第19話(俺ってやっぱり主人公とかなれないよな~)


「ピピー!」



試合開始の笛が鳴る。


俺と前田は2階へと上がり、未來たちの試合を応援する。



「なんか違うよな~」



「なんだよ、違うって?」



俺のつぶやきに前田はそう返す。



「だってさ~、俺らなんか決勝どころか1回戦にも勝てなかったんだぜ。ただただ知り合いの女子の決勝の応援か~。うまくいかないもんだな」



「そんなもんだろ」



「一応俺ら今日まで数日だけど毎日練習してたじゃね~かよ。少しくらい成果が出てもいいもんだ」



「世の中実力も大事だが、時には運も必要なんだよ」



「はぁ、そういうもんかね~」



俺らがそんなことを言っていると、



「前田く~ん!」



前田の後ろから前田を呼ぶ声が聞こえる。



「なんだ、仲野か」



前田が後ろを振り向きそうつぶやくと、仲野さんはこっちに駆け寄ってくる。



「お二人も決勝の応援ですか。決勝は私のクラスと前田さんたちのクラスの対決ですもんね」



仲野さんは俺、山田、前田、未來、清水さんのいる3組とは違い、4組である。


今回の決勝はその3組と4組の試合であった。



「そういえば山田さんはどうしたんですか?いつも3人で一緒にいるのに」



「山田は決勝の代打に行ってるよ」



「へぇ~、代わりを頼まれるなんて、山田さんって結構運動できるんですね~」



「はいはい、私は運動なんてできませんよ~」



「あれ、すねてるんですか?」



仲野さんは前田に向かってニヤッとした表情でつぶやく。



「うるせぇ、ほっとけ」



「お前ら、いちゃついてないで試合を見ろよ」



「はい…」



俺がそうつぶやくと、さっきの雰囲気から、気まずい雰囲気へと変わり、二人は静かに試合のほうへと目を向ける。



「仲野のとこのチーム、強いな、清水さんや佐々木さんのスパイクもうまく返してる」



さすが決勝戦といったところか。一進一退の攻防が続いている。決勝も余裕と思っていたが、そううまくはいかないらしい。



「まぁ、私たちのクラスのチーム、ほとんどがバレー部ですからね~」



「はぁ、マジかよ」



仲野さんの発言に俺はそんなことをつぶやく。残念ながら俺たち3組は男だけでなく、女子さえも運動ができる人は少ない。試合が始まった時点でこちら側は不利であったということか。


2階からではあったが、未來や清水さんは今までよりも息は荒く、緊張した雰囲気であることはひしひしこちら側から伝わってくる。


お互い1セットずつとりあい、接戦とはなったものの、3セット目はこちら側の体力、気持ちの限界からか、12対25と最後は結構あっさりと負けてしまった。



試合のあいさつを終えると俺たちは未來のもとへ歩み寄る。



「負けちまったな~」



「何少しニヤニヤしてるの...っていうか相手チーム強すぎ。3セット目なんか相手が私たちのプレーに慣れちゃってて、手のひらで踊らされてる感覚だった」



未來がそうつぶやくと、



「まぁ、相手はほとんどがバレー部っていうし。とにかく、まだ男子の決勝はまだ終わってないっぽいし、応援にでも行くか?」



俺がそう提案する。しかし、



「あ、ごめん。私、ちょっと用事あるから、先行ってて」



清水さんがそう言い、体育館の出口へと走っていく。



「山田が一番見に来てほしいのは清水さんだってのに...やっぱり俺らには主人公補正なんてものはないんだな...」



「そうだな...佐藤や山田はともかく俺には無縁な存在だ」



「なんでお前だけなんだよ」



俺と前田がそんなことを言い合っていると、



「何2人でぶつぶつ言ってるの?」



未來がそう聞いてくる。



「いや、何でもねぇよ。さっ、俺たちも外に出ようぜ」



未來の疑問を俺が遮ると、俺たちは男子のバレーコートへと向かう。



「さぁさぁ行きましょう。前田君!」



その一方で、仲野さんが前田の腕を引っ張って歩く姿を見て俺は前田に向かって小さくつぶやく。



「お前は地味に補正かかってそうだけどな...」




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俺たち4人が男子の決勝のコートに集まったときには山田のチームが1セットを取っている状況だった。



「やっぱ山田君バレー強いよね」



未來がそうつぶやくと、山田が俺たちに気づいたようで、俺たちに手を振る。


が、その瞬間俺たちの中に清水さんがいないことに気づいたのか、急に肩の力を抜いて、下を向き始めた。



「わかりやすいな、あいつ」



たしかに、山田が俺たちと別れる前に、絶対に清水さんを決勝に連れてきてくれとは言われたが、こればっかりは仕方がない。俺は何でもないかのように、ただただ無表情で試合を見る。


それからの山田はもっとわかりやすかった。急にこの試合はどうでもいいですよというかの如く、肩の力を抜き、無理にスパイクなどを打つことはなくなった。


さっきまで16対10だったのがいつの間にか20対25という大逆転で1セットを取られてしまう。いくらみんな決勝まで行ったからって、一人やる気のないやつが出てくると、チームの強さは大幅に下がってしまうのだろう。



「あいつ、後でみんなからしばかれても知らんぞ」



俺がそんなことをつぶやいていると、後ろから走ってこちらにやってくる人がいた。



「はぁ、はぁ。試合終わっちゃった?」



清水さんである。彼女は未來に向かってそう言いながら、息を整える。



「いや、まだだよ。お互い1セットずつ取ってる」



未來がそう答えると、清水さんは安心したかの表情で、手元にあるカメラのセットをする。



用事ってカメラを取りに行くことだったのか...俺がそんなことを思っていると、



「ピピー!」



3セット目が始まる。


みんなはもうわかっているとは思うが、それからの試合の決着は早かった。山田がカメラを構える清水さんを見た瞬間、今まで見てきた山田とは違う、強気なプレーをどんどん行っていく。


サーブ、スパイク、ブロック。心の中はどうであれ、山田のプレーは男の俺から見てもかっこよかった。



「ピピー!」



山田のチームがあっさりと25点を取り、試合を終える。



単純な奴だな~



山田のチームがコート上で喜び合っていると、



「また振り返りたいと思える日が増えちゃったな~」



清水さんは未來の隣でそういいながら笑顔でカメラを眺める。



なんやかんやで山田もしっかりと青春を謳歌できているらしい。最初の1回戦敗退はともかく、山田も結局は主人公補正がしっかりとかかっていたようだ。



みんながそれぞれ喜び合う中、俺はただ一人でたたずむ、





あれっ、俺だけか?補正かかってないのは...





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