第14話

 幸い立花はまだ来てないみたいだ。

 危ない危ない、努力しない奴が嫌いって言ってたからな。

 ここでやる気を見せて友情を高め合おう。


「おーい田中ーお待たせー!」


 走りながら大きな声でこちらに向かってくるのはもちろん立花だ。

 後ろからヘトヘトな春川も着いてきてる


「ういーお待たせ。色々聞いてきたよ。って言っても聞いた感じ今日はバトンパス位しか出来なさそうだけど!」


 そりゃそうか、いきなり走ったりは出来ないか。他に部活なんかもやってるし隅っこで

 練習する位が関の山だろうな。


「そうだな、今出来る練習を精一杯やろう。

 ところで後ろで春川さんが凄いことになってるけど…」


 立花の後ろではフルマラソンでも走った後みたいな様子の春川が膝をついて肩で息をしている。


「あーこれは放っておいて良いよ。着いてこなくて良いって言ってんのに勝手に着いてきただけだから」


「はぁはぁ…でも…立花さんが…心配だったから…」


 春川が立花から離れられないのは、一種の依存なのかもしれない。

 いつ見ても一緒にいる気がする。


 これは本当に良くないな。

 出来るだけ早く何とかしないと…


「まぁまぁ、春川さんも心配して来てくれたんだし、俺達は練習しようよ」


 立花が不機嫌になる前に練習に入ろう。



「うーんじゃあバトンパスの練習ね。」


 そう言って立花は練習の説明を始めた。


「えっと、なになに…バトンパスは渡す時に掛け声を掛けるらしいよ。後は受け渡しの時に相手が掴みやすいように押し付けるように

 渡すんだって」


 陸上部から聞いてきたんだろうメモをスマホで見ながら説明してくる立花。


「これなら今でも練習出来そうだね」


 うん、至って真面目だ。


「じゃあ練習しようか。立花から俺がバトン受けとるから立花はちょっと向こうから走って来て」


「おっけー行ってくる。バトン落とすなよ

 田中」


 笑いながら少し離れた位置に向かう立花。

 そこでよろよろと起き上がった春川が声を掛けてくる


「あ、のさ私も何か手伝うよ」


 手伝いを申し出てくる春川。

 何かやってもらう事あるか?


「いやいや、春川は自分の競技の練習しなよ」


 至って真っ当な事を言う立花。

 それがあれだけ推薦した人間じゃなければだが。


「そうだね、春川さんは出る競技も多いから練習した方が良いかも」


 すまん春川、これもお前のためだ。

 まずは立花から離れる所から始めよう。



「そんなぁ、私も一緒に練習したい…お願いみ、立花さん」


「練習の邪魔だから、向こう行ってて」


 不機嫌そうに春川へそう声を掛ける立花。


「うん…ごめんね邪魔しちゃって…」


 そう言いながら肩を落として去っていく春川。

 俺も何が正解なのかは、わからんが立花と

 四六時中一緒に居る事が正解じゃ無い事はわかる。


「はぁ、春川本当に面倒臭いわ。田中も思わん?」


「そんな事は無いんじゃね?本当に一緒に練習したかったんだろうし」


 急に話し掛けられて普通に本音が出た。

 ここは立花に同調者するべきだったか?

 一瞬そんな事を考えたが、そんなの俺らしく無い。


「ふーん田中は、そう思うんだ」


 別に怒ってたりは、してなさそうだが

 何だろう、違和感がある。

 若干だが嬉しそうな…。


「よし!田中練習しよ!時間もあんまり無いしね」


 立花の元気な声で思考が中断される。


「お、おう、じゃあやるかー」


 とりあえず今は目の前の事に集中だ。



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