第9話(二人だけの時間<山田の場合>)
やばい、楽しい。
別に特別なことはしてないのに、ただ清水さんと同じ時間を過ごしているだけで、なぜか異様にテンションが上がってしまう。
俺と清水さんは祭りに参加している人にお願いして、その人の写真を撮らせてもらっている。ただの部活動に過ぎないのに、この二人だけの時間がとても貴重で、かけがえのないもののように思えた。
俺は現在、完全に清水さんとの二人だけの世界に入ってしまっている。
周りなどほとんど気にならず、にぎやかな音は、動画のBGMのようにしか感じていない。
この時の俺は完全に盲目であった。
写真を撮らせてもらった人にお礼を言い、ふと周りを見回すと、俺はあることに気が付き、急に我に返る。
「あの二人がいねぇ」
俺は小声でつぶやき、急に焦り始める。
今まで俺は、4人の中で佐藤は佐々木さんと仲良く話しているから、俺は清水さんと仲良く話しているんだといったクラスの中の友達感覚で過ごしていたが、この状況は二人それぞれ仲いい雰囲気というより、まさに二人きりである。
あの二人でどっか行きやがったなとは思いつつも、この二人の時間が続くと思うと実際はあの二人に感謝しかない。あざっす!!
俺がそんなことを思っていると、清水さんが話しかけてきた。
「あの二人、どこ行ったんだろう?」
「さあ、二人きりでどっか行っちゃったんじゃない。自由時間だし」
「そういえば、ここよりもっと奥の方にうさぎさんとふれあえるコーナーがあるらしいよ。行ってみない?」
「へぇ~、いい写真が撮れるかもね。行ってみようか」
俺たちは出店の列に沿って、奥の方へ進んでいく。結構たくさんの出店が出ており、結構な列となっている。
俺が周りの出店を見回しながら歩いていると、
「佐藤君と佐々木さんって仲いいよね」
清水さんがそうつぶやいてきた。
「たしかにね、幼稚園の頃からの仲らしいよ。長いよね~」
「実際さ、あの二人って付き合ってるのかな?」
清水さんが目を輝かせながら、興味津々で聞いてきた。
俺は清水さんの新しい一面を見たらしい。
「いいや、付き合ってないってさ、ある意味びっくりするよね」
「え、うそ!まさか佐藤君、佐々木さんの気持ちに気づいてないの!?」
あの二人とあまり面識のなかった清水さんでさえも、佐々木さんの気持ちには気づいているらしい。
「うん、たぶんね。鈍感だよな~、あいつって。この前なんかさ、彼女欲しい、リア充したいって言っててさ、少しは周りを見ろよって思ったよ」
「へぇ~、そうなんだ。私てっきりもうとっくの昔から付き合っていたのかと」
「たぶん佐々木さん、まだ佐藤に何も言えてないんだろうな」
「初心だね~」
「そうだね~」
なぜか俺たちは、思いがけない話題のおかげでラフな関係になれたのだった。
それから少し歩くと、うさぎとのふれあいコーナーに到着した。そこにはたくさんのうさぎがいる。
「かわいい~!」
清水さんはそう言いながらうさぎを抱かせてもらう。満面の笑みで抱いたうさぎを見つめ、とても楽しそうである。
俺はここ最近、清水さんのいろんな一面を見れた気がする。
高1の頃は一切見れなかった清水さんの一面に、俺は本当に何も知らなったんだと思い知らされる。
「これも写真部に入ったおかげかな」
俺はそうつぶやきながら、楽しそうな清水さんを見ていると、
「私ね、全然話す友達がいなかったんだよね」
清水さんが急に話を始めた。
「いままでさ、女子の中でできるグループみたいなのが苦手で、結構そういうのに距離を置いてたんだよね。そしたら男友達どころか女子の友達もほとんどできなかった」
なるほど、たしかに俺も陽キャの中でできるグループみたいなのは苦手だが、女子の中ではグループがあるのが普通なのか。
清水さんが女子とあまり話すところを見かけない理由がようやくわかった。
「だからね、この前の部活で山田君と話したときはすっごく楽しかったし、やっぱり私、二人きりで話すのが性に合ってるんだなって思ったよ」
「俺でよければいつでも話するよ、俺も正直そんなにグループの中に入っていくの得意じゃないから」
「いいの?ありがとう。そういえば席って前だったよね、いつでも話しかけてくれると嬉しいよ」
よし、これで気軽に話しかけられそうだ。
それから俺たちがうさぎと触れあっていると、突然、楽しい時間はあっという間だということに気づかされる。
「あ、もう集合の時間だ。急いで戻らないと」
「本当!?時間ってあっという間だな~」
「授業中とは大違いだね」
「ですね...」
清水さんは抱いていたうさぎを降ろそうとした。その時、
「パシャ!」
俺は清水さんに向かってシャッターを切る。
「えっ」
びっくりした清水さんに向かって、俺はあの時清水さんが言ったことそのまま返す。
「今日は、振り返りたいと思える日になったよ。ありがとう」
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