第22話

「田中!春川の所行ってたんだって?」


「あぁちょっと様子を見にな」


「ふーん様子を見にねぇ…ってことはあたしの出番見てなかったって事?」


「すまん、見てないな」


「えー!あたしはあんなに応援してあげたのに!なんだよ!ばかばか!」


 こいつ仲良くなったらマジで子供っぽいな。


「すまんすまん、この借りはリレーで返す」


「うーん、じゃあ絶対勝てよ!任せるぞ!」


「はいはい、わかりました。勝たせていただきます」


「ならばよろしい!許す!家族も見に来てるから、良いとこ見せたいんだから!」


 立花、家族見に来てんのか。

 金持ち一家…金ぴか親父なのかなぁ。


「よーし!リレー出る人!ウォームアップしよ!」


「おし!あっちでやろう」


 さあ、いよいよ練習の成果を見せる時だ。




「ふっうううー」


 自然に息が溢れる。


「なんだよコウ、緊張してんの?珍しい」


 川島が話し掛けてきた。


「別に緊張はしてないけど、練習の成果出す時って独特の感覚があるんだよな。何て言うか心を絞られてる感じ?みたいな」


 俺は大体ちゃんと練習した事を発表したり見せたりする時にこの感覚に襲われる。

 誰からも賛同を受けたことは無いが。


「なんだそれ?緊張じゃねーの?それが」


「誰に言っても、分かるー!って言われたこと無いからな別に気にすんな。行ってくる」


「頑張れよー多分これで勝てれば赤の勝ちだからな」





「位置について…よーい……パンッ!!」


 いよいよ始まった。他のランナーは半周だが

 男女のアンカーは一週だ。

 隣で立花がピョンピョン跳ねながら今か今かとランナーが来るのを待っている。


「さあ!二年二組!トップでバトンを繋いでいます!」


 よし、うちのクラスがトップらしい。

 このまま行けば楽に勝てるはず!


「あーっと!!ここで二組の小林さん転倒!大丈夫でしょうか!!」


 ヤバッ!大丈夫か?小林は!


「小林さん!転倒にも関わらず立ち上がって走り出しました!」


 小林に声援が飛んでいる。

 半泣きになりながらバトンを渡す小林。


「ごべん゛みんな゛ーごべん゛ー」


 小林は泣きながら謝ってみんなに頭を下げていた。


「大丈夫、優子!大丈夫だから!あたし達で何とかするからね!」


 立花が小林に声をかける。


「でも…美咲が一番練習頑張ってたのにっ」


「任せとけ、小林。俺達で何とかする!」


「うん、ありがとう。美咲、たな…」


 小林が何とか落ち着いたと思ったら、クラスの男子が大きな声でこちらに聞こえる様に話し始めた。


「あーあーもう負けじゃん。何であそこで転けるかな?あり得んだろー!」


 あーいるいる、こういう奴。何にでも水さして文句言うんだよな。

 もちろん勝ちたかったのは分かるが真剣にやった仲間を責めるのは本当に嫌いだ。


「な!?あんたちょっ…」


 立花が声を上げようとしたその時。


「うるせーよ!お前!真剣にやってる奴に水さす様なこと言うんじゃねーよ!!」


 川島が先に叫んでた。


「はぁ?でももう無理だろーが!あそこで転けなきゃ勝ってただろ!?」


「何でもう負けた気になってんだよ!わかんねーだろうが!応援しとけよ!」


「勝てるわけねーだろ!あんだけ離されてて。このまま負けたら川島お前どーすんだよ?口だけなら何とでも言えるしな?もし負けたらお前が責任取るんだよなぁ~?」


 口だけならってお前にブーメラン飛んでんぞ?


「はぁ?お前マジで言ってんの?…分かった。じゃあもし負けたら…」


 この流れはいかんな…


「たあああぁぁく!」


 大声で久々に"タク"と呼ぶ。

 驚いた顔でこっちを見るタク。


「ま・か・せ・ろ!」


 ニカッっと笑いサムズアップする。

 これで有耶無耶になっただろ。

 大声で少々目立ったか仕方ない。

 変な約束されるよりはましだ。


 ふと横を見ると立花がこちらを見てる。

 大声出したからビックリしたのか、かなり凝視されてる気がする。


「すまん立花。大声でビックリさせたみたいだな」


「え?あ、ううん。いきなり大きな声出すからビックリしたじゃんか!それにしても、川島結構やるね。ちょっと見直した」


「そうだな、元々正義感の強い奴だったし。許せなかったんだろ。あんな発言が」


「うん、でも気合い入った。全力で行くから田中も頑張れ!じゃあ行ってくる」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る