第11話(それはまさに、勉強会のための勉強会で...)


「みんな、よく集まってくれた」



俺はまた、手を組みながらそう言った。



「佐藤隊長、今日は一体どうしたっていうんですか?」



山田隊員がすかさずこう聞いてくる。



「山田隊員、よくぞ聞いてくれた。今回は...」



「それ前もやっただろ、何山田も隊長とか言ってんだよ。漫画の見過ぎだ」



すかさず前田がつっこんでくる。



「ツッコミがはえーよ、お前も乗って来いって!」



「乗って来いじゃねーよ。今回は何なんだよ!こちとら急にお前たちがやってきて戸惑ってんだよ!」



そう、今回は美術室ではなく前田の家にいる。放課後の帰り道、前田に”今日お前ん家行っていい?”と無理を言って家に上がらせてもらったのだ。



「今日集まってもらったのはほかでもない。今日からちょうど2週間後に中間テストが控えている」



「別に集まったわけじゃ...」



そう言う前田を無視して話を進める。



「そして、中間テストの対策として、未來と清水さんで勉強会を今週末に実施することとなったのだ」



「はぁ、よかったじゃん」



前田が気のない返事をする。



「なんだよ、他人事のように言いやがって」



「実際に俺、関係ないじゃん」



前田がバカげたことを言うので、俺は訂正する。



「何言ってんの、お前も参加するんだよ」



今回の勉強会に前田も参加することはもう2人には言ってある。



「はあ!なんで俺まで参加しなきゃならないんだよ、写真部は写真部でどうにかしろよ!」



「もしも分からない問題があった場合、俺ら2人だけじゃ解決できねーだろうよ。お前の力が必要なんだよ」



前田はクラスの中で1,2を争う成績である。それに比べ、俺と山田は真ん中よりちょっと上くらいの何とも言えない位置にいるのだ。当然、女子二人に教えられる自信はない。



「別にお前らが分からなかったら女子2人に聞けばいいだろ」



「なんだよそれは!2人に聞いてたらかっこつかないだろうよ!」



「別にかっこつけなくてもいいだろうよ!」



「女子がいたらかっこつけたいだろうよ」



「そうだそうだ!」



山田も俺のフォローをする。



「なんだそれは!」



俺たちは男だ、女子にかっこつけたいに決まっている。ましてや清水さんに恋している山田ならなおさらだ。まあ、俺だって、未來にかっこつけるのもやぶさかではない。



「そこでだ、俺と山田が少しでも女子二人に勉強を教えることができるように、この三人で事前に勉強をしようって言うのが今回集まった目的だ」



「いや別に俺参加するって言ってな...」



「大丈夫だ、分からないところといっても教科書みても分からないところがあるのなんて数学や物理、化学くらいだろうよ」



俺は前田のコメントを遮って話を進める。



「さあ善は急げだ!勉強会のための勉強会を始めるぞ~!!」



「おー!」



俺と山田は元気よく勉強に取り掛かる。



「なんだよ勉強会のための勉強会って...」





とりあえず3人が机を囲って座ると、俺は机の真ん中に数学の教科書を並べる。



「よし、とりあえずは数学だ、前田、今回のテスト範囲は?」



「おいおいテスト範囲くらい把握しておけよ。三角関数全般だよ」



「三角関数か~!最初のほうはともかく、後半のほうややこしいからな~!」



「加法定理以降のやつな、あそこらへん俺もよくわかんね」



俺と山田が文句を言っていると、



「それはお前らがただやってないだけだろ!数学はあまり暗記するところなんかないんだからあとは経験だよ」



前田がもっともらしいことを言うが俺も反論する。



「何言ってんだよ、三角関数なんて暗記めっちゃあるじゃん。加法定理だろ、2倍角、3倍角、半角、それに和積、積和だってそうじゃないか、それに合成も」



「ばか、そんなもん加法定理さえ覚えておけば後は覚える必要なんてねーよ。あとはその場で導ける」



「え、マジで!それ教えてくれよ」



暗記が苦手な俺にとって、その情報は助け舟でしかない。俺たちは早速そのその知識を前田に教えてもらう。



「例えば2倍角は加法定理の公式のαとβを両方ともαにしてっと...」



それからは早かった。前田は加法定理の式を多様に駆使して様々な公式を示した。特に、和積と積和はすごかった。サインとコサインの加法定理の式2つを足したり引いたりして公式を示したときは驚いたものである。


それ以外にも、物理、化学もなるべく覚えることのないようにわかりやすく教えてもらう。



「ありがてぇ、これで勉強会どころか中間テストもどうにかなりそうだぜ。マジありがとう、助かった」



「はいはい、これで俺必要なくなっただろ。あとは二人で何とかしてくれ」



前田は疲れたように俺に言った。しかし、



「あ、でも、勉強会のこと仲野さんに言ったら、ぜひ前田に教えてもらいたいってさ。だからももうお前逃げれそうにないぞ」



「げっ、マジで!!」



仲野さんはお世辞にも成績がいいとは言えない。毎回赤点をいくつか取り、部活に来れない日が何度かあったものだ。まあ、美術部を少し休もうが、どうってことはないのだが。



「だからさ、未來と清水さんは俺たちが教えるからさ、仲野さんは前田、お前に任せた!」



「なんだよふざけんなよ。っていうか佐々木さんも清水さんも成績いいんだから別に教えることなんてないだろ!実質、俺が仲野に教えるだけの会だろうが」



「あはは、がんばって」



山田は苦笑いで反応する。そしてその上、俺は追加して言う。



「あ、あとこの勉強会、清水さんたちとの勉強会まで毎日やるつもりだから。そこんとこヨロシクッ!」



「は、毎日!!ふざんなよ!俺の貴重な勉強時間を削りやがって。どうしてくれるんだ!」



結局、俺自身が企画した勉強会は、俺でなく、前田に負担がのっかったらしい。









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