第32話
次の日から目に見えて立花の態度は変わってた。
春川への態度は軟化しているし、パシリの様な事もしないようだ。
クラスのほとんどの男子は訝しげに事のなり行きを見守っている。
クラスの中でも二人だけ微妙な態度の人物が居る。一人は森中だ。
森中はどうも、春川へのいじめを終わったものとは考えず、立花を敵視しているみたいだ。視線が前と全然変わらずキツイ。
もう一人はいじめ?られていた側の春川だ。
何も知らない人が見ればいきなり立花の態度が変わった事に驚いてると思うだろうが…
昨日の話を聞いた俺なら分かる。
あれは立花が自分への態度が優しくなったことに不満が有るんだろう。業が深い。
「コウ~何食べてんのー美味しそうじゃーん!ちょっと頂戴よ!」
こいつ…俺のから揚げを狙っているだと!?
恐ろしい女だ!
「から揚げ以外なら別にいいぞ。から揚げ取ったら……敵対行為と見なす」
食べ物の恨みは怖いぞ、立花。
「えー!から揚げ食べたいー!いーじゃん!一個位!友達で!しょ!」
クッ……!
卑怯なり立花!俺が一番揺らぐ言葉を…!
「くそ……俺の敗けだ……持っていけ!!」
「え?そんなに嫌なの?………でも貰うけど!んー!美味しいー!これコウのお母さんが作ったの?うまー」
何だか、から揚げを取られたのにこんだけ褒められたら悪い気はしないな。
「そうか!分かるか立花。センスあるな!お前!」
そんな馬鹿話をしてると教室の入り口から声がした。
「お~い美咲~居る?」
二人で教室の入り口を向くと、そこには高身長のイケメンがいた。てか逢坂修司だ。
「ん?王子じゃん!何?どったの」
「昨日の話し聞いてさ、一応様子見にと思ってね。それで、どの人?」
はっー!男の俺でもカッコいいと思うわあれは。
「王子はやっぱ優しいね!こっちー」
何か立花が王子を引き連れてこっちに来るぞ…
「はい!こちらが友達のコウです!コウ、こっちは王子!昨日話したよね」
「こんにちは、コウ?くんで良いのかな。逢坂修司です」
すげーにこやかに握手を求めてくる逢坂。
「あぁ、田中浩一です」
思わず逢坂の顔面を凝視する。
うおーまつげ長っ!顔ちっさ!
「……ふぅん、僕の顔見て目を反らさない人ってあんまり居ないんだけど…」
やっべ、顔見すぎた。
「自分の顔に自信があるか、変人かのどっちか何だよね。コウくんは……顔は普通だし、変人の方かな?」
何だこいつ、ナチュラルに顔面自慢と顔面否定入ったぞ?
「モブ顔で悪かったな、で何の用だよ」
イケメンめ……やっぱカッコいい!
「あぁ、ごめんねそんなつもりで言ったんじゃ無いんだ。気を悪くしたのなら謝るよ。僕はただ…美咲と麻衣が信用する男ってどんな人なんだろうと思って様子を見に来ただけなんだ」
逢坂は顔を近付けて小声で俺に話し掛ける。
「昨日話を聞いたならコウくんだって分かるだろう?警戒してるんだ」
確かにいきなり男友達が出来たら立花と春川の事情を知ってる逢坂からしたら当然か。
だけど警戒してますって言ってしまって良いのか逢坂?
「でも!コウくんには必要無いかな。二人が信用したのも何となく分かるよ。って事で僕もコウくんと、友達になりたいな。どうかな…?」
何が逢坂の警戒を解いたのか分からんが…悪い奴では無いらしい。
立花と春川の為にすぐ行動に出たんだから。
しかしイケメンってのはズルいな。
お願いする顔が断れない様な圧を感じる程カッコいい。
「俺で良ければ嬉しいよ。よろしく逢坂」
再び手を出して握手を求める。
「あはっ!良かった!印象悪くなって嫌われたかと思ったよ…コウくんも僕の事は好きに呼んでくれて良いからね。逢坂でも王子でも!」
「そうか、じゃあ立花に倣って王子って呼ばせて貰うわ」
確かにこいつは王子って感じがする。
「うんうん!王子もコウも仲良くなったならよかった!麻衣も嬉しがるだろうなぁ」
そう言いながら立花が満足げに頷いてる。
そういえば春川は何処へ……?
「そういえば春川は何処行ったんだ?」
「麻衣はねーパン買いに行ってる」
パシらせたのか!?
「違うよコウ!麻衣が自分で行ったの」
「あの春川が自発的…に?」
俺がそう言うと立花は顔を寄せて小声で話してくる。
「だってさ、麻衣の借金は変わらないし……何か気分だけでもあたしに使われてるって思いたいんだって……」
ヒュッーー!ぶれないぜ!春川!
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