第23話

 立花がスタート位置に着いた。

 うちのクラスは三位くらいだろうか。

 小林の後をみんなで必死に繋いでかなり順位を上げている。


「頼んだ!立花!」


 パンッ!


「まかせろ!」


 立花にバトンが渡った。

 やっぱり速いなあいつ。

 ぐんぐん差を縮めていく。


 しかし、他の組のアンカーもやはり速い。

 立花は凄い形相で走ってるが一位に追い付くのは無理だろう。


「ふぅーー」


 一つ息を吐く。

 格闘技の時もそうだ。

 焦りすぎても良い結果は生まれない。


 頭はクールに、心は燃やせ。


「田中!はい!」


 パンッ


 立花からのバトンが渡る。


「ごめん、お願い…」


 立花の声を後ろで聞きながら思う。

 これで負けたら漢じゃねぇ!!


「さあ、二組!最後の走者にバトンが渡ります!何と転倒があったにも関わらず現在三位に着けています!」


 まだまだ驚くのは速い。


「ここで男子アンカーの田中君!グングン差を縮めて行きます!速い速いっ!これは大逆転あるか!?」


 よし、二位は抜いた!!


「ここで二位がかわされる!!必死に逃げる一位に今か今かと差し迫る二組!これは凄いっ!!」


 くそ!一位の奴速いな、やっぱりこれは厳しいか?


「ここで一位もスパートだ!!さあ田中君追い付けるか!!」


 ちくしょう!


「コウーー!諦めんなーー!」


 立花!?

 髪を振り乱しながらボロボロの立花が応援してる。


「コウ!任せたんだからしっかりしやがれ!」


 タクからの檄も飛ぶ。


「田中くん!頑張って!!」


 春川も、もう大丈夫なのか。


「田中ー!いけ!」


「田中君!もう少しで追い付くよ!」


 ははは、みんなが応援してる。





 これが青春だ!!!






「うおっしゃあああああ!!」


 気合い一発!やってやる!!


「す、すごい田中君!速い!これは追い付くか!?ゴール前の勝負だ!!」


「「「いっけええええ!!」」」



 俺は倒れこむ様にゴールした。


「コウ!大丈夫か!?」


 タクが駆け寄って来る。


「どっちが勝った!?」


 タクに問いかける。


「一位は………………」






「二組ですっ!!!!」



「「「うおおおおおおお!!」」」



「よっしゃああああああ!!」


「何と途中アクシデントがありながらも、怒涛の追い上げを見せた二組の勝利です!!!素晴らしいリレーでした!皆さん、盛大な拍手をお願いします!」



 パチパチ…パチパチ…パチパチ…


 たかが学校行事だけど、俺にとってはかけがえの無い思い出だ。



「コーウー!!!」


「なんだ!?」


 立花が飛び掛かってきた。

 そして俺は華麗にスルー。


「何で避けんの!ここは熱い抱擁でしょ!」


「何でだよ。握手とかで良いだろが」


 いきなり抱きついて来んなよ。陰キャ舐めんな、ドキドキすんだろ。


「まぁ良いや!ほんっと凄かった!こんな感動したの久しぶり!」


「おうおう、そりゃー良かったよ立花」


「なになにーあたしがコウって呼んでんだから美咲って呼んでよ~!あっ!恥ずかしいか」


 こいつ煽ってやがる。


「美咲、ありがとな。お前の追い上げが無かったら多分無理だったわ。後、応援もかなり効いた」


 若干恥ずかしさはあるが、今の素直な気持ちを伝える。


「ふ、ふふーん素直じゃん!でも、これもみんなの力が合わさっての事だしね!優子ー!やったね!!」


 転んだ小林がこっちに来るのが見える。

 後さっきごちゃごちゃ言ってた男子も、バツが悪そうな顔をしてこっちに向かってる。


「美咲!田中!ありがとうね!本当にうれじい゛よ゛。わ゛た゛じぃぃ」


 また泣き始めたよ。今度は感動の涙だから良いか。


「田中…川島…悪かったな…勝てないと思っていらんこと言っちまった…」


 本人も熱くなって出た言動なんだろう。

 誰でも間違いはあるわな。

 でも…


「まず、謝る相手が違うくないか?」


 別に正直俺はそんなに気にしてない。

 勝ったってのもあるけどな!


「あぁ…小林本当に悪かった。お前達の努力とか考えずに適当言っちまったわ」


 うんうん素直に謝れる奴は凄い。

 俺は出来るだけ謝りたく無いし!


「ううん、私が転んで迷惑かけたのも事実だし、気持ち…わかるから、気にしないで!一緒に喜ぼ!」


「ありがとう小林!それにしても田中凄かったな!」


 これで一件落着かな?


「は?あたしは許してないけど?何勝手に盛り上がってんの」


 はい忘れてましたー!

 一番怒ってた奴が隣にいました!


「あっ……その……」


 固まる男子。

 女王様に楯突いて無事な男子はいないからな。


「あんたさ?あんだけの事言っといて何にもしない何て言わないよね?口だけなら何とでも言える……だっけ?」


 女王様はやられたことは忘れない!

 男子みんな震え上がっています!


「あ、あの……その……」


 もう顔が青から白になってる。

 こいつだけ白組だ。


「ってことで!あんたお疲れ会するんだから幹事やりなさいよね!あと、優子の分も奢ること!良いわね!!」


 まあ本気で怒ってない事は分かってたけど。

 この辺が落とし所かな。

 立花の中では。


「あ、あぁ!わかった!みんなごめんな!とりあえず後で段取り決めるわ!」


 案外怒ってない事がわかったのか、少し安心してみんなの輪に入っていったみたいだ。


「良いのか?立花。最初はガチで怒ってただろ?」


 多分小林に文句言われた時は本気でキレてたと思うんだか。


「んー?まあ良いよ優子が許してたしね。それにコウが頑張ってくれたからなんかもう良いかなって!」


 優しい顔で笑ってる立花。

 不意にこういう顔されるとさすがにドキッっとする。

 元が美人な分尚更だな。


「てかさー美咲って呼んでよー!さっきは呼んだんだからさー!」


「すまん、やっぱ恥ずかしいわ。しばらくは立花で勘弁してくれ」


 まだ俺には女の子を下の名前で呼ぶのはハードルが高すぎる。


「んふふ、まあ良いよ!あたしはコウって呼ぶし!おーし!みんなの所いこー!」


 はぁ、許されたみたいだ。

 俺も立花の後を追うか。

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