貞やぞ!起きるわけないだろ!


「あたしとコウで何か起きるわけ無いじゃーん!変なこと心配するなぁ」


 ズバッっと言われると少し傷付きます立花さん。


「まあ勉強しようぜ。時間もあんまり無いしな」


「そうだね、二人で何処までやった?」


「んー?全然やってないよ!二人で遊んでたら二人来ちゃったし!」


「その、すまんな二人とも、教えて貰うのに」


 申し訳ない…


「あはは、ほらねそうだろうと思ってたよ僕は」


「良かったぁ…何もなくて」


 春川は安心したみたいだ。


「よし!やろっか。コウは何処が分かんないの?」


「よろしく頼む。取り敢えず危ないのは数学と現代文だな…」


「おっけー数学はあたしが教えるから現代文は王子がお願いねー」


「そうだね、そっち教えてる間に麻衣と一緒にやってるよ」


 そして意外にも普通に勉強会始まった。

 立花、ありがとう。


「そうそう、ここはこうやってこっちのやつを」


 やっぱり頭良い奴は教え方も上手いな。

 俺が感心してると立花は王子と春川の方を、チラリと見た後俺の方を見てニヤリと笑う。


 何だ?可笑しいことでもあったのか?


「深淵なる混沌の覇者……」


「グッ…!!」


 こいつ!!


「みーちゃん何か言った?」


「ううん、何にもー」


 素知らぬ顔してこいつ…

 立花が再びこちらを見ると笑いを必死に堪えてるのがわかる。


「お前覚えてろよ?」


 小声で立花に抗議する。


「何の事ですか?終焉フィーニス混沌ケイオス…」


「グゥ…ハァハァ…!」


 俺のHPが!!

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