第17話(見せてやろう、俺らが身に着けた実力を!)


球技大会当日、俺たちは朝から体操服に着替え、全校生徒全員が体育館に集まる。


ちょっとした開会式を終えると、俺たち男はグラウンド、女子は体育館にそれぞれ分かれて準備体操を行う。これは、男子が外、女子が体育館でそれぞれバレーを行うためである。



準備体操を終えると解散し、それぞれ自分の試合が始まるのを待つ。



「さぁ、はじまるぞ球技大会が。今までの練習を発揮する時だ」



「はぁ、やっと今日で放課後の練習から解放される...」



山田の言葉に前田がそう返事をする。



「今更だけど、どうしてこんなにやる気なんだよ?球技大会のために毎日練習するやつなんてまずいないぞ!」



「そうだよ、もっと言ってやれ!...まぁ、それに付き合った俺らも俺らだが...」



「だってさ、前勉強会に行った時に実感しちゃったけど、やっぱり俺が勉強で清水さんにアピールするのには無理があるって。それだったらまだ運動のほうが可能性があるってもんだ、やれるときにやらないでどうするっ!」



俺の質問に山田はこぶしを強く握りしめながらそう返す。



「まぁここまで来たんだ、やれるだけのことはやろうじゃないか」



俺はそう言って、俺らは試合をするコートに向かった。





一回戦、よくあるスポーツ漫画だとほとんどカットされるこの戦いは、俺らにとっては大きな山であった。


今回のルールは1セット25点の3セットマッチ、先に2セット取った時点で終了である。



「さぁ、まず一勝だ。気合い入れていくぞ」



「だからさぁ、その一勝が難しいんだって」



山田の意気込みに俺はそう呟くと、



「おいお前ら、もう始まるぞ」



「ピー!!」



前田の発言と共に試合開始の合図がなった。



さぁ見せてやろう、俺らが身につけた実力を!



まず、俺たちは手を上から下に振って打つフローターサーブを身につけた。


自分自身のサーブで点を落とすという無駄なことはやめろという山田の発言から、サーブは最初の時点でみっちり行った。


やはり手を上から下に振って打つとボールは結構なスピードを出すため、俺らがフローターサーブを打つと、相手もバレー経験者ばかりではないので、ほとんどの場合、レシーブが帰ってくることは無かった。



「おいおいいけるんじゃねーか。佐藤のサーブだけでもう5点入ったぞ!」



俺のサーブ快進撃に、前田がそう呟く。


バレーのサーブは相手が得点するまでこっちのサーブなので、相手が点を取るまで、俺のサーブ快進撃は続く。



「おーっと、帰ってきそうだぞ」



俺らが7点目を取ったところから相手も慣れてきたのかレシーブが帰ってくるようになってきた。しかし、



「任せろっ!!」



俺と前田がレシーブをつなげると、山田が相手コートに強いスパイクを打って点を入れる。


レシーブ対策も万全だ。俺と前田はスパイクを打てないものの、2回のレシーブをしっかり繋ぎ、3回目は山田が強いスパイクを打つ。



俺たちは毎日の練習の中で、このパターンを確立した。



これならいける、いけるぞ!




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負けた。


さっきまでの予想をことごとく覆し、負けた。



「な、なぜだ!なぜ負けた!」



山田が予想外であったかの如く声を上げてうめく。



「俺さぁ、今まで考えない様にしてたんだけど、俺ら3がどうあがいても結局負ける試合だったんじゃねーか?」



前田がとんでもないことを言い出す。



「は!?どういうことだよ。それはただの結果論だろ」



山田が前田の発言に言い返す。しかし俺もこう言う。



「まぁ、それは俺も考えないようにしていたが、懸念はしていたよ」



「なんだよ2人揃って、今までの練習が無駄だったって言いたいのかよ!」



「別に俺はそこまでは思ってねーよ。ただ、俺ら3だけがどんだけ練習したってバレーはチーム戦だ。俺ら以外にも前の俺らレベルのメンバーがあと3人いるっていう話だよ」



「うっ...」



山田もおそらく考えてたのだろう。痛いところをつかれたかの様にうめいた。


そう、俺らがどんなに練習しても、他にもメンバーがあと3人いる。俺ら以外の所にボールが入ったら、ほとんどの場合、レシーブが成功することはなかったのだ。


それが相手チームにバレてからは簡単だった。レシーブを俺ら3人以外の所に集中的に行い、その上、俺ら3人以外のサーブはからっきし入らないため、優勢だった俺らの点差をことごとく縮めていったのだ。



「クソっ!世の中結果が全てだ。1回戦で負けてしまった以上、俺らの努力は目的にあっていない無駄なものだったことを証明してしまった!」



山田がそう呟いていると、



「なぁ」



後ろの方から声がし、振り返るとそこにはチームのメンバーだった俺以外の3人が立っていた。



「俺たちが足引っ張ってしまって、ほんとごめん。お前ら練習したんだろ、明らかに上手くなってる。それなのに俺らは...」



「いやいや、俺らは気にしてねぇよ。問題は...」



3人の言葉に俺と前田はそう返すと、山田の方に首を向ける。すると山田は静かに3人の方を向き、



「ハハッ、気にすんなよ、もう終わったことだ。それより俺ら負けたことだし、敗者審判しようぜ」



と、なんでもないかの様に呟いた。



「山田、お前...ん?」



すんごい険しい表情をしながら...




いや絶対気にしてるだろっ!!







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