第10話(二人だけの時間<佐藤の場合>)


「ねぇねぇ、あの二人、どっか行ったっぽいよ。ついて行ってみる?」



「別にいいだろ、めんどくせえし」



山田と清水さんを2人きりしてみると、屋台の奥の方へ行ってしまった。


2人きりになった以上、俺にできることなどなく、後は山田にお任せする。その上、二人で仲良くする姿を見せられると、嫉妬心からか俺は急に二人に対して投げやりになってしまった。



「そういや昼飯まだだったな。俺らは俺らで勝手に屋台で飯でも食っちまおうぜ」



俺はそう言って未來と二人で屋台を散策する。


様々な屋台を見ていると、屋台とともにたくさんのカップルたちも目に映ってしまう。そこで俺は急に力が抜けてしまう。


羨ましい、羨ましいのだ。祭りの日に男女二人っきりで時間を過ごすだなんて、こんな楽しそうなことってあるか。


俺はそう思いながら隣を見ると、あることに気づいてしまった。



あれっ、俺って一応その人たち一人なんじゃ?



男と女が、制服ではあるものの二人きりで祭りに参加している。その時点で周りから見たらカップルであろう。たとえ、ただの幼馴染であったとしてもだ。


俺は、未來とカップルだと思われるのはやぶさかでない。だって性格はいいし、なんていったってかわいい。


たしかに身長の高い男子たちからすると、前髪のせいで顔の大事な部分である目があまり見えないため印象は薄いものの、たとえば...



「ぽとっ」



「おーい、メモ帳落としたぞ」



物を落としたなどで下から未來の顔を覗くと、目がはっきりと見え、顔全体が明らかになる。



「ありがとう」



未來の目はぱっちりとした二重であり、顔全体で見るととてもかわいい。


いやね、恋愛とかっていう面じゃなくてね、ただの幼馴染としてみて、かわいいっていう意味だよ。



さあさあ気を取り直して、俺たちは焼きそばでも買って昼飯にすることにする。



俺と未來は焼きそばやフライドポテトなどを買うと、食事スペース向かう。



「ふぅ、やっと落ち着けるぜ。足めっちゃ痛い、明日絶対筋肉痛だ~」



俺はそんなことを言いながら、昼飯を食べる。すると未來が口を開く。



「健一ってさ、少し変わったよね」



「え、何が?」



俺は口にものを入れたまま答える。



「今まで結構インドア派で、あまりこういうイベントに参加しなかったじゃん。美術部だってあまり活動がなくて楽だからって理由で入ったんじゃなかったっけ?どうしたの急に?」



「いや別に、大したことじゃないよ、山田の恋にちゃちゃ入れよう思っただけで、イベントに積極的に参加したいってわけじゃなかったよ」



俺はそう言った後、少し間をおいてまた答える。



「でも、こういうのも悪くないかもな」



そういうと未來は、話の話題を変えてきた。



「そういえばこの前、山田君と松山行ったんだよね。いいな~、私も連れて行ってよ」



「お、いいかもな。じゃあ今度山田と前田と清水さんの5でいってみるか」



俺は楽しそうにそう言うと、未來はは少し表情を変えて言う。



「まぁ、別にいいけど」



やけにあっさりとした反応である。


あれ、何その反応。なんか俺、発言間違えた?



朝の時もそうだったがやはり俺にとって、女心は難しいらしい。




昼飯を食べて少しすると、



「ご飯も食べたことだし、写真でも撮りに行こうよ」



未來はそう言いだした。



「え~、もう結構撮ったし、別によくない?あとは祭りを楽しもうぜ」



「何言ってんの、写真部でしょ。何のために入ったの?」



「山田の恋にちゃちゃ入れるため...」



「一応、好きな写真を撮るためにしておいてよ。ほら、行こう!」



未來は俺の手を引っ張っていく。


食事スペースのあたりを見てみると、小さい子供と一緒に屋台で買ったであろう、焼きそばとタコ焼きを食べている母親らしき人を見つけた。



「ねぇ、あの人たちを撮らせてもらおうよ」



「はいはい、じゃあ声をかけてみるか」



俺は少し気だるそうにそう言い、未來はその親子に声をかける。



「すいません、お二人の写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか?別にSNSとかにあげたりはしませんので」



「ああ、別にいいですよ」



俺と未來は二人の写真を撮る。親子が二人で一緒にご飯を食べる姿はなにか感慨深いものがあった。特に、孤食とか言われている現在においては、より感じられるものである。


一通り写真を撮り終え、俺たちはお礼を言うと、突然...



「それにしても若いカップルっていいわね~、仲良さげで」



親子のお母さんは言ってきた。



「え、」



俺と未來は同時に声を上げる。



「あはは、どうも...」



俺は愛想笑いをしてやり過ごす。未來は俯いたまま動かない。


親子がその場を離れると、



「・・・」



俺たちは少しの間、沈黙を続ける。



「もう時間だし、戻るか」



俺はそうつぶやくと、



「そ、そそそうだね、駅に戻ろっか!」



おいおい、未來までも心を揺り動かされちゃてるよ。



駅に向かった歩き出すものの、俺たちは駅までの間、一言もしゃべることはなかった。



俺たちが駅に着くと、そこにはもう山田と清水さんがいた。



「待ってたぞー、早く帰ろうぜ」



山田が急かせてくるが、俺たちの様子を見て、



「ん、お二人さん、なんかあった?」



と、にやにやしながら聞いてくる。



「いや、別になにも」



「ふ~ん」



なぜか山田だけでなく清水さんまでもがにやにや、とまではいかないが満面の笑みでこっちを見てくる。



すると、いいところに顧問の先生がやってきた。



「よーし、全員集まってるな。じゃあこれで撮影会を終了します、解散!」



俺たちはまた切符を買って電車に乗る。電車内でもなぜか気まずい雰囲気はぬぐえず、俺は場の空気を変えようとこう言った。



「なぁ、あと少しで中間テストだよな、みんな勉強してる?」



「やべー、そういえば全然勉強してねー!」



「私も、そんなにしてないかな」



山田と未來が続けて答える。すると俺は二人の反応にこたえようとある提案をする。



「それじゃあさ、来週の休みにみんなで集まって勉強会でもしない?」
































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