第16話(俺たちに運動なんてできるわけないだろ!)



「さぁ、俺らにとって最も縁のないものが近づいて来ようとしております」



俺は朝、前田の席に行くと、前田に向かってこう言う。


すると前田は少しため息をつきながらこう言った。



「あぁ、俺らにはただの無駄な時間でしかない学校行事、そう!」



そして、俺ら2人は声をそろえて言う。



「球技大会!!」



1年に3回あるこの行事は、スポーツのできる男子にとっては女子にいいところをアピールするいい機会だが、スポーツなんてからっきしな俺らにとっては、ただの暇な時間作ってしまう機会に成り下がってしまう。


この学校の球技大会はトーナメント方式であるため、1回戦で負けると、決勝が終わるまでの約4時間の間、本当にすることがないのだ。だから俺は、この球技大会をただの友達と話すトーク会なのだと初めから思うようになってしまっている。



「今回は競技なんだっけ?」



「バレー...」



「うわぁ~」



前田の回答に俺は落胆する。



「なんで卓球になることがないんだよ。一回くらいあってもいいだろ!」



元卓球部の俺からしたら、3年に一回くらいはあってほしいものである。



「あるわけないだろ、全校生徒何人いると思ってるんだよ、1試合1人か2人の競技なんてやってたら2日はかかるわ!」



ごもっともです。



俺たちがそんな会話をしていると、



「おっは~、何話してたんだ」



山田が学校にやってきて、俺らのところに集まる。



「ふっ、運動できるお前にはわからない話さ...」



「はぁ、なんだよそれ?」



前田の回答に山田は困惑する。



「球技大会のことだよ」



「あぁ」



今の俺の言葉ですべてを理解したらしい。


山田は1年の頃の球技大会でのサッカーで、クラスの運動できるチームに入り、ゴールも決め、見事優勝している。運動できないチームに入り、しっかりと1回戦を敗退した俺らとは違う。しかし、



「いいか、今回のバレーのチームは俺ら3人が一緒だ。いくらお前がいたとしても、俺らがいる限り、1回戦敗退は揺るぎないものとなるだろう」



「そんな俺らがいる限り大丈夫だ、みたいに言われても...」



俺の言葉で山田はさっきより困惑する。



「ま、まぁでもまだやってもいないんだ。今日体育があっただろ、その時にでもやってみようぜ」



山田はそう言いながら、ショートホームルームの時間になったため、自分の席に戻るのだった。





体育の時間、俺たちは着替えて体育館に向かう。今の時期の体育は、球技大会の競技を行うことになっている。俺たちはネットの準備をすると、あらかじめ組んでおいたメンバー6人で実際に試合を行う。


俺らのチームは俺と前田の仲で組んでくれた山田を除くと、持久走大会の最下位候補になり得るような運動音痴の奴らばかりである。



さぁ山田よ、どれだけこのチームでは1回戦突破が難しいか教えてやろう!


このチームが1回戦突破が難しい理由は2つある。



試合が始まると、最初はまずサーブを打つ。最初のサーブ権は俺らのチームだったため、まず俺がサーブを打つ。しかし、



「あ~あ」



俺が出したサーブは真横に飛んでいく。


そう、理由1つ目は、まずサーブがまともに打てない点だ。俺らがサーブを打てば打つほど相手に点が入っていくシステムである。こんなに恐ろしいことはない。



そして相手がサーブを打つと、俺らはレシーブをしようと構える。しかし、



「はーい、1、2,3,あぁ~」



そんな声が響き渡る。理由2つ目はボールが3回のレシーブで、相手コートに入らないという点だ。


こういった、攻め、守りの2つの要素が著しく乏しい俺らのチームでは、ほぼ勝利は不可能だろう。



「な、俺らが勝つことなんて無理だろ」



「だからなんでそんな堂々としてんだよ!」



結局俺たちのチームは一回も勝てなかった。





6限目が終わり、放課後での帰り道、



「おいおいこのままじゃ清水さんにいいとこ見せられないじゃないか~」



山田がそうつぶやく。たしかに、勝ち進めば、別で試合をしていた女子も応援に来るようになるため、決勝戦くらいまで進めば、活躍する姿を見せることができるだろう。


しかし、俺らのチームでそれを言っても、ただの理想論に過ぎないのである。



「残念だが、あきらめろ...」



前田が山田の肩をたたきながらそうつぶやく。



「ふざけんなよ!原因はお前らなんだぞ。仕方がない、こうなったら...」



「え?」



「お前ら、ついてこい」



「お、おいっ!」



山田がそう言うと、俺らをあるところへ連れていく。



「よし、ここだ」



「おいっ、ここって」



山田が連れてきたところは公共の体育館だった。



「ここでは体育館の半分を使って、希望者がそろって毎日バレーをしている。今日から俺たちも参加するぞ!」



「えー!!」



俺と前田は同時に声を上げる。



「おいおい、嘘だろ!冗談だろ、な?」



「やめとこうぜ、帰って勉強もしなきゃだし」



「うるせぇな、お前ら苦手なことから逃げんじゃねーよ」



「で、でもっ!」



「でももへったくれもあるか!やるぞ」



「えぇ~」



俺と前田はいろいろ言い訳をしてみたが、山田は一切聞く気を持たなかった。




これから面倒なことになるな~。いやだな~。



















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