エピローグ
ひびの音は、気にしないでください。
ここは、お互いの心で作った世界ですから……どちらかが終わる時、この世界も少しずつ壊れていくんです。
本来は、どうしようもなく……看取る相手も、この景色を見ることになってしまうのですが──
そこは、少し、都合が良かったかもしれませんね。何せ、今は膝枕の最中ですから……ひび割れて、元の白い空間に戻っていく世界のこと、あなたに見せずに住みます。
胸の奥が、きゅってなるような……そんな光景、出来れば見せたくは無いですから……あなたには、最後まであなたが見たかったもの……私の事、見ててもらいますね?
……ふふっ、今から終わってしまうというのに、なんですかその顔は。
私の事見て、照れてる場合ですか、全くもう……そういう、幸せそうな顔を浮かべてくれるのであれば……看取り手冥利に尽きるというものです。私の目的は最初から、あなたに好きな景色を見てもらうことでしたから……それが私なのは、ちょっと恥ずかしいですが。
──私、結局あなたのこと、あまりに聞けないまま終わってしまいましたけど。
楽しかったですよ、あなたとした、少しだけのデート。とっても新鮮で、普段誰にもしないような話が出来て……
とても、素敵な体験をすることが出来ました。誘ってくれて、本当にありがとうございます。
……ふふっ、当たり前じゃないですか。
忘れませんよ、あなたと過ごした短い時間も、あなたが選んだソフトクリームの味も。もちろん、あなたのことも絶対に。
ね、だから。
(少し泣きそうな震え声)
あなたも、私のことを忘れないまま、いってくださいね? 私の初めてのデートを奪ったんですから、忘れたら許しません。
この世界に、あの世、なんてものがあるのかは知りませんが……もしあったら、そこまできちんと持っていってください。
約束ですよ、指切りしますか? ……では、膝枕のままでいいので、手を出してください。
ゆーびきーりげーんまーん嘘つーいたーら針せーんぼーんのーますっ。
……約束です。これは、少し。デートと呼ぶには……ちょっと、子供っぽい事だったかもしれないですけれど。
……泣かないのか、ですか? 泣きませんよ、泣きません。さっきも言ったように、悲しい気持ちでいっぱいですけど……この死を、悲しいだけのものにしたくないですから。
私の、看取り手としての役目を、悲しいものを受け止めるだけの、役割にはしたくないですから。
──強くは無いですよ、悲しい気持ちになってるってことがバレるくらいに、声が震えちゃっています。
もう少し、平静を保たなきゃ、ですね。死に慣れない、不安なままでも。相手にまで不安を与えることがないように。
(雨音)
……ああ、そろそろ。余計なお話をしている時間も、なくなってきたようです。
……最期に、何か一言。言いたいことはありますか? あれば、ご自由にどうぞ。
(間)
……そうですか、ええ、その言葉。しっかりと、覚えておきます。
看取り手として、あなたの願いと、意思は。決して忘れません、胸に刻み付けて……ずっとずっと、受け継いでいきますから。
……そして、ひとりの少女としても。デート相手の言葉です、しっかり忘れないようにしますよ。
……それでは。
どうぞ、安らかに。
──お疲れ様でした、おやすみなさい。
あなたの旅立ちが、良いものになることを……祈っています。
看取り手少女のお見送り 響華 @kyoka_norun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます